表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/24

ダイヤモンド令嬢の浮気事件(5)

 美しいエステル嬢へ


 パーティーで初めて会った時から一目惚れをした。俺と付き合ってみないかい?


 エステル、君は本当に美しい。スズランの花のように綺麗だ。清潔だ。凛としている。シンプルな白いドレスもよく似合っていたよ。


 俺、本当はエステルのような清楚な女性が好きなんだ。マリエのようなダイヤモンドみたいな派手な女はちょっとね。やっぱりエステルみたいな優しそうな女性が良いと思うんだよ。


 うん、エステルが一番好きだと思う。


 俺と付き合ったら、うんと幸せにしてあげるよ。好きなもの、全部買ってあげるし、美味しいものもごちそうしようじゃないか。


 もちろん、旅行にも連れて行ってあげる。そうだ、今度王都でロマンス劇が上映される。一緒に見ようじゃないか。エステル。あぁ、美しいエステル。うんと楽しませてあげるからね。良い返事を期待して待ってる。バルテルより。


 ◇◇◇


「おとり調査なんて頼んでいないわ」


 探偵事務所の応接室、マリエの声が響く。キンと耳につく声だ。無表情だった。怒ってるのは謎だが、少なくとも上機嫌ではなさそう。


 今日は冬の割に天気がよく、気温も高い。窓の外は呑気な色合いの空が見えるが、マリエのご機嫌、今にも崩れそうだ。


 私とカミル、ここで調査結果を報告中だった。もちろん、あの手紙も証拠としてマリエに見せたが、すぐに眉間に皺を寄せた。


 おとり調査は頼んでいないとか、こんな証拠は要らないとか好き勝手なことばかり言ってる。いや、喚いているという感じか。マリエ、見た目は派手だったが、声は案外低いことに気づく。普段は声を高めに作っていたのかもしれない。


「本当におとり調査なんて頼んでいないし、何なの、この手紙は。は? エステル嬢が美しいって? こんな地味で堅物そうな令嬢が? 何がスズランみたいな花よ。どこにでも生えてる雑草でしょ?」


 マリエ、だんだんと興奮してきたらしい。私が目の前にいるのに、容赦ない。もっとも、妹の癇癪に付き合っていたので、あんまり傷つかないから不思議。妹はもっと酷いことを言っていた。


「おい、マリエ嬢。君は腐っても令嬢だろ? 他人の悪口を言わないように教育されていなかったのかい?」


 一方、カミルは明らかに不機嫌。あの手紙をバンと机の上に投げ捨てると、マリエにきっぱりと反論した。


「ええ。そういった教育は受けています。でも嘘も言っちゃいけないという教育も受けました。エステル嬢について事実を言ったまでよ」

「はー、そうか。それがマリエ嬢の本性か。ちなみに我が国の法律では例え事実を言っても侮辱罪に該当するがな?」


 カミル、そう言うとマリエを睨みつけた。マリエも負けていない。まるで野良猫が喧嘩しているみたいな雰囲気だ。今の猫のミルクが見たら、びっくりして逃げそうだ。


 こんな二人を見ていたら、私はかえって冷静になってきた。マリエの言葉も気にならなくなったし、カミルが庇ってくれているようだし、それでいい。


 それに気になるのは、マリエ自身の方だ。わざわざ探偵に依頼しておいて、いざ証拠が出たら、こんな風に怒っているのは、なぜだろう。証拠を揃えて婚約破棄まで持っていきたいなら理解できるが、マリエの目的が何かよく分からない。


 もしかしたら、マリエ自身も揺れているのかも。バルテルと別れたい気持ち、それでも好きな気持ちが二つあって揺れているのかもしれない。それだけは何となくわかる。


「マリエ、婚約者が遊び人だなんて辛いわね。私に当たるのも仕方ないわ。さ、お茶でも飲んで、一旦落ち着きましょう」


 私はなるべく笑顔でマリエに接した。マリエはなぜか拍子抜けしたような顔。一気に顔から毒気が抜けている。カミルは驚きで目が点になっていた。


「え、ええ。辛いのよ。バルテルが想像以上に浮気性で」

「マリエ、ええ、わかるわ」


 そう言った瞬間、とうとうマリエは泣き出してしまった。目の周りが真っ赤だ。ダイヤモンド令嬢と呼ばれているのに、案外、泣き顔は子供ぽい。鼻を啜っている姿も人間らしい。


「え、ええ。もういいわ。本当に恋って苦しいから。私はバルテルを好きな限り、一生幸せにはなれないと思ってる」


 ハンカチで涙を拭うマリエ。なんだか聞いていると、私まで苦しくなってきた。一方、カミルはこんな女性の恋話、聞き慣れないらしい。居心地悪そうに咳払いをし、一応謝っていた。


「それでマリエ、どうするんか? バルテルと一緒にいる限り、幸せにはなれんぞ。この証拠を使って婚約破棄し、新しい相手を見つけた方が健全だろう」


 カミル、さっきよりも表情も声も柔和になってきた。どれにこのアドバイス、大人の男性としては的確だ。


「え、ええ……。そうね、そうよね。バルテルと不幸になるぐらいだったら、別の男性と付き合った方がいいとは思う……」


 マリエはそう呟き、煮え切らない雰囲気で帰って行った。残された私たちは何も話せない。依頼通りに仕事しただけだが、かえってマリエを傷つけてしまったみたいで。


「しかしエステル、あんなマリエに暴言を吐かれたのに、やり返さなかったのは立派だな」


 なぜかカミル、そこに関心し、うんうんと頷く。


「だってマリエの気持ちを想像したら、かわいそうで。それに言い返したって、別に喧嘩したいわけでもないし、カミルが庇ってくれただけで十分よ」

「は?」


 なぜかまたカミルは目が点になっていた。そんなに珍しいことか。


「そうか、エステルは簡単にやり返したり復讐したりはしない女か……」


 またうんうんと頷くカミル。よくわからないが、納得すたらしい。


 そして、その後。マリエはバルテルと婚約破棄したニュースが流れた。同時にマリエは商家の子息と婚約したという知らせも聞いた。これで一件落着と思っていた。


 まさか新しい事件が起きるなんて予想にもしていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