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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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シンデレラ妃の成り上がり事件(6)

「それにしても第五王子は護衛もほとんどつけず、変装して浮気しているなんて本当かしら。王族のイメージとしてこれでいいのかしら?」


 私は思わず呟いてしまう。


 あの後、雑誌記者のご老人から情報を聞き出し、さっそく調査中だった。まずは第五王子の密会疑惑がある六番地区へ来ていた。


 ここは一応王都だが、貧困外にも近く、治安もあまり良くない。風俗店も立ち並び、居酒屋も目立つ。今は昼間なので酔っ払いはいないが、いかにも柄の悪そうな男も歩いていた。


 もちろん、こんな地区で伯爵令嬢らしい格好はできない。私は庶民らしいワンピース、カミルは相変わらず作業着に身を包んでいた。この格好、カミルはお気に入りのようだが、確かにここでは違和感がない。


「まあ第五王子といっても側室の息子だし、王宮の中では一番地味で扱いは悪い。もちちん、王を継ぐこともないと言われてる。はなっから期待されていないしな」

「だからってこんな場所で浮気しているとか」


 信じられない。ご老人の情報では、時々浮浪者の変装もして密会しているとか。確かに貴族の中には変わりおいてわざと浮浪者の格好を楽しむ人もいると聞いたことはあるが、第五王子様も似たようなことをしているとか予想を超える。やはりリアルは劇みたいに筋書き通りにいかないらしい。劇の中ではセシリア妃は結婚してハッピーエンドになっていたが、果たしてリアルでは?


 そんなことを考えつつ、酒場や食堂に入り、第五王子様の噂を収集した。特に酒場の主人は気さくでベラベラと勝手に話すぐらいだ。


「ああ、そんな噂聞いたことある! 確か娼婦のアイリスと付き合っているっていう噂。いや、噂だよ! 確証はない!」


 酒のケースを店内に運びながら、大声で語る。正直なところ、こんな大声で話されると困る内容だが、あっさりと噂が聞けた。次はそのアイリスの家に行こうとカミルにも目配せした。


「ところでお前さんたち、アレか? カップルか?」

「え?」


 なぜか酒場の主人、私たちをジロジロ見ながら、ニヤついていた。


「お前さんたち、お似合いだわ。なんか二人とも顔が整っているし、本当に庶民?」


 ぎくりとした。さすが客商売で色んな人を見ているだけある。私たちの正体、バレてる?


 一方、カミルは涼しい顔だ。全く動揺していない。それどころか、くすりと笑い、本当にカップルだって言うじゃない。


「ええ、我々は付き合っております」


 困った。なぜカミルがこの酒場の主人の話に合わせているのだろか。そんなカミルとカップルとか一度も想像すたことないし、調査中にそんなこと言われても恥ずかしく、思わず下を向いてしまう。


「カ、カミル。なんでさっきカップルとか言ったの?」


 酒場を出るとさっそくカミルに文句を言ってしまう。


「あの場合、わざわざ兄弟とか言っても逆に怪しまれるだろう」

「そうかなぁ?」

「まあ、いいだろう。とにかくあの主人に聞いたアイリスって女の家まで行こう」


 カップル扱いされて恥ずかしいのに、カミルはさらっと話題を流した。もうその話題、終了した模様。早歩きでアイリスという女のアパートメントの前まで向かう。


 木造もアパートメントだった。あちこちボロボロだ。たぶん、雨漏りもしていそうだが、玄関周辺には鉢植えやオリーブの木もあり、丁寧に使われている雰囲気だ。郵便受けも手作り感があり、素朴だ。おそらく貧困の家だろうが、荒んだ雰囲気はない。


「へぇ、ここが浮気相手疑惑のアパートか」


 カミルはそんな郵便受けに興味深々だ。アイリスの部屋も203号室だと把握。


「本当に浮気なんてしているのかしら?」

「とりあえずここでしばらく待ってみるか」


 私たちはオリーブの木に隠れ、アイリスが帰ってくるのを待つ。酒場の主人によると、アイリスは色黒で髪も黒い。背も高く、黒薔薇のような雰囲気の女性と証言していたが。


 待つこと一時間。その間、今後の調査計画やセシリア妃の実家の件など語っている時だった。人影が見えた。


「あ!」


 アイリスらしき女性だ。しかも男性も一緒だ。腕を組んでいた。


 咄嗟にオリーブの木の影に隠れて、二人の様子を観察。驚いた。アイリスの隣にいる男、第五王子じゃないの。今は浮浪者っぽいボロボロなコートを身につけていたが、顔つきは見覚えがある。目が小さく地味な顔立ちだったが、確かにこの顔、第五王子だ。


 隣にいるカミルと目配し、頷く。


「やっぱり浮気していたか」

「でもカミル、私たちは目撃しただけで決定的な証拠はないわ」


 二人が部屋に入ったのを見届けると、ようやく会話をする。


「だったら証拠を探せばいい。アイリスのゴミを漁る」

「え、まさかこのゴミ漁るの?」


 私は止めたがカミルはアパートメントのゴミ捨て場まで直行するではないか。生ごみの匂いがする。思わず顔を顰める。カミルも同様だ。カミルも腐っても公爵家の子息だ。そこまではできない。それにゴミを漁るのも法律違反だ。


 結局、このまま退散かと思った時だった。急に背中がぞくっとした。


「あれ?」


 誰かの視線を感じる。誰か見てる?


 それは私だけでなくカミルも同様だったらしい。


「エステル、逃げるぞ!」


 走り出していた。しかも私、カミルと手を繋いでいた。


 どっちから繋いだのかは忘れてしまった。気づいたら二人、手繋いで走っている。


 手からカミルの体温が伝わる。頬も熱い。これは走って息が切れているせい?


 わからない。誰がみていたのかもわからないし、私の頬が熱い理由も全く分からないが、とにかく走っていた。全速力で。


 気づくと探偵事務所の近くにいた。ようやく手が解けたが、立ち止まって息を整えてるのにまだ頬が熱い。その上、心臓もドキドキいってる。カミルは平然としていたけれど、いつもと調子が狂ってしまう。


 これも全速力で走ったせい?


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