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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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シンデレラ妃の成り上がり事件(5)

 翌日、探偵事務所に帰ってきた私たち。セシリア妃の調査ついでに買った野菜、パンなども持ってきたが、マーサは困り顔だ。


「カミル様、お嬢様。こんなに野菜のパンも食べられませんよ。全部美味しそうですし、民芸品も可愛いですけれど……」


 マーサのお土産にしても量が多い。予想できたことだが、カミルは髪をかきむしり、ため息をつく。


「マーサ、適当に捨ててくれ」

「まあ、カミル様。そんなもったいないことはできませんわ。どうしましょう? お嬢様は良いアイデアないですか?」

「そうねぇ」


 買いすぎたとはいえ、野菜も美味しそうだし、捨てるのはもったいない。あの事件に巻き込まれた時は節約生活もしていた。捨てられない。


「だったらご近所さんに配ろうかしら。野菜はともかく菓子やパンはそんな好き嫌いも無いものでしょうし」

「グッドアイデアだ!」


 カミルが拍手し、手分けしてご近所に配ることにした。カミルはお向かいのご老人夫婦、マーサは近所の金物屋、私は一階のカフェに行くことに。


 この探偵事務所のビルの一階にはカフェがあり、マスターとは顔見知りだ。時々回覧板を持ってきてくれるし、カミルもここのコーヒーのファンだ。マスターはコーヒーがよく似合う渋い雰囲気の男だ。年齢は五十すぎぐらい。プライベートは謎に包まれてる。


「マスター、ちょっと買いすぎちゃったんだけど、この民芸品もらってくれますか。ランチョンマットやコースター、アクセサリーとかなんですが」


 私は一階のカフェに向うと、お裾分けの品々を見せる。マスターはカウンターの内でゴリゴリとコーヒー豆を挽き、頷いていた。カフェには本棚もあり、落ち着いた雰囲気だ。大人ぽっくもあり、まだ学生の私は少し緊張してきた。


 まだカフェは開店したばかりのせいか、他の客は一人しかいない。この方もご老人で窓際の席でゆっくりとコーヒーを飲んでいたが、ばちっと視線があう。


「ほう、これはもしかしてセシリア妃の地元の名産品かい?」


 ご老人は私が持ってきた品物に興味があるらしい。


「どうぞ。ちょっと野暮用でセシリア妃の地元に行ったんですが」

「あぁ、あのセシリア妃のねぇ」


 このご老人、ちょっと意味深に笑う。一方、マスターはとんでもないことを言うではないか。


「この方、ゴシップ誌の記者さんなんだよ」

「マスター、やめてくれよ。バレたらやばい。名前も教えてないだろう?」


 確かにこのご老人、背筋はピンとし健康そうだ。それに靴は踵が擦り切れているし、ズボンの内ポケットにはメモ帳も挟まっていた。目も鋭く、単なるご老人には見えない。変装しているのかもしれない。


 もしかしたら、と思う。ゴシップ記事には王族のスキャンダルも載っている。それが看板商品だと言ってもいい。このご老人、セシリア妃について何か知っているだろうか?


 私はちょっと唾を飲み込み、ポケットの財布からお札頷一枚取り出す。舞台で見たことがある。こういう情報を握ってる人にこっそりお札を渡し、聞き出すシーンを。


 同じことをやってみたら、なぜかご老人は大爆笑。マスターまでニヤニヤ笑ってる。


「あ、もしかして間違えちゃったかしら?」


 失敗した。恥ずかしい。まさか、私、とっても世間知らずなことをしてしまったのか。それでもご老人はお札を返してこなかった。そのお金でコーヒーを一杯注文し、私に飲ませてくれた。


 恥ずかしがりながら飲むコーヒー、あんまり美味しくはないが、頭は冷えてきた。そうだ、今はリアル。劇みたいなことをするの世間知らずだった。まずは自己紹介をしてみた。もっともご老人の名前は教えてはくれなかったけれど。


「そうか。お前さんは探偵事務所の人か。へえ、あの事件のエステル嬢か。知ってる、知ってる」


 ご老人はケラケラと笑い、コーヒーを飲み干した後、小さな声で何か言った。独り言のようだったが、私は聞き逃さなかった。


「セシリア妃にはこれと言って弱みはないが、問題は第五王子様の方だね」


 ご老人はさらにコーヒーをおかわりし、ミルクと砂糖をかき混ぜていた。ガシャガシャとスプーンの音が響くが、次の言葉も聴き逃さなかった。


「第五王子様、浮気している疑惑がある。しかも庶民の変装をして貧困街の女に会っているらしい」


 あの地味で存在感のない王子様が?


 とはいえ、私もこの仕事を手伝いながら男も女も浮気している場面を見てきた。元婚約者からも裏切られている。別に驚きはしない。感覚は麻痺しちゃってるのかもしれない。


「だったらさぁ、それをもっと調べてゴシップ誌に載せたら? 第三王子様はいつものことだけど、第五王子様のスキャンダルだったら意外性で部数も伸びるんじゃない?」


 マスターはのんびりとした口調で言う。確かにマスターの言う通りだ。


「いや、なんかねぇ。編集部に第五王子様の件はバラすなっていう変な手紙が来てさぁ」


 一方、ご老人の方は歯切れが悪い。


「しかもその手紙には第三王子様のスキャンダルネタがいっぱいあってねぇ。裏をとったらそのスキャンダル、全部本当で。すまん、うちの雑誌の第三王子様のスキャンダル、ネタ元は全部ここから。実は俺らが見つけたスクープじゃないんだよ」


 ご老人は頭をかき、歯切れが悪い。


 どういうことだろう。第五王子様の浮気疑惑、それにゴシップ誌に送られてきた手紙って?


「手紙は匿名だった。誰が送ってきたかわからないが、もう怖くなって第五王子様やセシリア妃のことは追うのやめた。で、エステル嬢はどうする? 邪魔が入るかもよぉ?」


 そう聞かれても即答などできない。口篭ってしまうが、今更調査は止められない。第五王子様の浮気疑惑、頭から離れない。とっても気になってしまう。


 私はコーヒーを一口飲むと、老人に向き合う。


「第五王子様の浮気疑惑、もっと詳しく教えて。あとうちの探偵もここに呼んで来てもいいかしら?」


 コーヒーは苦いのに、胸はドキドキしてきた。まさか第五王子様の浮気疑惑が出てくるなんて。この件、筋書きがわからない。やっぱりリアルと劇は全然違うみたいだ。


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