ダイヤモンド令嬢の浮気事件(4)
「あら、やっぱりお嬢様ですね。本当に白いドレスがお似合い!」
私、マーサにドレスを着付けてもらい、メイクや髪もやってもらっていた。もちろん調査の為だが、今回は庶民の格好じゃない。普通に伯爵令嬢エステルとし、ターゲットのバルテルのパーティーに潜入するつもり。
伯爵令嬢らしいドレスに身を包み、髪もアップにし、アクセサリーもつけてみた。靴もピカピカなもの。そう言えば、あの事件に巻き込まれた為、こんな格好するのは久々だ。庶民の変装は慣れていないが、この格好はやはり落ち着く。板についている感じだ。
「そう? ちゃんと伯爵令嬢っぽく見える?」
「ええ。お嬢様。まずはカミル様にこの格好を見せて見たらどうでしょうか?」
なぜかまた心臓が跳ねる。といっても意識しているのもマーサに疑われそうだし、探偵事務所のドレスルームからカミルがいる資料室へ。
カミルは今日、バルテルのパーティー会場の給仕として潜入予定だ。すでに庶民風の格好に化けていたが、なぜか私の姿を確認すると、手に持っていた資料を落としていた。バサバサ、ドサドサと大きな音が響く。
「カミル、どうしたの?」
「い、いや。そのドレスも実に伯爵令嬢らしい。よく似合ってる」
カミルはわざとらしく咳払いするが、一切私の目を見ない。どういうことだろう。この格好、お高くとまっているようで嫌いなのかもしれない。たぶん、そう。いつもは冷静なカミルでも今はちょっと顔が赤いし、不機嫌らしい。
「まあ、ここでぐだぐだしているわけにはいかない。エステル、バルテルのパーティーに行こう」
「ええ。もちろん」
不機嫌に見えたカミルだったが、なぜか丁寧にエスコートし、馬車に乗り込み、目的地へ向かう。
王都から少し離れた郊外にあるバルテルの別邸だ。周りは木々や小さな湖まであり、別邸の外観は自然と調和して落ちついた雰囲気だ。
続々と招待客が集まり、門周辺は賑やか。ここで私もカミルと別れ、別邸に乗り込んだ。
もう夕方だ。厚手のコートを着ているとはいえ、雪がちらつく気候の中、別邸に足を踏み入れるとふわっと温かい。中は暖房がきいているみたいだ。招待状も受け付に見せ、他の招待客と共にダンスホールへ向かう。
広々としたダンスホール、すでに貴族や商家の令嬢たちが集まり賑やかだ。シャンデリア、ふかふかな絨毯も豪勢だ。
ここにいる着飾った令嬢たち、化粧が濃い。香水の匂いも鼻につき、思わず咳き込んでしまうほど。一応私も着飾ってはいたが、この中ではだいぶ地味だ。
おかげで伯爵令嬢のエステルとは誰も気づいてもいない様子。あの事件の噂はもうとっくに消えたらしい。私は令嬢達の噂話を収集することにした。
「バルテル様って本当にいいお方ね」
「ええ。この前だってご老人を助けているの見ちゃった」
「弱い人にも優しいなんて本当に王子様みたい」
令嬢たちもバルテルを絶賛。これは予想通りだったが、マリエと婚約中なのはどうなのだろうか。ちょっと緊張するが、紫色のアイシャドウの令嬢に話しかけた。近づくと香水の匂いがツンと鼻につく。
「そうなのよね。バルテル様、婚約しちゃった」
この令嬢、バルテルの婚約についてはショックを受けていない。むしろニコニコと上機嫌だ。
「ええ。そうなのね。ちなみに私、バルテル様が遊び人という噂を聞いたのだけど本当?」
囁くような声で聞いてみた。
「まあ、そんな噂はある。でも噂によると、遊んだ女性にも手厚く対処しているんですって。おかげでバルテル様、全く恨まれていないどころか、さらにファンができてる」
「本当?」
「まあ、噂よ」
