第20話 島の深部へ
その後もカナセ達は歩兵と協力し合いながら砂浜を超え島の奥へと進んでいった。
島の周囲には塹壕が掘られ敵の歩兵部隊が行く手を阻む。
だがその塹壕をカナセとトギスの三体のマギアギアが的確に潰していった。
本来、戦車とは塹壕を突破し歩兵達の道を作る為に開発された兵器だった。
塹壕を潰すのはお手の物だ。
一方、マギアギアの天敵である対戦車砲や携帯型小型ロケット砲等の対戦車火器も発見次第、味方の歩兵が潰していってくれていった。
小規模で自然発生的ながら二つの兵科が連携し合う理想的な展開が繰り広げられる。
「こりゃ、楽ちんだ。ヤングにお荷物扱いされていた時とは大違いだ」
「あの中尉には戦いが終わった後、僕の方から一杯奢ってやりたいくらいだよ。邪険にしてくれてありがとうってね」
遂にトギスの口から軽口が飛び出す。海岸で泣き叫んでいた男とはまるで別人だ。
そんな中、カナセの中にも余裕が生まれたのか不意にトギスに訊ねた。
「なあ、トギス。ひとつ疑問なんだけど、何でお前、モーフィングマギアの魔煌技なんて覚えているんだ?」
「僕が知っててそんなに変かい?」
「変だよ。そんな弱虫が知ってたって戦えないんじゃ宝の持ち腐れじゃないか」
「弱虫は傷付くなぁ……。こう見えても頑張ってるのに……」
鉄巨人を操りながらトギスが口を尖らせる。
「ああ、気を悪くしたんなら謝るよ」
相棒の不快感にカナセは素直に頭を下げた。
「けど、やっぱり腑に落ちないなぁ。トギスがどうだって事じゃなくて、何で名門エニール家のお坊ちゃまが戦闘魔煌技なんて覚えたのかな? って……」
「はは~ん……。そういう事か」
トギスはカナセが何に疑問にを抱いているのかをようやく理解した。
「それは教養の問題だね。カナセみたいな田舎者には理解できない話だろうから」
そう言って先ほどのお返しとばかりに笑ってみせた。
すると今度はカナセが詰まらなそうな表情でトギスに聞き返す。
「そりゃ、悪かったな、田舎者で。それでどんな教養があるっていうんだ?」
「まあ、怒んないで聞いてよ。それは昔々、まだ淡海に干拓地国家時代なんてモノが無く、人々が箱舟単位で国家を作っていた頃の話です……」
トギスは昔話風に語り始めた。
話はアイスインパクトの災禍から逃れた人類が再び地上に戻った頃にまで遡る。
地上に戻った箱舟は一つの中に数千人から一万人単位の人々が乗り込んでおり、それらが国家として機能を果たしていた。
それらは箱舟国家とも呼ばれ、生き残った人類の新たな生活の場となっていた。
だが箱舟単位の独立国家群という形態は新たな国家間紛争の温床ともなった。
その原因のほとんどが干拓地建設の為の領土や領海争いだった。
場合によっては食糧不足になった箱舟が別の箱舟に襲い掛かり丸ごと乗っ取っるといったおぞましい事件もあった。
そんな箱舟国家のリーダー達は総じて箱舟の維持管理が行える高度な魔煌士や魔女達であり、その下で箱舟の防衛に当たっていたのが戦闘魔煌士であるマギライダーだった。
「何せ、狭い箱舟同士で戦争だもの。大所帯の軍隊なんて持てっこないだろ? そこで国家間の紛争はどこの国もマギライダーによってこじんまり解決させていく事になった。そんなマギライダーの肩書はいつしか騎士の称号みたいな扱いを受けていくのさ。そしてその頃がマギライダーの全盛期だね」
「そんな事があったのか……」
「歴史の勉強をすれば習うはずだけど。カナセは師匠に教えて貰ってないのかい? あの、何て人だったかなぁ? タタラ・変人?」
「ヘンジだよ。みんなよく間違えるけど……。まあ、歴史の方は確かに習った記憶に無いなぁ~」
「まあ、カナセの歴史の知識はさておき、一時だけどそんな時代があったのは確かだ。でも箱舟国家から干拓地国家に移行して、どこの国家もちゃんとした軍隊を持ち始めるとマギライダーの時代は終焉を迎えるんだ。けどマギライダーとしてのステータスは残った」
「ステータス?」
「ウチのご先祖様はマギライダーだって言われれば、何となく、箔が付くというか気分的に家格が周りより上がるみたいな……判るかな、僕の言ってるニュアンス?」
「ああ~成程。はいはい、判るよ」
