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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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シンデレラ妃の成り上がり事件(4)

 翌日、私たちは馬車に揺られ、とある農村に来ていた。王都から北西部にある村だったが、見事に山だらけ。野菜畑も多く、すれ違った人々も農民ばかりだ。土の匂いも漂い、王都のような華やかさは一切ない。


「いや、セシリア妃の地元、想像以上に田舎だ」


 カミルはそう言って目を丸くしているぐらい。念の為、私たち庶民の格好に変装してきていたが、正解だった。いつもの伯爵令嬢らしいドレスや制服できたら浮くだろう。カミルはいつもは仕立てのよいスーツ姿が多いが、今日は上下ともに作業着。あのセシリア妃のお茶会に出てから作業着が気に入っているらしい。確かに案外似合っているが。


「とりあえず、カミル。セシリア妃の実家周辺に行かない?」

「そうだな。いつまでもここにいてもしょうがない」


 ということで二人で田舎の畦道を歩く。ゴツゴツした石が転がり、雑草だらけ。今日はいい天気だが、数日前の雨の水たまりも残っている。


「エステル、そこに大きな石があるぞ。気をつけろ」

「え、ええ」


 カミルが少し前を歩き、時々こんな風に振り返る。


「カミル、歩くの少し早いわ。もう少しゆっくり」

「おぉ、わかったよ」


 案外素直に歩くスピードを緩めてくれた。村の中心部からセシリア妃の実家まで距離があり、私たち歩くだけでも息が上がってきた。


 しかし小高い丘の上に家があり、他の民家とも遠かった。セシリア妃、この村で暮らしていた時は大変だっただろう。確実に運動不足にはなれない。


「しかしこの家、本当にボロいな」


 カミルはハンカチで汗を拭うと、セシリア妃の実家を見下す。


「本当に……。遠目には馬小屋に見えてた……」


 セシリア妃の実家、人が住めるのか疑問に思うほどぼろぼろだ。実際、人が住んでいる様子はない。物音も全くなく、灯りもついてない。


「あんたら何してるべ?」


 そこに農民が通りかかった。訛りがきつい老人だったが、この家について聞いてみた。カミルには警戒していたが、私にはペラペラと口が軽い。たぶん今の私は子供に見えていると思う。口調が孫に接するような感じだ。


「ここはあのセシリア妃の実家だよ。でもまあ、だいぶ昔にご両親も亡くなっているしな」


 農民は憐れみ深い視線でこの家を見ていた。


「何しろすごい貧乏な家でねぇ。セシリアはいつか絶対成り上がるっていうのが口癖だったなぁ。実際そうなったからすごいけど」


 いつか絶対成り上がる?


 セシリア妃は一度しか会っていないがそんな台詞とは無縁そうな女性だ。白い薔薇のような雰囲気だった。そんな雑草みたいな女性が言いそうな台詞、本当?


「セシリア妃ってどんな方でした?」


 カミルには警戒していたが、私だったら油断して口を滑らせるかも。私はあえて子供っぽい表情を作り、農民に聞いてみた。


「強い子だ。一回も弱音を吐かないね。貧乏だっていじめられても泣いてるところなんて見たことない」


 それはセシリア妃のイメージとも重なるが。


「その上、しつこい。勉強でも仕事でも絶対終わるまで諦めない子だったなぁ。芯があるっていうのか? あの子が王子に見初められたの、案外違和感なかった。あれほどメンタルが強ければ妃としてもやっていけるだろうってな」


 農民はそう言い残すと仕事へ戻って行ってしまった。


「カミルはどう思う?」

「なるほど。案外あの妃は芯が強い野心家か……」


 カミルは何か考えこんでいたが、実家周辺にいても誰もいない。農民すら通らず、もう一度村の中心部に戻り、セシリア妃の評判を聞き込むことに。


 村の市場に向かい、八百屋やパン屋などからセシリア妃の評判を聞くことに。驚いたことにセシリア妃の地元とし、記念の工芸品や菓子なども売られていた。なるほど、田舎の人たち、案外逞しそうだ。セシリア妃をネタに村おこしまでしているなんて。目が丸くなってしまう。


「え? セシリアのこと調べているんかい?」


 パン屋の主人に聞いた。焼きたてのパンだけでなく、あまり物の黒パンやらラスクなども購入すると、途端に主人の口が軽い。実際、田舎らしいパンは美味しそうで、隣にいるカミルは唾を飲み込んでいる模様。


「あの子はね、本当いい子だよ。俺んちみたいな冴えないパン屋も色々応援してくれたし、よく手伝ってくれたり。俺の息子もセシリアと同じ学校だったが、いじめっ子から守ってくれたり、本当にヒロインって感じの子」


 これはあのお茶会での評判と同じだ。


「気が強いとも聞きましたがね?」


 カミルはさりげなく質問。


「まあ、確かにいじめっ子にやり返したっていう噂は聞いたがな。でもあんないい子だしなぁ」


 パンの甘ったるい匂い、ちょっとむせそうになってきた。カミルも同様らしい。私たちはパン屋を出ると、八百屋へ。店頭にはこの村でとれたナスやキャベツが並んでいた。どれも新鮮で王都のものより形が大きい。これはマーサにお土産にピッタリじゃないか。もちろん購入。カミルが支払いを済ませている間、店員の女性に聞いてみた。


 二十歳そこそこの女性だった。そばかすが浮き、田舎娘という雰囲気だったが、なぜかセシリア妃の名前を出すと、顔が青くなっていた。腕には鳥肌まで浮いてる。


「私、あの子をいじめていた子の取り巻きだったんだが……」


 店員はカタカタと震えながら、セシリアに復讐されたという。


「復讐?」

「そ、そう。主犯格のいじめっ子は川に落とされた。私も落とされそうになって……」


 セシリア妃、まさかいじめっ子にやり返した?


 これは芯が強いどころじゃない。気が強すぎるというか。


「しかもいじめの証拠も色々とでっちあげて、私らの悪評も……。あの子、やばい。ただじゃ起きないタイプ。メンタルが強すぎる。やられたら何倍にもして返す女よ」


 店員の怖がりよう、演技に見えない。下唇も震えていたし本気で怖がってる。しかもいじめの証拠をでっちあげるなんてアデライドにしたこととそっくりじゃないか。私も同じことをされた過去がある。笑えない。


 セシリア妃、単なる女性じゃないらしい。むしろ野心、仕返し、復讐といった言葉が似合いそうな上、裏表もあるらしい。見た目は白い薔薇みたいに綺麗なのに、根っこには毒でも含んでいるのだろうか?


「カミル、どう思う? セシリア妃、やっぱりアデライドが言ってたことの方が信ぴょう性あると思わない?」


 帰りの馬車、カミルと話す。馬車の中はガタガタと音が響き、決して静かではないが。


「確かにな。でも昔のいじめの件など証拠もないしなぁ。今のセシリア妃に打撃を与えるほどのゴシップでもない」


 カミルの声を聞きながら肩を落としてしまう。馬車の中は野菜、パン、菓子、民芸品など調査のついでに買ったものもある。狭い。


「それにしてもこのパンとかどうするの?」

「マーサへのお土産にしても多いよなぁ……」


 カミルはため息をつく。また調査費がかさんだとぼやいていた。

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