プロポーズと最後の事件(4)
いよいよコンテストが始まった。花で彩られた舞台上で自己紹介からスタート。
もう審査始まってる。審査員の席には学園長までいるじゃないの。そんなの聞いていない。
客席も熱気が溢れてる。特に学園一番の美女と有名なマギー・アドラムにはファンもいるらしい。声援を送り、その声が会場にガンガン響く。
今日は学園祭だ。ここの生徒だけでなく、保護者も応援に来ている出場者も多そうだ。一方、私の父はあの事件のせいで人前に出られず引きこもり状態だったけれど。
つまり私の応援者はいない。ロージー先生も今日は裏方として働いていたし、仲の良い友達も出店やブラスバンドの出演で忙しい。あの事件で仲良くなったアクレシアにも一応この件を報告すみだが、会場にはいないようだ。
「エ、エステルです。よろしくお願いいたします……」
涙が出そうな状況だが、自己紹介も終わり、次はダンス審査だ。これはケイシー・エモニエという出場者が圧巻だった。
家は庶民らしいが、元々ダンスの才能があり、ダンスコンテストの常連らしい。顔立ちもパッと華やかだ。そばかすが浮いた肌も親しみやすくチャームポイントになってる。ステージ上にいるケイシーはまるひまわりの花みたい。眩しすぎる。拍手もずっと止まらない。
ケイシーの後でダンスをする私。公開処刑という感じ。客席の熱はさっと冷え、真夏から冬のような空気。心なしか審査員たちの視線も厳しく、私は笑顔を作るだけで精一杯。もうロージー先生から受けた指導など全部忘れたし、ひらひら系の衣装も居心地悪くて仕方がない。
次は語学や一般常識の審査。これは暗記でどうにか乗り越えられた。元々勉強は嫌いじゃなかったし、少し余裕も感じられるほどだ。気づくと客席にはアクレシアの姿もあった。ようやく友達を見つけ深く息ができるほど。
審査は順調に進んでいき、最後に演技審査となった。
演技審査は事前にどういうことをするか聞かされていない。もちろん、台本などもない。
「次は大トリの演技審査です! ここで何をするとおうと、私がお題を発表しますので、アドリブで演技してください!」
司会者の声が響く。同時に出演者からのどよめきも響く。これは予想外の審査だ。まさか台本もないのに演技?
無理だ。台本があっても難しいのに、即興で演じるなんて。
実際、優勝候補のマギーも舌を噛み、ろくに演技もできていない。客席から声援は響くがマギーは顔が真っ赤。涙もこぼれ、鼻水も出てる。せっかくの美女が台無しじゃないか。
ケイシーは堂々としたものだったが、演技は棒読みだ。元々嘘が苦手な性格らしい。「何をやってもケイシー」状態になってしまい、審査員の顔は険しい。案外、客席では受けていたのは救いだ。
他の出演者も似たような状況だった。セリフに詰まったり、声も出せずに棒立ちの出場者もいるぐらい。即興の演技の難しさ、ステージ袖で見ている私でも実感するほどだったが、ついに私の番号が呼ばれた。演技審査では一番最後だったが、緊張して頭は固まってる。棒立ち状態になった出演者を笑えない。
しれでも第一のお題は簡単だった。お題は「メイド」。これだったら探偵事務所の潜入調査で何度もやって来たじゃないの。
審査員の視線が突き刺さる中、深呼吸し、今はメイドとして潜入調査中だと何度も自分にいいきかせた。
こうして第一のお題は最後まで演じ切れたが、すぐに第二のお題が発表。お題は「悪女」だった。そのお題を聞いた瞬間、また頭が固まりそうだったが、すぐに冷静さを取り戻した。悪女といえばセシリア妃。あの姿を真似すればいいんだ。
まずはセシリア妃のように表向きの良い顔を作り、その後、裏の表情を作り二面性を表現した。
「私は自分のことしか考えていないわ。そこのメイド! 私のやり方に邪魔をしたら絶対に許さない!」
セシリア妃がいいそうなセリフを即興で作り、つんと顎をあげ、腕を組む。
そう、今はセシリア妃。あの野心家で自己中心的な悪女。そう自分に言い聞かせながら、どうにか第二のお題も終わらせた。
もうこの時、私のテンションもちょっと上がってきた。最後の第三のお題も何でも来たらいいと自信も出てきた。そんな私の気持ちに比例するみたいに、客席も温かくなってきた。全然知らない生徒や保護者が私へ声援を送ってくれている。
しかし、そんな余裕も一瞬で砕かれた。最後のお題は「恋に悩むヒロイン」だった。何このお題は。恋に悩むって何?
喉が固まってしまい、声が出ない。そんな様子どう演じたら良いのかわからない。パニックになりかけた時だった。
「えっ?」
客席にカミルがいる!
一番後ろの列にいた。薄暗い客席なのに、なぜかそこだけ光って見えるから不思議。しかもカミル、口を動かし何か伝えようとしてる?
その口の動き、まさか「マリエ」と言ってる?
すぐにピンときた。そうだ。あの恋に悩む依頼者・マリエを真似して演じればいい!
私はすぐに体勢を立て直し、マリエになりきった。目を伏せ、悩ましい表情を作り、ため息。目も潤ませながら、マリエが思いつめていたシーンを思い出す。
「私はあの方の為だったら不幸になってもいいわ……」
マリエが言いそうなセリフを即興で作り、どうにか最後のお題も乗り越えた。客席からは拍手が溢れ、カミルも笑顔だった。一瞬カミルと目が合い、頷くしかない。これはカミルのおかげで助けられたようなものだから。
そうして審査が終わるまで一旦、控室に撤収したが、なぜか会場からは拍手が鳴り止まない。「伯爵令嬢エステルをもう一度出して」という声も響いていた。いや、これは何? 私の聞き間違い? 疲れていて幻聴でも聞いた?
身体が震える。まさかこの最後の演技、好評だったのだろうか。心なしか控室にいる他の出場者の視線が痛い。特にマギーやケイシー、刺すように睨んでる。
「い、いや、まさか……」
嫌な予感がさらに大きくなって消えない。冷や汗が流れる。まさか、この展開って……?
その嫌な予感、的中してしまったと悟った。審査結果が出た。私だけステージに呼ばれているのは、なぜ?
「優勝は伯爵令嬢のエステルです! 他は平均値でしたが、最後の演技が抜きん出ていました。あの恋に悩む女性の演技が素晴らしかった。おめでとう、エステル」
学園長から花束とトロフィーを渡され、会場はさらに拍手と歓声に包まれたが、これって何?
夢だ。何かの悪夢であって欲しいが、どうもリアルらしい。渡されたトロフィーがずっしりと重いし、花束からは薔薇や百合の匂いがする。
「おめでとう、エステル!」
学園長の声、もう遠くに聞こえてる。
まだ客席にカミルがいた。ニヤニヤ笑ってる。その笑顔、初対面の時みたいに意地悪だった。




