シンデレラ妃の成り上がり事件(7)
翌日、実に春らしい天気だ。空の雲は綿菓子のよう。日差しも限りなく温かいが、探偵事務所では今後の調査について計画中だった。
「さてエステル、マーサ。結局、第五王子様は浮気していたが、どうする? このまま証拠を漁るか?」
やはりカミルがリーダーだ。今後の方針をざっくりと決めるが、私はわからない。このまま証拠を探すべきか。そもそも当初の目的であるセシリア妃の弱みからズレて来たし、ご老人の情報も気になる。第五王子様のゴシップを追うのをやめるよう手紙が届いた件が特に。
「何かセシリア妃が匂いますねぇ。地元の噂によると、案外野心家で気が強い。いじめの証拠もでっちあげて仕返しとか、絶対敵にしたくないですわ」
マーサはお茶お飲みながら、小さく震える。
「一番怪しいですよ、セシリア妃が」
「マーサ、その証拠は何かね?」
カミルはメガネを掛け直しながら、案外優しく問う。
「なんとなくです。年の功ですかね。怪しい人は匂います。当初の目的通り、第五王子じゃなく、セシリア妃の弱みを探した方がよくないですか? 絶対そっちのが良いですよ」
案外、頑固なマーサ。カミルに何か言われても自分の意見は簡単に曲げない。
「確かにマーサの言う通りよねぇ。地元の噂を聞く限り、セシリア妃、もっと大きな弱みあったりするんでは? まだセシリア妃が働いていた病院や介護施設には調査していないし、次はそこに行くのは?」
「まあ、エステルの言う通りだな。次はその調査しよう」
なぜかカミル、マーサの意見には渋いのに、私の意見にはあっさり折れた。わからない。どうも変だ。今のカミル、妙に優しい人だと感じてしまう。
また頬が熱くなり、心臓も高鳴ってきた。何これ。昨日のこと、思い出しそうで戸惑う。正直、狭いこの探偵事務所で会議しているの居心地良くない。ちょっと逃げたいぐらい。
ちょうどその時だった。来客があった。依頼者のアデライドだった。
「探偵事務所の皆様、ごきげんよう」
今日はピンク色のドレス姿だ。イヤリングも相変わらず派手なものが揺れていたが、猫のミルクを見ても今日は嫌がっていない。
素直に応接室に向かい、しばらく話すことに。もちろん、カミルは調査の進捗を説明した。
「ということで、セシリア妃の実家を調査したところ、いじめっ子に仕返ししていたらしい。しかもいじめの証拠もでっちあげたりしていた。また、第五王子の方もどうやら浮気をしているらしく……」
カミルは一生懸命説明していたが、アデライドの方は虚な目だった。カミルの説明もろくに聞いていないようだ。
「アデライド様、大丈夫?」
思わず声をかけてしまったが、同時にアデライド、悩んでいるらしかった。
「実は数日前、元魔術師のカース・ギューデという男に声をかけられたの。復讐を代行してやろうって。しかも無料で。だったらもうセシリアのこと、そうしようかしらねぇ?」
またアデライドのイヤリングが揺れたが、私とカミルは思わず顔を見合わせた。元魔術師のカース・ギューデ。確か詐欺を働いていると注意勧告のチラシを受け取っていた。
もちろん、止めた。カミルもチラシを引っ張り出し、被害者が多数いると説明。
「え、そうなの……? 復讐代行なんて詐欺?」
「そうです!」
私は必死に止めてしまう。目の前で騙されそうになっている人、放っておけるはずない。
「そ、そう……」
「そんな復讐はダメだ。大丈夫。悪事は必ず表に出るし、我々もできる限りセシリア妃の調査を進めようと思う」
カミル、子供に諭すような口調だった。
「人を呪わば穴二つだ。アデライド、君も不幸になるぞ」
「そうねぇ。やっぱり正攻法じゃないとダメね」
アデライドも子供のようにコクンと頷く。見た目は派手に見えるが、根っからの悪人には見えない。
「そうねぇ。私は悪評を晴らしたいだけだったわ。もっと言えば単純に幸せになりたいだけ。セシリアを復讐とか攻撃する意図はなかった。ええ、それにセシリア、浮気されているなんて。せっかく結婚して幸せになれたと思っていたのにねぇ……。可哀想に」
そのアデライド、無表情だ。本心でセシリア妃を憐れんでいるのか、それとも嫌味を言っているかはわからない。
ただその話を聞いているカミル、笑えるのを堪える顔を見せていた。カミルはアデライドが嫌味を言っていると解釈したらしい。
「アデライド、なかなか君も強い女だな。そうだ、セシリア妃の為に君が不幸になる必要はない。こちらは調査を続けるから、復讐代行なんか無視してください」
「ええ、そうね。その件は忘れるわ」
アデライドはここでようやく笑顔を見せ、探偵事務所を後にしていた。
「それにしても元魔術師の復讐代行か。全くこの世の中、どうかしてる」
カミルは深くため息。
「アデライド様は大丈夫かしら。私はマーサみたいにカンはないけど、悪人って感じには見えないかも」
「俺もそう思う。俺もやっぱりセシリアの方が怖いねぇ。絶対敵に回したくないタイプだ。第五王子も頭が上がらないんじゃないか?」
カミルはわざとらしく身震いしていた。
この時はまだ私たちも呑気だった。セシリア妃の調査を続けようと計画していたし、それもうまくいくだろうと楽観的だったが。
マーサがこの応接室にすっ飛んでくるときまでは。マーサの顔は真っ青だ。いつもの優しそうな表情、全部消えてる。
その右手には手紙があった。
「大変ですよ! カミルさま、お嬢様! たった今、郵便受けを確認したら、こ、こんな手紙が……」
マーサがその手紙を見せてきた。それは手紙と呼んでいいのか謎だった。普通そう呼ばない。脅迫状と呼ばれているものとそっくりだったから。
「は? 第五王子の調査を辞めろ。さもないと探偵事務所の所長、カミルを殺す? って何、この手紙は。俺って殺されるのかい?」
一方、当事者のカミルは呑気だった。手紙、いや、脅迫状を見つめ、薄く笑ってるぐらい。




