シンデレラ妃の成り上がり事件(2)
呑気な春休み、そう長くも続かなかったらしい。
「なんだ、これは?」
今日も探偵事務所へ来ていた。といっても仕事はなく、三人とも退屈しているところ、一階のカフェから回覧板が回ってきた。それを見たカミル、珍しく変な声が出ていた。
「カミル様、どうなさったんです?」
つかさずマーサが問いかけるが、最近、この王都で元魔術師のカース・ギューデという男が問題になっているらしい。なんでも復讐代行を持ちかけ、詐欺行為を働いているとか。回覧板でも注意喚起のチラシが入っていた。
カミルは露骨にため息をつく。
「人を呪えば穴二つだぞ。これは騙された方にも隙があったと思うな」
いつも通り、辛辣なカミルだ。
「でも追い込まれた人は藁にも縋りたくなるでしょう? そこにつけ込む元魔術師も悪人ですわ」
マーサはおっとりとした口調だったが、言いたいことははっきりと口にしている模様。
私もそのチラシを見ていたが、手口は悪質だ。最初は無料で復讐代行すると騙し、徐々に大金を払わせるように仕向けるという。中には女性と恋愛関係になり詐欺を働いたケースもあるようだ。
「この世の中、真面目な人が報われて、悪人が報いを受けるのって無いのかしら。あのセシリア妃の劇みたいなことはファンタジーなの?」
あの劇の夢が壊れる気がしてきた。
「残念ながらそうだ。でも人を呪ったら、やっぱり報いを受けるだろう。エステルも安易に復讐なんてするな」
カミル、一応励ましてくれている見ただが、笑顔が作れない。王都でもこんな詐欺があるなんて。
「セシリア妃の劇も実話と違う部分があるのかしらね……?」
思わず小さく呟いた時、ちょうど探偵事務所の呼び鈴がなる。また一階のカフェの店長が来たのかと思ったが、意外な来客だった。
「何この狭い探偵事務所は」
来客は口を尖らせ、不機嫌だった。体型はふくよかなおかげか、真っ赤なドレスはよく似合う。メイク映えもする派手な顔立ちで、イヤリングがシャラシャラと揺れていた。指も大きな宝石つきの指輪をつけてる。どう見ても庶民ではなさそうだ。
これは新しい依頼者だとカミルはニヤついていた。さっそくマーサにお茶の手配をし、私も応接室に同席された。依頼者は猫嫌いだという。猫のミルクはいったん事務室のソファに避難させた。
「へえ、狭い探偵事務所」
応接に入っても依頼者の態度が変わらなかったが、カミルは低姿勢だ。むしろ営業スマイルでお茶を勧めているぐらいだ。今も探偵事務所の財政問題がカミルの頭の中にあるのに違いない。
依頼者は一切お茶に手をつけなかったが、自己紹介をはじめた。名前はアデライド・ゲーデル。
「単刀直入に言うわ。私ね、セシリア妃の義姉よ」
カミルも私も息を飲む。それは全く予想していなかった。だとしたら、あの劇で成敗されたようなこと、実際にあった?
「本当です? セシリア妃って本当はどういう方なの?」
だめだ。好奇心が抑えきれない。私はついつい質問を重ねてしまうが、アデライドは口を尖らせる。
「確かに私、家のお金を勝手に使い込んでいたわ。ええ、それでセシリアに暴露されて田舎へ追放になった。それは事実」
そう語るアデライド、悔しそう。落ち着きがなくなり、肩が揺れ、イヤリングもシャラシャラと揺れ動く。
「世間や劇で表現されているみたいに、セシリアはいじめていないわ。確かに義妹にどう接していいかわからなくて、きつい態度をとった時もあったとは思う。でもそんな劇みたいに泥を投げたり、セシリアの靴や服を隠すような真似はしていないし」
ぶつぶつと言っていた。
「私は腐っても貴族の娘。そんな庶民がするような真似はしない」
アデライドをよく見ると座り方、手の置き方、ちょっとした仕草に品がある。顔立ちは体型は派手目だが、根っからの悪人かと言われたら、そんな雰囲気はない。
それに私もいじめの濡れ着を着せられた過去がある。どうもアデライドの証言、嘘をついているように見えない。カミルもアデライドの証言、否定していない。わざわざここへ来て嘘を言う理由もないだろう。
「それで私の実家も大変な状況よ。お父様は善意で庶民の娘を養子として助けたのにねぇ。恩をあだでかえされたっていうか」
アデライド、心底困っている模様。
「セシリア妃のこと、よぉーく調査してくださらない? あの子、本当に何を考えているかわからないもの。弱みの一つ、二つあるはず。今も悪評とか色々あって困ってるのよ。調査して下さい」
アデライドは頭を下げた。しかも報酬は前払い。相場価格の十倍も出すという。
「知り合いのユリウスから評判を聞いたわ。この探偵事務所だったら信頼できそうだって思ったから」
ここまで言われて断る理由もない。さっそくカミルは契約を結び、調査計画を立てる。アデライドもセシリアについて知っていることは全部語って帰って行った。
「セシリア妃。悪評はないと思っていたが、やはり劇と事実は違うか」
カミルはしみじみと頷き、腕を組む。
「どうだ、エステル。劇とリアルが違って夢が崩れたかい?」
確かにカミルの言う通りだ。劇と違うのはちょっとショック。
しかしその一方、セシリア妃に興味は出てきた。アデライドの証言が事実だったら、一体どんな女性なのだろうか?
「いいえ。セシリア妃について気になってきたわ」
「そうか、さっそくもっと調査計画を立てるぞ。マーサも呼んで計画を詰めよう」
「ええ!」
ワクワクしてきた。リアルは筋書きが読めない。劇と何より違う点だ。




