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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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ダイヤモンド令嬢の浮気事件(7)

 かつての依頼者、マリエがターゲットになるとは。微妙だ。これって再調査みたいじゃないか。


「今度はマリエの尾行をするなんて。マリエが最初にここに来た時は思ってもみなかったわ。ねえ、マーサ」


 私はそうぼやくと、黒いワンピースの上にメイド用のエプロンをつけた。今日はメイドの変装をしてマリエの尾行予定だ。バルテルの別邸周辺では、この格好が一番目立たないから。


「あら、お嬢様。メイドの格好、お似合いですわ」

「マーサ、そう?」

「ええ、あとは薄くメイクをしたら完璧です」

「本物のメイドに言われたら自信がつくわ」


 マーサにメイクをやってもらう。確かにメイドらしい地味なメイクだ。でもメイドは物心ついた頃から身近な職業だ。変装するのも違和感はない。鏡の中の自分、今はけっこう気に入っている。


 ということで変装も完了し、カミルと合流。今日のカミルは執事姿だ。いつもメガネをかけているし、こちらの執事姿も違和感はない。


「さてエステル。今日は執事とメイドという設定でいこうな」

「ええ、カミル」


 二人揃って探偵事務所を後にし、馬車に乗り込むと、バリテルの別邸の近くの降り立つ。この辺りは貴族の屋敷も多く、メイドの格好も紛れる。買い物中のメイドがたくさん歩いてる。


「でもカミル、そんなに執事はいないわね。やっぱり少し目立たない?」

「いや、大丈夫だ」


 背が高いカミル。正直、ちょっと浮いているが大丈夫だろうか。


 このままこの辺りを歩き、宿場周辺でマリエの姿を待った。ユリウスによると、この周辺によく来ていると聞いていたが。


「あ、カミル。マリエよ」

「ターゲット、いらっしゃったな。よし、尾行するぞ」


 ワインレッドのドレス姿のマリエ。こちらもよく目立っていたが、バルテルの別邸の方へ歩き始めた。メイドや従者をつけていないところを見ると、お忍びで来ているのだろう。


 しばらくマリエは歩き続け、バルテルの別邸近くの湖の方へ。


 この周辺は人気がない。令嬢が一人で来るところでは無いが、慣れた様子だった。


 一切後を振り向いてなく、私たちには気づいてなさそうだったが、湖のほとりに座り込むと、ため息までこぼしてる。湖の水面はマリエの憂鬱そうな顔が反射されていた。


 私とカミルは木々に隠れていた。よくは見えないが、マリエは何かに悩んでいる様子。


「本当に浮気しているのかしら。その割には全く楽しそうじゃない。そんな顔に見えるわ」


 思わず呟いてしまった。浮気というと、悪女がしている様なイメージだ。演劇やロマンス小説の中の浮気女性、たいてい娼婦と相場が決まっていたが、マリエはどうも違うような。


「まあ、当てつけで婚約して浮気中ってことだろう。バルテルも浮気男とはいえ、別の男になった女が急に惜しくなったのかもな。男って案外そういう面があるから」

「何それ。ユリウスが可哀想。何の落ち度もない被害者じゃないの……」


 つい口を尖らせてしまう。これだとマリエに振舞わされただけではないか。不憫になってしまった。


 しかしもう一度湖のほとりにいるマリエを見る。絵から抜け出してきたような美女。表情は憂鬱そうとはいえ、綺麗だ。ダイヤモンド令嬢と言われているだけある。そんなマリエ、ユリウスの隣にいるのが想像できない。ユリウスはもやしのような男だ。もやしとダイヤモンド。全く正反対だ。


 マリエがなぜ浮気に走っているか、理由を察してしまう。こんなことを考えるのはユリウスに失礼な気がする。やはり浮気中のマリエの方が悪いということにしておきたい。


「それにしてもマリエは憂鬱そうだな。バルテルといたって幸せになれないって自覚はあるだろうに」


 一方カミルはマリエに好印象は持っていない様子。吐き捨てるように言ってた。


「あの女、見た目と違って嫌な女だな。男の敵だ」

「そんなこと言って、マリエにアプローチされたら惚れるんじゃない? お父様も口では女性のこと悪く言ってたのに、実際は全然違ったから」


 父のことも思い出し、ため息が出てきた。


「なんで男性って浮気するの?」


 ちょうどいい機会だ。男のカミルに聞いてみたい。父の浮気も長年疑問だったし、元婚約者にもされたことだ。理由が知りたい。


「それは男でも女でも人によるだろう。実際、マリエも浮気中だ」

「そうだけど……」


 正論すぎて言い返せない。


「俺は浮気なんて嫌いだ。もう探偵の仕事で何度も見てきたからな。うんざりしてる」

「へぇ……。だとしたらカミルの奥様になる人は幸せね」


 何の気なしに呟いただけだが、カミルはなぜか咳き込み、顔も赤くなっていた。


「ちょっと、カミル。大丈夫?」

「だ、大丈夫だっ」


 何か喉に詰まったのかもしれない。こんな時、マーサが淹れたお茶があればと思うが、残念ながら今は持ち合わせていない。


 そうこうしているうちに、数十分が経過。マリエはずっと憂鬱そうにため息をついていたが、ようやく立ち上がった。


「よし、ターゲットが動いた。追うぞ」

「え、ええ」


 私は頷くとカミルと共に、マリエを追う。湖から離れたマリエ。予想通り、バルテルも屋敷に直行していた。


「バルテル! 会いたかったわ」


 よっぽど会いたかったのだろう。門の近くでバルテルと抱き合っていた。見るのも恥ずかしいぐらい熱い雰囲気。誰がどう見たって浮気の現場だ。


「バルテル、あなたが一番大好きよ!」


 マリエの艶っぽい声が響き、私は耳を塞ぎたくなる。隣のカミルも、苦いため息。


「あなたが一番大好きって何だ? ユリウスが本当に不憫だ」


 カミルはマリエに心底呆れている様子だ。


「かわいそうに、ユリウス……」


 カミルの声を聞きながら、私も深く頷く。それ以外は考えたくもなかった。

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