「境界へ」
46話です。
轟音が地下空間へ響いていた。
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砕けた床。
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暴走した魔力。
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未だ収まらない境界色の光が、空間そのものを歪ませている。
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騎士達は倒れ込み、
誰も近づけなかった。
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セリア自身も、何が起きているのか分からない。
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熱い。
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苦しい。
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身体の奥で、
何かが軋んでいる。
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「っ……ぁ……!」
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膝をつく。
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その瞬間。
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ふわりと身体が支えられた。
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リリスだった。
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「大丈夫」
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優しい声。
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セリアは苦しそうに睨む。
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「……触るな」
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だがリリスは怒らない。
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むしろ少し悲しそうに笑った。
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「どうしてそんなに怖がるの?」
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「あなた、壊れかけてる」
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その言葉に、セリアの呼吸が止まる。
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壊れる。
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その言葉が妙に現実味を持って響いた。
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レオンハルトが一歩前へ出る。
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「リリス」
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低い声。
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「それ以上、刺激するな」
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リリスはゆっくり振り返る。
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その顔から笑みが消えていた。
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「刺激したのは、そっちでしょう?」
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地下の核が脈打つ。
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どくん。
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どくん。
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リリスは静かに核を見る。
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「怖がって」
「閉じ込めて」
「線を引いて」
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「それで壊れないと思ったの?」
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レオンハルトは答えない。
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沈黙だけが落ちる。
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セリアは苦しそうに呼吸する。
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その時。
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リリスがそっとセリアの手を握った。
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温かかった。
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「来て」
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小さな声。
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「ここにいたら、あなたは消される」
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セリアの目が揺れる。
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王国。
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騎士。
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自分の居場所だった場所。
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なのに今は、
そこから拒絶されている。
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リリスが静かに囁く。
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「怖いなら」
「まだ全部を受け入れなくていい」
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「でも」
「知ることは出来る」
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セリアは唇を噛む。
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分からない。
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境界が何なのか。
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自分がどうなるのか。
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リリスを信じていいのかも。
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全部。
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分からない。
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だが。
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何も知らないまま、
拒絶したくなかった。
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その時。
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ルクスの顔が浮かぶ。
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『自分で選ぶんだ』
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不器用な声。
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でも真っ直ぐだった。
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セリアはゆっくり目を閉じる。
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そして。
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震える足で立ち上がった。
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レオンハルトが目を見開く。
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「待て、セリア!」
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セリアは振り返らない。
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「……分からないの」
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小さな声。
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「王国も」
「境界も」
「自分が何なのかも」
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境界色の光が静かに揺れる。
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「でも」
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セリアは前を見る。
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リリスの向こう。
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空間の奥。
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そこには、
現実とも夢とも違う“何か”が広がっていた。
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怖い。
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それでも。
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「私は」
「自分で知りたい」
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その言葉に。
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リリスが静かに笑った。
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今までで一番、
穏やかな笑みだった。
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次の瞬間。
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空間が揺らぐ。
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境界が開く。
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セリアは一歩踏み出した。
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王国でもない。
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魔物側でもない。
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その狭間へ。
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自分の意思で。




