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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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プロポーズと最後の事件(8)

 あの後、ケイシーを保健室へ連れて行った。実際、顔色も悪かったし、コラリー先生に相談するのが良さそう。


 もっとも私はケイシーから事情を聞きたいわけだから、一緒に歩いていても連行っぽい雰囲気になってしまった。ケイシーは一言も話さず俯いいてるから余計に。美女コンテストのステージで花が咲くように華やかだったケイシー。今はしおれてしまった模様。


「あらあら、ケイシーかい」


 コラリー先生はケイシーを見ても驚かない。むしろ納得したように頷き、ハーブティーを飲ませていた。


 保健室にカモミールやラベンダーの匂いが広がり、空気は柔らかだ。コラリー先生は目尻に皺を寄せて笑っていたが、ケイシーは無言。ずっと無言だった。これは黙秘を貫くかもしれない。


 保健室から見える窓の外、すっかり夕暮れだ。青とオレンジ色が混じり合った空は、ラベンダーの色に似てる。


 コラリー先生は特に何も言わず業務日誌を書き始めた。カリカリと鉛筆の音だけが響くなか、私はハーブティーをすする。


 落ち着く味だ。もうケイシーに怒りなどはない。一応罪悪感はあるらしいし。


 それにしてもなんで嫌がらせなんてしたのだろうか。同じ美女コンテストの出場者、マギーからは面と向かって悪口を言われた。思えばマギーは裏表は無さそう。陰でコソコソするタイプにも見えない。一方、ケイシーのやり方は陰湿だ。余計に動機が気になる。


 本命はロージー先生だったが、ここはケイシーから事情を聞こう。といっても事情を話してくれるとは思えない。話題を迂回させることにした。


 美女コンテストはロージー先生の頼みで出場したこと。本当はやる気はなかったこと。演技審査も探偵事務所の経験が生きただけだと事情を話す。


 探偵事務所のことを話すのは気が重かったが仕方ない。事情を丁寧に説明するためには必要だった。


「それにケイシー、美女コンテストの舞台は素敵だったと思うわ。ダンスに華があった。演技審査がなければ、ケイシーの優勝だったわ、きっと」


 素直に感想を言っただけだったが、ケイシーは目を潤ませていた。本当に小さな声だったが、一応「ごめんなさい」と口を動かしているのは確認できた。


 まあ、良いか。本命はロージー先生だし、ケイシーの件は正直どうでも良いのが本音だったが、コラリー先生にも促され、ケイシーは事情を語り始めた。


「わ、私。美女コンテストに賭けていたんです」


 ケイシー、美女コンテストに本気だったらしい。去年も演技審査で落ちたから、今年はどうしてもリベンジしたかった。


 美女コンテストなど全く出場したくなかった私。ケイシーの事情を聞いながら居心地が悪い。こんなに本気だった子を前にすると、どう反応して良いのかわからない。


 その上、ケイシーは爆弾発言を投げてきた。


「私はカミル様が好きだったんです!」


 その声だけやけに大きく、保健室に響く。


「カミル様って……。あの探偵事務所所長のカミル!?」

「そうですよぉ! 私の片思いだけど好きだったんです。それなのに、あなたが突然現れて探偵助手にまでなって」


 子供みたいに泣いているケイシー。チャームポイントのそばかすも涙でびしょびしょ。


「カミル様が私んちの猫を見つけてくれたんです。もう三か月も行方不明だったから、諦めていたんですけど、カミル様は必死に探してくれた。もうこんなの好きになるでしょ?」


 カミル、なんという罪深いこと……。確かにカミルだったら依頼には手を抜かないし、最後まで諦めない。その姿は目に浮かぶ。ケイシーがカミルを好きになった理由、共感できてしまったから困る。


「だから美女コンテストに優勝したらカミル様に告白するつもりだったんです! それなのに優勝も助手もあなたが奪ってしまった。悔しくて悔しくて」


 ケイシーの嗚咽だけが響く。困った。ケイシーの気持ちだけは分かってしまい、私はオロオロすることしかできない。嫌がらせをしてしまうのも無理はないが、コラリー先生は大笑いしてた。


「ケイシー、恋をしたんのなら正攻法で堂々とやりな。そんなエステルに嫌がらせしてカミルって男が振り向くんか?」

「わーん! コラリー先生の意地悪! 嫌い!」


 おかげでケイシーはワンワン泣いていたが、ずっと泣いていたら飽きてきたらしい。目元は腫れ上がって痛々しく、ちょっとかわいそう。とりあえず私、ケイシーに怒っていないと伝えた。


「こんなことしたのに許してくれるの? エステル」

「もう二度としないのなら。あと私も毛虫は嫌いだけど、こんなことに利用される毛虫が気の毒かもよ?」

「そっか。毛虫、ごめん」


 私たちの会話にコラリー先生は大笑い。腹を抱えて笑い、私たちも釣られて笑ってしまった。


 三人でハーブティーを味わい、クッキーも齧っていると、すっかり打ち解けたムードになった。ケイシーの涙もピタッと止まっていた。


 それにケイシー、カミルの知り合いでもあるし嫌いにはなれない。もしかしたらロージー先生の件も何か知ってる可能性もある。こうして一緒にお茶も飲める。友達になれるかも。


「ケイシー、明日も一緒にお昼しない?」


 そう誘うとケイシーは目を丸くしていたが、すぐに頷いた。


「いいわね。カミル様の良さについてたくさん語りたいからね! あなたにも聞かせてあげるから!」


 鼻の穴を膨らませ、気が強そうに見せているケイシー。コラリー先生は手を叩いて大笑いし、私も苦笑してしまった。


 

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