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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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プロポーズと最後の事件(9)

 カフェテリアは生徒達で騒がしい。授業から解放され、顔が緩んでいる生徒で溢れている。


 今日はパンやスープが人気みたい。いい匂いも漂うが、私はケイシーと向き合って座っていた。


「今日はカミル様の素晴らしいところについて語るわ」


 昨日はあれだけ大泣きしていたケイシーだったが、今日は落ち着き、もくもくとサンドイッチを咀嚼しつつカミルとの出会いを語る。


「うちの猫がいなくなって途方に暮れていたんだけど、偶然、カミル様の探偵事務所を知って。泣きついちゃったわ。でもカミル様、全然怒らない。それどころか励ましてくれたの。諦めないで一緒に探そうって」


 ケイシーの弾んだ声を聞きながら、その光景が目に浮かぶ。


 私だって妹にやられた時、復讐しろと言ってきた。決して泣き寝入りは勧めなかった。甘やかさない代わりに強くなれって言う人だ。


 私もサンドイッチを食べつつ、なぜか胸がちくんとしてきた。細かい針でプチプチ刺されているような不快感だが、ケイシーはさらに話を進めた。


「それで本当に見つけてくれたのよ。もうこんな優しい男性いないわって一目惚れしちゃったわけよ」


 ケイシーの目、生き生きとしていた。舞台上にいる時よりもキラキラとしている。恋をしている女性は可愛いのかも。マリエみたいに思い詰めてしまう前ならば。


 また胸がちくんとしてきたが、私は笑顔を作り、ケイシーに話を合わせる。


「そうね。カミルは口も悪いしお金にシビアなところもあるけれど、芯の部分では誠実なのよね。あと強い。諦めない」

「でしょう? もう本当、カミル様って素敵」


 二人でカミルについて盛り上がってしまう。これはなんだろう。まるで私までカミルのことが好きみたいじゃないか。さっき胸がちくんとしたのも、まさかケイシーに嫉妬しているのだろうか。


 いや、そんなことはないはず。カミルのことが好きだなんて、あり得ない。猫のミルクに引っ掻かれている時は情けない声を出していたじゃないの。マーサにも帳簿のミスを突っ込まれていた。そうだ、別にカミルが好きとかありえないはず。


「エステル、どうしたの? 何か一人で考え事?」

「いえ、なんでもないわ」


 私は咳払いをし、再びサンドイッチを食べる。


「それにしてもエステル、今は探偵事務所でどんなことを調べているの?」


 ケイシーは私の目を覗き込んできた。興味深々らしいが、人が多いカフェテリアで話せない。


 一旦、保健室へ行くことにした。コラリー先生も昼食のためか席を外していた。ここはカフェテリアと違って静かだ。窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえてくるだけ。


 ケイシーにカースのことを話すか迷ったが、何か知っている可能性もある。それとなくロージー先生やカースの話も出してみた。


「本当? 今そんな調査中?」

「ちょっとケイシー、そんな大声出さないで」


 ケイシーは慌てて口を押さえるが、その目は好奇心しかない。元々明るい顔立ちのケイシーだったが、余計に目がキラキラしてる。


「エステルの今までの話を総合すると、ロージー先生がカースを匿っているんじゃない? ロージー先生はカースに夢中だった。なんらかのきっかけで逃亡中のカースをも見つけ、これはチャンスとばかりに匿ってる。どう、この推理は」


 面白がっているケイシーだが、その推理には一理あった。意外と筋が通ってる。


「じゃあ、この手紙は? この手紙はケイシーじゃないのよね?」


 私は例の手紙を見せる。


「私じゃないわよ。カースなんて報道以外のことは知らないもの。エステルがカースの聞き込みやっていることも気づいて送りつけたんじゃない?」


 ケイシー、冴えてる。名推理といってもいいじゃないか。


「じゃあロージー先生が美女コンテストに出ようと言ったのも、特訓されたのも、もしかして私をカースの調査から引き離すため?」

「その可能性大じゃない! じゃあ間接的にロージー先生が私の美女コンテスト優勝を奪ったようなものじゃないの。ロージー先生、許せん!」


 ケイシーは地団駄を踏んでいた。何やら斜め上からの方面で恨まれてるロージー先生だが、これでケイシーに火がついてしまった。


「私たちでロージー先生捕まえようよ!」

「え、証拠もないのに? それにカミルに相談した方が……」

「ロージー先生を捕まえたら、カミル様が私のことを好きになってくれるかもしれないし!」

「え、そう?」


 なぜだかわからないが、ケイシーと二人でロージー先生を捕まえることになってしまった。


 今日の放課後、まず下駄箱に張り込み、ロージー先生を尾行するという。ケイシーはやる気満々だ。ついた火は全く消えそうにない。


「で、でも二人だけで大丈夫? 本当にカミルに相談したほうが……」

「いいえ! もう頭にきたから。ロージー先生をこの手で捕まえるから!」


 ケイシーを止められそうにない。それに、今は学園内にいる私たちのほうがロージー先生を捕まえられる? 可能性はゼロじゃない。


 私もケイシーの火がうつってしまったらしい。やる気になってしまった。


「いくわよ、エステル! ロージー先生を必ず捕まえるからね!」

「ええ!」


 放課後、私たちは下駄箱に張り込んでいた。ケイシーも一緒にいるし、美女コンテストでつけた度胸もある。意外と怖くなかった。

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