「残滓」
月の中盤なのにお金がない…ご利用は計画的に
森は、静まり返っていた。
風は吹いている。だが、それ以外の音がない。
不自然な静寂だった。
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セリアは足を止める。
「……ここか」
視線を落とす。
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地面には、戦闘の痕跡が残っていた。
焼け焦げた土。抉れた跡。
だが、それだけだ。
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「……少ないな」
小さく呟く。
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「何が、ですか」
背後の部下が問う。
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「情報が、だ」
セリアはしゃがみ込み、地面に触れる。
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乾いている。
熱はすでに消えていた。
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だが、指先にわずかな違和感が残る。
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「……水?」
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ぬめり。
焼けた土の中に、不自然に残っている。
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火と水。
本来、同時には成立しない。
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「……あり得ない」
理屈では、そうなる。
だが、現実は違う。
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セリアはゆっくりと立ち上がる。
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「魔物の仕業ではないな」
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部下がわずかに息を呑む。
「では……」
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「分からん」
即答だった。
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「だからこそ、妙だ」
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通常であれば、報告はもっと具体的だ。
種類、数、行動。
すべてが記録される。
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だが今回は違う。
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(“反応あり”のみ)
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あまりにも曖昧だった。
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「……上は、何を考えている」
小さく零す。
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だが、それ以上は踏み込まない。
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(命令は、命令だ)
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疑う必要はない。
従うことが正しい。
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――そのはずだ。
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視線を巡らせる。
森は静かだった。
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その中で、ふと。
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引っかかる。
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(……この感じ)
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言葉にはならない。
だが、確かに覚えがある。
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セリアの眉がわずかに寄る。
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「……どうしました」
部下の声。
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「いや」
短く首を振る。
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「気のせいだ」
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そう言い切る。
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だが、足が動かない。
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一瞬だけ、視界が揺れる。
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炎。
崩れる家。
響く悲鳴。
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『セリア』
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呼ばれた気がした。
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「……」
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呼吸がわずかに乱れる。
すぐに整える。
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(違う)
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あれは過去だ。
終わったことだ。
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関係ない。
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そう切り捨てる。
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それでも、完全には消えない。
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違和感として、残る。
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その時。
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風が動いた。
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葉が揺れる。
空気が変わる。
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セリアの目が細くなる。
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(……いる)
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確信に近い感覚。
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気配は薄い。
だが、確かに存在している。
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あの時と、似ている。
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理解できない何か。
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セリアは剣に手をかける。
だが、抜かない。
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まだ確証がない。
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「……何者だ」
低く呟く。
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返答はない。
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当然だ。
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だが、踏み出す。
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一歩。
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その瞬間。
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気配が揺れた。
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(逃げる……?)
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反応は速い。
即座に追う。
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だが、掴めない。
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気配が散っている。
広がっている。
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(……なんだ、これは)
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理解が追いつかない。
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だが、確かに感じる。
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そこに、“いた”。
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セリアは足を止める。
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それ以上は追えない。
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完全に消えていた。
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森は再び、静寂を取り戻す。
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「……逃したか」
小さく息を吐く。
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だが、その目は鋭いままだった。
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「……いるな」
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確信は消えていない。
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そして、もう一つ。
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(……似ている)
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あの時の“何か”と。
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あり得ないはずの記憶。
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だが、それでも。
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「……」
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言葉にはしない。
できない。
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認めるには、あまりにも都合が悪すぎた。
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「戻るぞ」
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背を向ける。
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だが、その違和感だけは。
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消えなかった。
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静かに。
確かに。
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残り続けていた。
ということで第4話でした。次回はルクス視点に戻ります。どこかでキャラのプロフィールなんか紹介しようかな〜




