プロポーズと最後の事件(2)
私、やっぱり世間知らずだったみたい。
「あぁ、もうカース・ギューデの情報なんて何も出てこない。報道されている情報しか知らない」
カミルはそう言い、ため息をこぼす。ブラックコーヒーみたいに苦いため息だった。
あのオドレイの依頼された日から調査に入っていたが、今のところめぼしい情報はない。探偵事務所の休憩室でため息をつくばかり。
マーサは趣味の編み物をしながらニコニコし、猫のミルクもオモチャで遊んでいたが、空気は軽くない。
「カミル、とりあえずカース・ギューデの新聞記事をまとめてみたけど」
こんな状況にはやっぱり自分は世間知らずだったと思ったが、一応できることはやってみた。とりあえず新聞記事を探し、切って貼ってまとめてみた。記事にはカース・キューデの似顔絵も掲載されていた。三十代ぐらいの男で美男子。髪が長く、目の下のクマが目立つせいで胡散臭い雰囲気ではあったが、モテそうだ。
こんな新聞記事を一冊のスクラップ帳にしてみたが、カミルの表情はちょっと明るくなった。
「たいした情報はないと思うけど」
「いや、エステルありがとう。気がきくな」
「そうですよ。エステルお嬢様は優しいんです。カミル様は幸せですねぇ」
なぜかマーサ、ぞう言ってニヤニヤしていた。一方、カミルは咳払い。妙な空気が漂い始めた。
「カミル様はエステルお嬢様みたいな方と一緒になったら、絶対幸せになれますのに」
マーサ、もう春は終わったはずなのに変に浮かれている?
カミルはさらに咳払いし、妙な空気は一層濃い。それにマーサの発言はなんだろう。まるで私とカミルをくっつけようとしているみたい。前にもこういう雰囲気があったが解せない。いつもはおっとりと優しいマーサだが、時々まったく読めない時がある。
「いや、マ、マーサ。それはいいがお茶でも入れなおしてくれ」
カミルは相変わらず咳き込んでいた。顔も赤い。もしかしたら私と一緒になるとか言われ、不機嫌になったのかも。私より格上の家のカミルだし、意外と家柄や身分も気にしているのかもしれない。
「でもカース・ギューデについて私も何か調査したいわ。学校で軽く聞き込みでもやってみようかしら」
ふと、そんなアイデアも思いつく。確かに学校では探偵事務所で働いているのは秘密だ。とはいえ、何か噂も流れているかもしれない。学校では貴族の子息やお嬢様も多いし、街で得られない情報、見つかるかも?
「おぉ、それはいいアイデアだ」
カミル、もう動揺はしてないらしい。いつものように戻り、学校で聞き込みは賛成された。
「ただし、さりげなく聞け。探偵事務所で調べていることは悟られないように」
「ええ。もちろんよ」
こうしてカミルから聞き込みの注意点やコツなども教えてもらい、翌日、それとなく聞き込みを始めた。
まずは女子トイレだ。貴族のお嬢様たちもトイレでは普通の女子に戻り、噂話に興じたりしている。
私もナチュラルにその輪の中に入り、カース・ギューデの話題を出す。
「怖いわよね。一度捕まったのに逃亡しているなんて。カース・ギューデはどこにいると思う?」
私の言葉に貴族のお嬢様たち、怖がっていた。見た目は金髪や巻毛の派手目なお嬢様方だったが、中見は普通の女子なのかもしれない。
「そういえば私、カースの噂を聞いたことあるわ」
その中の一人が発言していた。確か一年生の男爵令嬢のエリスだった。この中では一番地味なお嬢様だったが、好奇心が抑えられず、口元が少し緩んでいた。
「私の家のメイドが六番地区や貧困街の側でカースを見たって言ってたの。もしかしたら誰かに匿われているんじゃない?」
エリス、もうこの噂を話したくてたまらない様子。私も身を乗り出し、耳をそばだてる。
「あの男が浮気性っていう噂は本当。私の知り合いの知り合いもカースの餌食になったってきいたから」
「エリス、本当?」
「ええ、メイドの知り合いの親戚の友達も騙されたって言ってたし!」
その後、エリスとお嬢様達は噂で大盛り上がりだ。ただ、この噂については真意は不明だ。
それにしても六番地区で目撃されているのは有力の手がかり。これは嘘でもなさそうだし、こっそりメモにとると、後でカミルに報告することにした。六番地区はセシリア妃の調査で行ったこともあるし、何か手がかりが見つかればいい。
その後、カフェテリア、図書館、理科室、体育館、テニスコートなどを巡り噂を収集し、それとなく聞き込みをしてみたが有力情報はなし。
特に体育館では初夏の学園祭や準備や会議をやっているらしく、あまり話も聞けなかった。今年は美女コンテストも開催するらしく、出場しないかと勧誘も受けたが、それどころじゃない。急いで教室へ逃げ帰った。
気づくともう放課後だ。教室には私以外、誰もいないが教卓にはファイルの山がある。おそらくロージー先生の仕事だろう。少し手伝っていたら、ロージー先生が登場。
「エステル、ファイリングありがとう!」
笑顔で喜ばれるぐらいだ。ロージー先生、学園祭の美女コンテストの運営の仕事もあり、いつもより忙しいらしい。
「そうだ、エステルも出場してみない?」
「え?」
それは体育館でも勧誘をうけ、丁寧にお断りしたものだが、出場予定の生徒が急遽体調不良となり、ロージー先生も困っているという。
「お願い、エステル! 美女コンテスト、エステルだったら優勝できると思う!」
そう言われても……。それよりカース・ギューデの調査もある。こんな調査をしている時、目立ちたくないもの。
「お願い! 本当に困ってるのよ!」
泣きつかれ断りにくい雰囲気だ。それに私が出場したとしても他に可愛い子は学園にいっぱいいる。予選敗退が関の山だろう。何より困っているロージー先生を見ていたらかわいそうになってしまった。
「わ、わかりました。出場しようと思います」
そう言った瞬間、ロージー先生は飛び上がるほど喜んでいた。
「ありがとう、エステル! さあ、さっそく演技やダンスのレッスンもしましょう!」
え!?




