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島の内陸部、港から十数分歩いた所に私の家はあった。
既に此処を出てから3年余りの時が経っているのだから旧宅と言うのが正しいだろう。訪れたのは結婚式に参列するためだが少しでも顔を出しておくのが道理だろうと思って呼び鈴に手を掛けた。ドタドタと慌ただしい足音を連れて母が顔を出した。戸を開け一目私を見るなり母は目を見開いた。しかし母も凛の一件を知っていたから深く詮索せず一言「おかえり」とだけ言った。息子と3年ぶりに会う母の嬉々とした顔とは裏腹に私はこれで旅費が数倍浮くだろうなんて薄汚い事を考えていた。
母に「当日に突然現れても困惑させてしまうから少し顔を見せておいで」と諭され私は仕方なく彼女の家へと向かうことにした。母の前では二つ返事で了承したが実際私の足取りは一歩ずつ近づくたびより重い物へと成り果てていった。しかし雨の中一人佇むのもさぞかし不審だろうなんて考えていると直ぐに着いてしまった。
雨に揺られたせいか手が震えた、小刻みに揺れている右手で呼び鈴を押した。先程とは違って慌ただしい足音はせずさっと雨が弾かれる音が聞こえるばかりで戸が開かれるまでの数秒が半刻にも感じられた。
右へ左へ忙しなく足を動かしてみたり、ネクタイの皺を直してみたり、服にかかった些細な埃を払ったりした。
それでも雨音しか聞こえないものだから目線を足元から上げてみるとそこには扉を開け呆然と立っている凛の姿があった。開いた口をそのままにしてじっと私を見る凛の姿は3年前に別れたときと何ら変わりはなく、丸みのある顔付きも目尻の下がっている目も鼻が高いところも鶯茶の長い髪も記憶の中にある凛の人相と一致していた。
あまりにも沈黙が続くから私は適当に「久しぶり」と声を投げかけた。
凛はその顔のまま「うん」と一言だけ返事をして黙ってしまった。
きっと彼女もそうであるように私も居心地が悪かったから新郎さんに悪いとかなんとか言って早々に切り上げようと思った。
「外は雨で大変でしょ、とりあえず上がりなよ」
凛の気遣いの言葉が少々薔薇の棘のように刺さった。
どうやらまだ雨は続くようだ。