カナセの中でカーニャの村で挨拶をした日の事が蘇る。
クレアが一言言ったマギライダーの言葉に何故か皆が感心していた。
その時はカナセも理由が判らなかったが村人達の感銘の裏にはそんな意味があったのだ。
「兎に角、そういうのをね、お金しか持ってない成金は欲しがるのさ。特に政治家になって目立ちたいって思ってる奴は特に。ラジオなんかで政見放送する時、肩書でチョロっとそんな事が出てくると、一般庶民の皆様の目を引いたりするの。ああ、あそこの御家のご先祖はマギライダーなんだ、偉いんだ。じゃあ一票入れてみようかしらって事になる訳。だがら我がエニール家も何代か前のご先祖様が高名なマギライダーの御家のお嬢さんをわざわざお嫁さんに貰ったりしてるんだ」
「へぇ~」
トギスの話を聞きながらカナセはしきりに感心していた。マギライダーにそんな裏事情があったとは思いも依らなかった。
しかし、その後にトギスはこうも言った。
「けどね、マギライダーの家系であるからには、今でもマギライダーが居ないと話にならない場合もあるのさ。あの家はマギライダーが先祖の癖に戦わないのか? 国防の意識はあるのか? 家族から兵隊を出してないとか言われるの。特に戦争中は」
「特に政治家を出してる名門の御家は?」
「そう、カナセも判って来たね」
「それでトギスがマギライダーの魔煌技を覚えさせられたと」
「全く持って不本意だよ。前にも言ったよね、僕は出来れば軍師とか政治的フィクサーになりたかったのに。選りにもよって銃弾が飛んでくる真ん前に立たされるなんて、丸っきりアベコベだろ? 理不尽だよ」
「成程、そういう事か」
カナセの中でトギスへの疑問が消えてスッキリした気分になった。
しかしトギスが受けたらしい理不尽さには特に同情もしなかった。
浜辺を超えてからの連合軍上陸部隊の進軍は順調に進捗した。上陸地点の海岸は確保され、すでに橋頭保まで構築され始めている。
それに合わせてなのか塹壕に潜むウラ鉄の守備隊も後退しながらの戦闘だった。
敵が居なくなるを観察しながらカナセたちは一旦、その場で停止する。少し歩兵達より前に出すぎた。彼等と歩調を合わせたい。
「しかし、変だな……」
「やっぱりカナセもそう思う? 配属されるならやっぱり僕みたいな優秀な人間は総司令部でないと……」
「いや、そうじゃなくって」
カナセが周囲を大きく眺めながら新たな疑問を口にする。
「ここってウラ鉄の重要な施設だろ? その割には戦力が少なくないか? 普通なら、この辺りにももっと大量の守備隊が居てもおかしくないはずなのに」
「そう言えば……。ここに来るまでの対戦車陣地や機関銃陣地もタレットだけってのが結構、多かったよね」
「それって何でだろう?」
「それはウラ鉄が戦力を各国に分散しすぎたのが原因よ。だからここギップフェル島は最初からもぬけの殻状態。手薄だと思うのなら正解よ」
突然、無線に女の声が割り込んできた。だがそれは聞き覚えのある声だった。
「誰た?」
「誰だっていうのは御挨拶ね。私よ、ワ、タ、シ!」
それは石像の魔女、ラーマ・パトリックの声だった。
「ラーマ先生か? どこに居る?」
「あなた達の後ろよ」
カナセたちが振り向くと乗用車を元にした三台のゴーレムが近寄って来た。その最後尾を歩く巨像のシートにラーマが腰かけている。
ラーマはサイドドアのガラスを下げるとそこから身を乗り出して二人の前に姿を晒した。
戦場の中でも紫髪の魔女は大人の魅力に溢れている。
「その節はどうも」
「お互い無事で何よりね」
「どうしてラーマ先生がここにるんだ? 確か後方の医療班に居るはずだろ?」
「そこは極秘任務よ。組合と司令部からのね」
「極秘任務? 何だいそれ?」
「あなた達にも言えないから極秘任務なの」
「女の秘密って奴か?」
「そういう事」
そう言ってお互いが冗談っぽく笑った。
昨夜に引き続き、思いも依らぬ場所での再会だ。
ただ美しい魔女の突然の来訪は知らぬ間にもう一人の青年の気持ちを揺さぶっていた。
二騎のマギアギアがラーマのゴーレムの前に出るとトギスからの無線が入る。
「は、初めまして! こんな成りで申し訳ございません。僕は魔煌陸戦隊隊員、トギス・エニールです。あのヨシュアのエニール家の一族の者です。ご存知でしょうか?」
