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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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シンデレラ妃の成り上がり事件(1)

「人を呪えば穴二つになるぞ」


 ◇◇◇


 季節は本格的に春だ。風は柔らかく、花売りのチューリップやガーベラはもちろん、道端のたんぽぽも咲き誇っていた。


 私は春休み中だ。探偵事務所の仕事も手伝っていたが、相変わらず暇だし、天気もいい。おでかけ日和。


「ねえ、マーサ。私、観劇なんて久しぶりよ。楽しいかしら?」

「楽しめるのに決まってますわ。なんといっても王都で一番人気の劇なんですもの」


 ということでマーサと二人でおでかけ中だ。王都の中心部にある劇場に向かい、列に並んでいるところ。


 マーサのいう通り人気みたい。すでに長蛇の列ができていた。客は女性しかいないようだ。年齢は少女から老婆までさまざまだったが、一様に目がキラキラして楽しそう。


 私だって久々のおでかけだ。学園の友達は婚約中の子が多くなかなか誘えなかったが、今日はマーサと思いっきり楽しむ予定。さて、どんな劇だろうか。


 劇場は想像以上に広く、迷いそうだが、ちょうど運良く中央あたりの席がとれた。舞台全体を見渡せ、アタリといっても良いだろう。まあ、隣にいるご婦人、ちょっと香水がきついが、それぐらいは誤差の範囲だ。


「もう少しで始まるわね。楽しみだわ」

「ええ、お嬢さま。私もひさびさの休暇ですからね。楽しみですよ!」


 普段おっとりとしているマーサも目がワクワクしている。


「あ、もう灯りが落ちるわ」


 そう呟いた瞬間、客席が暗くなり、ブザーの音が響く。開演の合図らしい。私の胸の高鳴りも抑え切れない。幕が上がり、音楽と歓声と共に舞台が始まった。


 内容はロマンス劇だ。不幸な生い立ちの女性が運よく貴族の養子となるが、そこで意地悪な義姉にいじめられてしまう。しかし主人公は負けない。義姉の弱みをコツコツと調べて、最終的に復讐する。同時に主人公は第五王子にみそめられ、幸せな結婚を果たす。めでたし、めでたし。


 王道シンデレラストーリーだが、出演者の演技も熱がこもり、ついつい前のめりで観劇してしまう。最後にハッピーエンドになった時は泣きそうになった。隣のご婦人も号泣。マーサのハンカチで目頭を抑えているぐらい。舞台は拍手と熱気に包まれ、幕を閉じた。


 たった一時間半くらいの劇だったのに、私とマーサは感動でホクホク顔だ。劇場を後にする頃は、二人で手を取り合い、劇の感想を語り合うぐらいだ。


「やっぱり主人公のセシリアが王子様にみそめられるシーンが一番好きですわ」


 意外とロマンチックなマーサ。目をハートにし、王子様役の俳優について語る。


「あら、私はセシリアは義姉に復讐するシーンも好きね。すかっと爽快で」

「お嬢様、意外と勧善懲悪ものがお好きですね」

「まあ、お芝居だったらそういう世界になって欲しいじゃない? いい子が救われ、悪いやつは成敗されて欲しいもの」

「お嬢様、もしかしてこの舞台、実話をもとにしているってご存じじゃないですか?」

「え、嘘?」


 マーサと劇場周辺の道を歩きながら、目が丸くなる。架空の話だと思い込んでいたが、まさか実話?


「まさか主人公のセシリアって実在するの?」

「ええ。本当に我が国の第五王子様と結婚された方です。でもその王子様、地味ですしね」

「あぁ……」


 ちょっと夢からさめた気分だ。確かに第五王子様の后の話、聞いたことはある。ほぼこのロマンス劇と同じ内容だったが、なんというか第五王子様、ルックスは地味で冴えない感じですっかり忘れていた。第三王子様は典型的な派手なルックスで影に隠れているというのもある。我が国の王族ゴシップは第三王子が独占。それでもこの妃の話、劇になるぐらいだから十分派手だけど。


「セシリア妃は確かシンデレラ姫って言われていたわよね」

「ええ、お嬢様。確かに第五王子様は地味ですけどね」


 そんな話題をしつつ、いつのまにか探偵事務所の前まで辿りつく。二階の窓をのぞくと灯りがついてる。ということはカミルは仕事中か。


「お嬢様、事務所によって行きます?」


 なぜかマーサは笑顔。いつもと違って圧のある笑顔。


「カミル様にもお会いしたいでしょう?」


 マーサ、一歩近づき、さらに圧をかける。意味がわからない。でも春休み中、あまりカミルに会っていないのも事実だ。マリエの件が解決してから、探偵事務所の仕事はより暇になったというのもあるが。


「わ、わかったわ。マーサ、一緒に事務所によりましょう」

「ええ、よりますよ!」


 マーサと共に二階へ。端的に事務所はいつも通りだった。カミルは事務室で帳簿をつけ、猫のミルクはソファでゴロゴロ。ふみゃぁと気の抜けた鳴き声が事務所に響き、窓からは春の日差しが差し込む。のどかな昼下がり。


 マーサはお茶を淹れ、私は猫のミルクの背を撫でる。ツヤツヤな白い毛並みを撫でていたら、本当に眠たくなってきた。春の日差し、安眠成分でも入っているのかと思うほど。


 一方、カミルはまたもや不機嫌そう。帳簿と睨めっこし、捜査予算が足りなくなるかもしれないとぼやいていた。


「カミル様、そんな財政状況がよろしく無いんですか?」


 マーサはお茶を淹れ、カミルに差し出す。


「そうなんだよな。こう依頼者がなくて暇だと、お金も入ってこん!」


 カミル、頭をかきむしっていた。これは本当に財政状況が悪そうだったが、なぜかカミル、私と目が合うと笑ってきた。意味がわからない。急にご機嫌?


「エステルは舞台楽しかったかい?」

「ええ。セシリア妃のシンデレラストーリーでとっても良かったわ」

「そうか」


 私が笑顔で頷くと、なぜかカミルも目を細めていた。


「セシリア妃は特に悪い評判も聞かないな。第五王子様は地味だし、なんというか存在感はないが」


 探偵として王族や貴族の秘密も握っているカミル。そのカミルが言うのならそうだろう。


「本当に劇と全く同じ妃だと言う評判だ。よかったな、エステル。夢が壊れないで」


 なんか今日のカミル、嫌に優しい。時々口が悪くなるのに、今日は声もまろやか。目尻も下がってる。春だからだろうか?


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