そう言ってこの令嬢は去っていったが、他に令嬢からも話を聞く限り、遊び人なのは事実。でも、その別れ方の対応が真摯で、恨みを買っていないという。
「私だったらバルテル様に遊ばれてもいい」
そう呟く令嬢もいるぐらい。うっとりとした目だった。
信じられない。お父様の浮気を嫌悪している私。母も苦しめられたし、愛人の娘の妹も被害者だ。
そんな遊びとか受け入れられないが、バルテルはよっぽど上手く対応しているらしい。ずるい人。彼の人の優しさがかえって残酷じゃないか。
そんな事を考えていいるうちにパーティーが始まった。お酒も振る舞われている模様だ。カミルも給仕として働いているのが見える。
今は多くの人がいるにに、なぜかカミルを目で追ってしまう。謎だ。前にも似たような事があった。私の目、どうしちゃったのかしら。
おかげでバリテルに声をかけられているなんて、ちっとも気づかなかったぐらい。
「君、エステル嬢かい。伯爵令嬢の」
少し大きな声で呼ばれ、ようやく私は笑顔を作った。令嬢らしい嘘くさい笑顔だったけれど、相手は気に入ったらしい。一緒に踊ることに。春らしいリズミカルな音楽が始まった。
向こうは女慣れしている。エスコートも完璧だったし、ダンスも上手だ。私がミスをしても、さりげなくフォローし、ニッコリと笑顔まで見せくる。
「エステルって可愛い」
そんな甘いセリフも出てくるぐらいだ。これはお世辞なのか、何なのか困惑。
「バルテル様、婚約者のマリエ様がいるでしょう?」
ステップを踏みながら、さりげなくマリエの名前を出すが、バルテルの表情は一切変わらない。
「あぁ。マリエはいい女だよ」
「マリエ様を大切になさってください」
ちょうど音楽が途切れた。令嬢たちの歓声が響く。その瞬間。バルテルは身をかがめ、囁いてくるではないか。その声はハチミツみたいに甘々。
「エステル嬢、この後、俺と二人きりにならない?」
「え?」
笑顔も王子様のようにキラキラ。なんの悪意もなさそう。
「マリエ様は?」
「いや、あいつのことは抜きにして、エステル嬢のことが知りたくなった。お互い、深ーく仲良くしようじゃない?」
背中がぞくっとした。優等生で真面目と言われる私でも、遊ばれていることだけは理解できた。
「いえ、結構ですわ」
私はさっさとバルテルとダンスを終え、給仕をしているカミルの元へ。早歩きしているから息が荒くなってきたが、これはもうバルテルが遊んでいるっていう証でいいんじゃない?
意図せずにおとり調査みたくなってしまった。
「マジか。もうエステル、帰っていいぞ」
一方、カミルはまた不機嫌そうだった。前よりも顔が赤くなっているし、眉間の皺も濃い。
「いいの?」
「ああ。これ以上はやめとけ」
「まだパーティーの時間があるけど」
「いや、いい。マーサを外の馬車で待機させているし、一緒に帰れ」
早口で命令された。これには私も逆らえず、パーティー会場を後にすることに。
その後、カミルが調査をすすめ、バルテルが遊んだ女性が何人か証言してくれた。その上、私の家、伯爵家にバルテルからラブレターまで届き、浮気の動かぬ証拠と化す。
「何がラブレターだよ。婚約者がいるくせに」
探偵事務所で例の手紙を読んでいるカミル、かなり不機嫌だ。耳まで真っ赤じゃないの。
「でも、これで証拠が揃ったわ」
「お嬢様の言う通りですわ。さっそくマリエ様にご連絡いたしましょう」
マーサは調査が成功したとご機嫌。一方、カミルはムスッとしていた。今日は腹の居どころが悪そう。
「ミャー?」
猫のミルクも変な声をあげていた。この調査は本当に解決した気がしない。