トギスは目を輝かせながらラーマに挨拶をした。
そんなトギスに向かってラーマも大人の対応を示す。
「まあ、名家のご子息様であられますのね。挨拶が遅れまして、石像の魔女ラーマ・パトリックと申します。当家の方々からは日頃からお世話になっておりますわ。ですが失礼ながら名門の方がこの様な危険な戦場に?」
「勿論、国を守る為、自ら望んで出征した次第です。ヨシュアの為にこの身を捧げる事はエニール家の男子としての義務でありますから!」
それを聞いたカナセはヴァイハーンの中で笑い転げそうになった。先ほどまで怖くて泣き叫んでいた男のこの変わり様に呆れるよりも親しみを感じる。
一方でラーマの前でのトギスの大言壮語はまだ続いていた。
「私もラーマさんのお役に立ちたいと思う所存です! ここは戦場です。何が起こるか判りません。御用があったら何なりと御申し付け下さい!」
「まあ! 心強いお言葉。頼りにしておりますわ、トギス・エニール様。御身に我が守護神の幸あれ」
「は、はい! 有難き幸せ!」
美人からのお世辞にトギスも元気溌溂だ。
しかし泣かれたり落ち込んでいられるよりははるかにマシだった。
この調子で最後まで行ってもらいたい。
トギスの自己紹介が済むとラーマは改めて会話を戻す。
「でもあなた達こそ何でこんな所に居るの。てっきりナタルマと同じ中央のB海岸で戦ってたと思ってたわ」
「ウチの隊長を見たってのか? 配置をバラバラにされて、どっちがどうなったのかも判らないんだ」
「そうなの。でもナタルマなら楽しそうに暴れ回っていたわよ。例のマギアルマを使ってね。心配?」
「まさか。日頃の恨みが溜ってて逆におっ死んでくれる事を願ってるよ」
「まあ、酷い言い草。恨み辛みが募って憎さ千倍ってところね」
そう言ってラーマは苦笑した。
「ところであなた達、これからどうするの? もうこの辺りの敵は掃討出来たみたいだし塹壕も空っぽよ」
「何もしないさ。しいて言うならトギスと一緒にこのまま歩兵部隊と前進する。それか離れ離れになった原隊と合流するかのどっちかだ。もっとも、向こうがまだ生きてればの話だけどね」
「ふーん……じゃあ、今は暇を持て余してるって所ね」
「まあ、そんな所だけど……」
「ならこっちの仕事を手伝ってくれない?」
「手伝うって?」
「あなた達にも手柄を立てさせて上げるって言ってるの。種明かしをするとね。この先に島の中に引かれた鉄道の支線があるのよ。ウラ鉄はそれを使って移動し、少ない戦力を効率的に集中投入してるって話なの」
「もしかしてラーマの極秘任務って」
「その支線を破壊する事。でもね、悪いんだけど私のゴーレム達だけじゃ力不足なの。あなた達みたいな強いマギライダーに居てもらうと助かるんだけど……」
「はい、喜んで!」
ラーマの思わせぶりな言い方にトギスが真っ先に飛びついた。
「お任せ下さい! このトギス・エニール、作戦とあらば……いいえ、ラーマさんの為とあらばギップフェルの最深部までもお供させていただきます! なあ、カナセも良いだろ?」
トギスが自分の意見を押してくる。
「ええ? まあ、そうだな……」
そんな相棒を前にカナセは暫く考えを巡らせた。
もうC海岸は連合軍による制圧がほとんど完了していた。
これからB海岸への側面攻撃に移るはずだ。
どうも攻略戦は味方の方が優勢らしい。
カナセ達のマギアギアが離れた所で何の問題もないはずだ。
そして何よりラーマには個人的な借りが山の様にある。
「判った。先生の援護は任せてくれ。トギスと二人で全力で守るよ」
「ありがとう、カナセ君。トギスさんもね。二人とも頼りにしてるわ」
「えへへ、お任せ下さい」
「じゃあ、三人で早速、出発しましょう。私が先行するから二人とも付いてきて。道案内するわ」
「了解しました。さあ、カナセも早く、何より勢いって奴は大事だからね!」
「ああ、そうだな」
トギスが意気揚々と答えるとカナセもそれに頷いた。
六騎の鉄巨人は戦場から離れると、その先にある森の中へと踏み込んでいった。
遠くでは今も砲声が聞こえたが鬱蒼とした森の木々が深くなるにつれ、音は小さくなっていく。
