プロポーズと最後の事件(5)
まさか美女コンテストで優勝してしまうなんて。そうだ、これは夢だ。夢に違いない。
「はぁ……」
翌日、伯爵家の自室で目覚めた。天蓋つきのベッド、寝心地は最高のはずだが、パジャマの襟元は汗で滲み、目覚めはよくない。何か悪い夢を見たような気がする。
「そ、そうよ。美女コンテストで優勝なんて夢だって」
そう、あんな美少女コンテスト優勝なて夢だ。悪夢だ。いつも通り、学校に行き、授業をこなし、探偵事務所に行く日常を送ろう。詐欺師のカース・キューデの行方不明だし、そんな悪夢に気を取られる必要はない。ないはず!
自分に言い聞かせてベッドに起き上がった。その瞬間、全く笑えなくなった。机の上に美女コンテストの優勝の証、トロフィーもあった。朝の光を受けキラキラ輝いていた。
「あー、夢じゃなかったのね……」
頭を抱えてしまう。こんな結果になるなんて想像もしていなかった。昨日の夜、お父様はこの結果を知り「伯爵家の恥!」と怒り散らし、大層機嫌が悪かった。
私からすると不倫を繰り返すお父様の方が恥だけど、言い返せない。こんな風に目立つことは避けた方が良かったか。それに探偵事務所の仕事にも支障があるそうで胃が痛い。もうカース・キューデの聞き込みは難しいかもしれない。
カミルには会えていない。あの後、たくさんの人に囲まれ、騒がれ、どうにか伯爵家に辿りついた感じ。同じ美女コンテストの出場者たちからが睨まれ、優勝候補だったマギーからは面と向かって悪口を言われた。「あんたみたいなブスが!」と。
美女コンテストに優勝したからといっても全く嬉しくない。それどころか憂鬱だ。元々目立つのも好きじゃないし……。
「はぁ……」
ため息しか出ないが仕方ない。こんな状況でも授業がある。身支度を整え学園に向かった。
昨日は学園祭で飾り付けられ、賑やかだった学園だったが、もう全てが撤収されていた。美女コンテストの特設ステージも消え、いつもの学園の様子にホッとする。
それにクラスメイトたちはいつも通り接してくれてる。朝の挨拶をしただけでこんなに安堵するなんて。
「おはよう」
思わず私も涙目で挨拶し、下駄箱で靴を履き替えようとした時。そんな安堵も一瞬で砕け散った。
「な、何これ?」
下駄箱の中、ゴミだらけだった。玉ねぎの皮やパンの袋、毛虫の死骸まで投げ込まれ、思わず息をのむ。
手紙も入っていた。複数枚あり、どれも筆跡が違う。「ブスのくせに!」というストレートな悪口もあれば、妙な手紙も混ざってる。「カース・ギューデについて調べるな」。
「これは何?」
涙目どころか本当に泣きたくなってきたが、ぐっと奥歯を噛み締めて我慢した。ここで泣いたら、嫌がらせの犯人に負けたみたいじゃない。
もし、ここでカミルがいたら、絶対に私を慰めない。そてどころか「復讐しろ」とけしかけてくるだろう。実際、初めて会った頃もそうだった。
それにカース・キューデについて書いてる手紙も気になる。そこだけ違和感が強い。
他のゴミは全部捨てたが手紙類だけはとっておいた。授業の合間、この手紙を見ながら考える。単なる悪口の手紙は美女コンテストの他の出場者か、その関係者だろうが、なぜカース・キューデについて言及されてるのだろう?
しかも相手はカース・キューデの調査中だと気づいているらしい。この情報は限られた人しか知らないはず。
カース本人か、彼の逃亡を手助けしている人物からの手紙?
背中が冷えてきた。まさか……。
これは放課後、カミルに報告しに行った方がいいかもしれない。学園内にも手がかりがありそうだって。
おかげで今日の授業、全く頭に入ってこなかった。早く放課後になって欲しいと焦ったいぐらいだった。
五限目終了のチャイムが鳴ると、手早くテキストやノートをカバンにつっこむ。早歩きで下駄箱に向かい、靴を履き替える。今の下駄箱は通常通りだ。どうやら手紙の犯人は朝に手紙を入れたらしい。
早歩きで校門に向かう。校門も急いで抜けたかったが、なぜか人だかりができていた。他校の男子生徒がいっぱいいる。
「君が美女コンテストの優勝者か!?」
「いや、パッと見は地味だが、素材はいい!」
「タイプじゃん!」
「さすが美女コンテスト優勝者!」
なんと他校の男子生徒、噂を聞きつけ野次馬に来たらしい。品定めするような視線を向けられてしまう。明らかにスケベっぽい目をした男子生徒もいる。
その上、あっという間に彼らに取り囲まれ、身動きもできない。握手も求められ、どうして良いかわからない。
やっぱり美女コンテストなんて出るべきじゃなかった。後悔しかなく、泣きそうだ。こんな結果になるなんて全く予想できなかった。
「エステル!」
気が遠くなりかけたが、自分の名前を呼ばれた。その声、聞き覚えがある。探偵事務所でよく聞いた声だ。
すぐに現実に引き戻され、顔を上げると、カミルが立っていた。
仕立ての良いスーツを着こみ、ちゃんと髪もセットし、姿勢もピンとはっていた。靴もピカピカに磨かれてる。すっかり忘れてたが思い出す。カミルが公爵家の子息ってことに。
「カミル! どうしてここに?」
「お嬢様、お迎えにあがりましたよ」
カミルは恭しい態度だったが、他校の男子生徒たちは波が引くように逃げた。
「どういうこと?」
「まあまあ、とりあえず馬車にのって探偵事務所までいこう!」
カミル、口元が綻んでいた。何が嬉しいのかさっぱりわからない。
それでも私、またカミルに助けられてしまった。昨日のコンテストだけじゃなかった。それが嬉しいのも事実。私も少しだけ笑ってしまっていた。




