「揺らぐ刃と見えない牙」
第5話です。追手であるセリアとルクスにはどんな関係が…少し分かるかもなお話です。
風が、止んでいた。
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葉が揺れない。
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擦れる音すら、遠い。
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息をするたび、空気だけがやけに重い。
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(……しつこいな)
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ルクスは歩みを緩めない。
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気配は消している。
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足跡も、痕跡も残していない。
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それでも。
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(振り切ったはずだろ)
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気配が、離れない。
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一定の距離を保ったまま。
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正確に、追ってくる。
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(……ただの相手じゃねえ)
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逃げ道をなぞるように、詰めてくる気配。
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迷いがない。
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「――そこだ」
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声が落ちる。
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同時に。
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空気が裂けた。
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一直線の斬撃。
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ルクスは散る。
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地面へ流れ、軌道を外す。
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刃が通り過ぎる。
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遅れて、地面が抉れた。
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(速え……!)
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即座に戻る。
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形を繋ぎ直し、距離を取る。
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視線の先。
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女が立っている。
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剣を構えたまま。
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セリア。
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隙がない。
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ただ立っているだけで、間合いを支配している。
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「逃げるな」
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温度のない声。
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「抵抗をやめろ」
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「やめたら終わりだろうが」
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吐き捨てる。
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軽く言ったつもりだった。
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だが。
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(見えてる)
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分散も、再構成も。
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全部、読まれている。
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セリアが踏み込む。
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無駄がない。
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一直線。
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ルクスは広がる。
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木へ。
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地面へ。
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空気へ。
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逃がす。
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「――無駄だ」
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剣が振られる。
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本体だけを、正確に捉える。
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(……っ!)
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咄嗟に引く。
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だが、浅く当たる。
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衝撃。
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形が崩れる。
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「くっ……!」
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無理やり戻す。
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距離を取る。
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(削られてる……)
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じわじわと、確実に。
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長引けば終わる。
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「……やはりな」
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セリアが呟く。
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「普通ではない」
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「そりゃどうも」
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返す。
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だが、余裕はない。
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セリアは動かない。
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剣を構えたまま。
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ただ、見ている。
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観察している。
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(……なんだよ、その目)
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違和感。
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敵を見るそれじゃない。
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一歩、踏み出す。
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「お前は――」
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言いかける。
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その瞬間。
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ルクスの動きが止まる。
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(……なんだ)
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視界の中の女。
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構え。
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立ち方。
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(……知ってる)
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引っかかる。
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理由はない。
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だが。
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確かに、“覚えがある”。
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セリアの目が、わずかに揺れる。
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「……似ている」
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小さく漏れる。
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「は?」
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ルクスが眉をひそめる。
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だが。
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次の瞬間。
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セリアの気配が変わる。
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迷いを、断ち切るように。
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「……やはり危険だ」
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結論。
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「ここで拘束する」
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「だからそれ無理だって――」
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踏み込み。
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さっきより速い。
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剣が迫る。
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避ける。
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間に合わない。
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咄嗟に。
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形を歪める。
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流す。
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刃が、すり抜ける。
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「……!」
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セリアの目が見開かれる。
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(今のは……)
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自分でも分からない。
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だが。
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避けた。
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確実に。
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その一瞬。
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止まる。
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互いに動かない。
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視線だけが交差する。
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「……お前」
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セリアが呟く。
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その時。
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空気が、沈んだ。
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重い。
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息が詰まる。
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背筋が、勝手に強張る。
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(……なんだ、これ)
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さっきまでとは違う。
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“圧”がある。
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森が、軋む。
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音はないのに、そう感じる。
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セリアも気づく。
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わずかに視線が逸れる。
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判断。
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速い。
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「……撤退だ」
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短く言う。
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「は?」
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思わず声が出る。
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だが、セリアはもう構えていない。
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剣を下げる。
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「命令だ」
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それだけ。
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感情はない。
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だが。
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一瞬だけ。
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視線が戻る。
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ルクスへ。
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「……次は」
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わずかに、間。
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「迷わない」
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背を向ける。
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森の奥へ消える。
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気配が遠ざかる。
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やがて、完全に消える。
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残されたのは。
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重い空気だけ。
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ルクスは、その場に立つ。
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「……なんだよ、それ」
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理解が追いつかない。
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確実に、殺す気だった。
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それなのに、引いた。
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(……それより)
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さっきの圧。
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あれは。
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セリアじゃない。
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もっと重い。
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もっと深い。
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息が浅くなる。
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(……まだ終わらないのかよ)
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小さく吐く。
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その時。
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背後に、“いる”。
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気づいた時には、もう遅い。
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振り返る。
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闇の中。
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輪郭だけが、そこにある。
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見えない。
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だが、分かる。
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視線だけが、刺さる。
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獣。
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底のない、何か。
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「……逃げないのか」
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低い声が落ちる。
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ルクスは動かない。
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逃げる意味がないと、分かっている。
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息を吐く。
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「……逃げても無駄だろ」
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言いながら、構える。
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身体が軋む。
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直感が告げている。
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今までとは、違うと。
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夜は、まだ終わらない。
いや分かんねえのかよ!ってなったよねぇ〜。引っ張っちゃってごめんよぉ〜。もう少しで分かるかもしれませんし分からないかもしれません(計画がどんどんズレていくことに少し焦り)。では第6話で会いましょう