まるでここだけ戦場と切り離された様な静けさだ。
しかし森の中は明確に敵の勢力圏内だ。敵の攻撃に備えて注意深く前進する必要がある。
その一方で目の前に広がる林の不規則な密度を前にカナセは驚きを覚えていた。
「こんなに自然の木が生い茂っているところなんて初めて見た……」
カナセが今まで暮らしてきた生活圏はオートルの小島とヨシュアの干拓地だった。
当然、そこに植えられている木も植林によるものがほとんどだったがここは違う。
それらはカナセが初めて目にする天然自然の森の姿だった。
「この幅広い葉の木はなんて木なんだろう……」
カナセは名も知らぬ植物に思いを馳せる。
だがその木々の景色が突然、途切れると、森を横断する長い鉄路が姿を現した。
カナセの注意が緑の木の葉から背中だけ銀色の赤黒い鉄の一本道へと移る。
線路はリードヒルで見た物と全く同じ構造だった。
「間違いなくウラ鉄の敷いた線路だ」
「ラーマさん、こいつを破壊すれば良いんですね?」
トギスがラーマに尋ねた。
支線は森を切り開いた回廊の様に南北に延びているだけで周囲の戦場からも遮断され敵の姿は見えない。破壊活動には絶好の場所と機会だった。
「ちょっと待って。司令部には時間を指定さてているの」
「時間?」
「ウラ鉄の列車がここを通る直前に線路を破壊するの。そうすると敵の被害も大きくなるでしょ」
「しかし列車がいつ来るかなんて判ったもんじゃないぜ」
「大丈夫、それに関してはちゃんと情報があるわ。今から二十分後にここを大型の貨物列車が通過するらしいの」
「なら、もうすぐじゃないですか。急いで準備しなきゃ」
「作戦を指示するわ。トギスさんはここから1㎞ほど先で列車が来るのを見張ってて頂戴。無線機でこちらに状況を逐次報告するの。絶対、見つかっちゃ駄目よ」
「お任せ下さい。きっとお役に立ってみせます」
「カナセ君はここで私のゴーレム達と一緒に線路を破壊して。やり方はアムタンクに繋がっているワイヤーをレールと枕木の間に何重にも通して四騎で引っ張れば行けると思うの。計算では列車はトギスさんの所から三十秒後にカナセ君の所に来ると思うから、十秒前にワイヤーを引いて線路を破壊してくれれば……」
「いや、ちょっと待ってくれ。それなら俺とトギスで役割を変えた方がいい。俺には魔煌探信の力があるから監視向きだよ。それにトギスの方が一体多いんだし煌力もあるから破壊工作向きだよ。そっちの方が適材適所だと思うんだけど」
「そうね、じゃあそうしましょうか」
カナセの意見をラーマが取り入れ、作戦は一部変更される。
「それでラーマさんは?」
「私はあなた達の反対側を見張ってるわ。もし何か異常があったら赤の発煙弾で知らせる。合図を見たら作戦は即、中止。二人とも森の中に逃げて」
「でもトギスの所に三騎ともよこしたら、自分が裸同然だぜ」
「大丈夫。森の中に潜んでいるから。変にゴーレムが居るより見つからないはずよ」
「了解。赤の発煙弾だね」
打ち合わせが終わるとカナセとトギスはラーマの指示通りに移動を開始した。
レールには何重にもワイヤーが巻かれその反対側では五騎の巨人が綱引きの要領で待ち構えていた。
一方でカナセのヴァイハーンはトギスから前方1㎞の場所で単身、森の中に潜伏し支線の様子を伺っていた。
カナセは線路を監視しながら作戦内容を振り返っていた。
「確かにその距離じゃあ急ブレーキをかけても止まらないだろうな。でもそれならこっちに積んである爆発物で吹っ飛ばした方が確実じゃないか?」
カナセの脳裏にそんな疑問が浮かんだ。
それを耳にしたラーマからの無線が返って来る。
「線路は後で連合軍が使うから出来るだけ傷付けるなって言われているわ」
「使うって?」
「知らないの? ヨシュアが戦争に勝ったら線路をどうするかって?」
「壊すんじゃないのか?」
「まさか、その逆よ。自分達で横取りする気でいるの」
「横取りって敵が作った物を自分達で使おうってか?」
「せっかく他人のお金で作られた大量輸送網よ。それを利用しない手はないわ。違うかしら?」
「そりゃ、まあ……」
