シンデレラ妃の成り上がり事件(3)
「やっぱりメイドの格好、自分でも合ってる気がする」
馬車に揺れながら呟く。
これから潜入調査のため、メイドの格好に変装し、現場に向かう予定だ。一方、カミルはいかにも下働きといった格好だ。上下ともに薄汚れた作業着。カミルは清掃員として現場に潜入する予定だったから。
潜入場所はセシリア妃の私有の別邸だ。ここで月に一度お茶会を開催し、貴族や王族と交流をしているらしい。王都でも南西部に別邸があり、より風が暖かい。馬車の窓から別邸も見えていた。周辺は花畑に彩られている。華やかな邸宅だった。
カミルは資料を読み込み、しかめっ面だ。この資料はアデライドの証言を元に作成したものだが、これによるとセシリア妃、劇とは全く違う女性らしい。
「まあ、エステルのメイド姿はあっているが、アデライドの証言によると、セシリア妃、性格がよろしい女性には見えないな」
「そうなのかしらねぇ」
「あぁ。なんというか資料によれば目的のためには手段を選ばないタイプというか。そもそも庶民の娘が貴族の養子になった経緯もアデライドのお父様に相当気に入られた結果らしいが、なんか引っかかるね」
アデライドの証言によると、セシリアは本当に娘の様に可愛がられていたらしい。また、セシリアは介護の仕事もしていたようで、おじさんやお爺さんから元々好かれやすいという。他にもメイドともすぐに打ち解け、一時期はファンクラブまで生まれていたほど。アデライドの証言によると、ある種のカリスマ性もある女性。一言でいえば「ひとたらし」らしい。
「実際セシリアを見て見ないとわからないな」
「そうね、カミル。今日は資料を読むより潜入調査に専念しましょう」
ちょうど馬車もつき、私は日雇いメイドとして潜入。カミルとも別れ、まずは厨房に向かい、直属のメイドに指示を受けながらお茶やケーキを会場に運んでいく。
立食形式のお茶らしい。会場はまで来客はなかったが、テーブルの上には華やかケーキ、クッキー、スコーン、サンドイッチなどが並び、窓から見える花畑も春らしい。会場にも至るところの薔薇の花が飾りつけられ、いい匂いもする。潜入調査中だと忘れ、客としてここにいたいぐらいだ。
そうはいってもおもて向きは日雇いメイドとしてここに来ている。直属のメイドは多忙でイライラとし、厨房では皿やスプーンを投げている。既に戦場だ。私はテキパキとケーキが盛られた大皿を持つと、給仕をする為に会場へ。
「あら、メイドさん。運ぶの大変ね」
背後から声がして振り返ると驚いた。そこにはセシリア妃がいたから。
白いふわっとしたドレスに身を包み、案外小柄だ。妃だというのに偉そうな雰囲気は全くない。むしろこんなメイドに気さくに話しかけるなんて、優しい。驚いてしまい咄嗟に返事ができなかった。
「お皿も重いでしょう? 腕を痛めないで気をつけてね。じゃあ」
笑顔で去っていくセシリア妃。妃らしくないのにオーラはある。雰囲気が優しげで、白い薔薇のような人。単なる美人ってだけじゃないみたい。
こんな日雇いメイドにわざわざ声をかけるのだ。嬉しくなってしまうのも事実だ。なるほど、セシリア妃にファンがいたり、貴族に気に入られ養子に迎えられたのも納得した。そこには何の裏もなさそうだ。
しかし、その後、妙に誰かに見られているような視線を感じる。メイドの仕事で忙しくしながらも、時々、視線を感じて振り向くが誰もいないということを繰り返していた。
一旦、厨房横のスタッフルームに帰り、一呼吸していたが、わからない。今回も偽の身分証明書を使って潜入調査中だったが、誰かに正体がバレているだろうか。今日のメイドの変装、マーサにメイクをやってもらったし、大丈夫だと思うが、安心できなくなってきた。
「ちょっと、あなた」
そこに誰か入ってきた。同じメイドらしい。色黒で背が高い。正直、あまりメイド姿は似合っていないが、ツカツカと私に近づき、キッと睨んでくるではないか。まるで野良猫のような目つきの女性。
「え、あなたどなたです?」
全く知らないメイドだ。とりあえず名前は聞こう。今日も大勢の日雇いメイドが雇われているし、顔も名前も覚えていないが、なぜ彼女、私をきつく睨みつけているのだろう?
「私はエッバよ。セシリア様のメイドでもある」
「あ、そうなんです?」
名前はわかったが、声に棘がある。どう反応したら良いか謎。まさか伯爵令嬢エステルだとバレたのだろうか。冷や汗が出てきたが、その心配は要らなかったらしい。
「セシリア様に近づかないで! あなたみたいな日雇いがセシリア様と話すなんて生意気だから!!!」
エッバ、まさか私とセシリア妃が話したの見て嫉妬していた?
さっきの視線の正体、まさかこれ?
正体がバレずにホッとしたが、まさかセシリア妃、こんなファンいるタイプなのか。アデライドの証言にもそんなようなことが書いてあった。
「私こそがセシリア様のお気に入りだし! 本当にあなたみたいのは近づかないで!」
エッバはギャーギャーと大騒ぎすると外に走って行ったが、どういう事だろうか。
私は他のメイドにもそれとなく聞いてみた。
「そうよ。セシリア様って何というか、人たらしっていうかファンが多いのよね」
そんな証言も得た。実際、セシリア妃に憧れているメイドが多く、話しかけてもらったとキャッキャと騒ぐメイドもいるぐらいだ。
その上、人柄が良いらしく、地味な第五王子の妃として冷遇されながらも一切弱音を吐かず、王族に嫌がらせされた時も毅然と対応し、メイドのファンを増やしたという。
他にも似たようなエピソードを多く耳にし、セシリアが好かれている理由を察した。本当に劇のヒロインみたいな女性。ちなみにあの劇もセシリアのファンがスタッフとして関わっているらしい。
その後、カミルと落ち合い帰りの馬車で調査結果を共有するが、似たような結果だった。アデライドが求めているような弱みなど全然出てこない。
「はぁ。どうすっかねぇ」
カミルは深いため息をつく。
「劇のヒロインみたいな女だった。あれ、弱みなんてあるのか?」
珍しく弱音まで吐いていたが、私も同感だった。
「た、確かに。本当にあの劇通り。夢は壊れなかった感じだけど……」
これはアデライドが求めるものを得るのは難しそうな気がする。そもそもアデライドがなんらかの事情で嘘をついてる可能性まで考えてしまう。
「いや、まだ諦めるな、エステル。今度はセシリアの実家方面に調査しに行こう。何か出るかもそれない」
「そ、そうね。一回の潜入調査ぐらいで諦めきれない」
いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。次の調査について考えることにした。