「まあ、突然こんな事言われても納得できないでしょうね。ならそれがどんなに便利な物か知りたければ、この作戦が終わってから、何でもいい、私達和平派が出している鉄道関連の資料を見てみなさい。その試算された利益だけでも凄い額になるんだから」
「う~ん……。本当かなぁ?」
「なら簡単に証明してみせましょうか。今回の作戦でヨシュア艦隊が線路を横断する以外に何かしらの攻撃を線路にした記憶はある? 線路は鉄道の大動脈、弱点よ。長い線路の好きな場所を一か所、潰せば兵士も兵器も運べなくなる。それが手つかずなのは何故?」
「それは……」
「それはヨシュア共和国も戦後にあの路線を利用しようって魂胆があるからよ」
ラーマの言葉にカナセが頷く。それだけ彼女の説明が判りやすく説得力があったからだ。
「確かにラーマさんの言う事には一理あるな……」
「でしょ。だったらカナセ君の来なさい。和平派は何時でも歓迎するわよ」
「でもそれを納得出来ない人もいるんじゃないの?」
「勿論よ、特に主戦派の連中は皆、線路を見ただけで虫唾が走るって石頭ばっかりだから。特にあのクレアなんてその急先鋒……あっ」
話の途中でラーマが口を噤んだ。
「ごめんなさいね。こんな事、言ってたら、カナセ君、困っちゃうわよね」
「ああ、気にしないで。俺は平気だから……」
しかしカナセにとっては重要な懸念だった。
カナセにとってはラーマの誘いは思いのほか、魅力的なものだった。ヨシュアに来たのはいっぱしに成り上がる為だ。確かに納得出来ない部分もあるが、彼女の話はどこか未来志向で輝いて聞える時もある。
「けど、クレアは鉄道の事を毛嫌いしてるしなぁ……」
カナセはそれを直接、聞かされた過去もある。
「確かに石頭には困ったもんだ。もう少し柔らかく考えられないモンかなぁ~」
カナセはまだ自分の考えも纏まっていないのに変な所で思い悩んだ。
「いけない、無駄話が長くなったわ。作戦に戻らなきゃ!」
ラーマのひと声でカナセは時計を見る。列車の到達、五分前だ。
「じゃあ、また後でね。こっちの無線は封鎖するから」
「了解」
配置に着いてから間もなくすると、線路の向こうから汽笛が鳴った。
「流石は鉄道会社。定刻通り只今到着って奴か」
カナセは敵ながらその生真面目さに感心した。
最も、それ以前にカナセの魔煌探信が連結された列車のコアの反応を捕えていたが。
「しかしその定刻通りが命取りになるってもんよ。トギス、敵列車がもうすぐ1㎞付近に到達するぞ」
「了解!」
だがその時、カナセの中でふと疑問が湧いた。
「何でラーマは無線を封鎖したんだろう?」
だがそう感じた頃には、列車は既に直前にまで迫っていた。
カナセの中で疑問が風に吹かれた様に消えていく。
「今、到達した。後は頼むぞ!」
カナセが合図を送った。
だがその直後、無線からトギスの悲鳴が返ってきた。
「うわぁ! カナセ! ゴーレムがぁ!」
「トギス、どうした?!」
明らかに様子がおかしい。まるで敵の不意打ちを受けた様な叫び声た。
「ラーマ!」
カナセは異常を知らせようとラーマに向かって叫ぶ。
そんな中、トギスの居る場所の更に後ろから発煙弾が飛んだ。
煙の色は青、異常を知らせるのは赤のはず。
「青? 青ってなんだ? ラーマ! ラーマさん!」
ラーマの不可解な行動にカナセの気が動転する。しかし一つだけ明らかな事がある。
「作戦は失敗だ! 早く二人の所に!」
カナセはヴァイハーンを森の中へと走らせようとした。
その横ではウラ鉄の列車が軌道を軋ませながら通り過ぎていく。
列車は無数の砲座や銃座で完全武装を施した厳めしい装甲列車だった。
そして装甲列車の最後尾の貨車から何かの影が飛び下りた。
それが新たに現れた敵だと知ったのは、相手がカナセの目の前に迫った後だった。
現れたのは先ほどと同じく、ウラ鉄のグリペン型主力戦車を変形させた煌装騎だった。
しかし形状は全く違う。
獅子の頭の胸当ても勇ましく、滑らかな曲線で構成された流麗な鉄巨人。
そして肩には白で103號の番号が振られていた。
「敵だ! ウラ鉄のマギアギアだ!」
カナセの背筋がざわつく。突然現れたマギアギアが一目で強敵だと直感したからだ。
もはや仲間を救いに行ける状況ではない。
目の前の敵に全力を尽くさなければ倒されるのはカナセ自身だ。




