「知らないもの」
45話です
地下空間へ、核の脈動音が響いていた。
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どくん。
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どくん。
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巨大な鼓動。
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まるで王国そのものが生きているみたいだった。
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セリアは荒い呼吸のまま膝をついている。
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胸の奥が熱い。
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苦しい。
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身体の中で、
何かが動いている。
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リリスが静かに支えていた。
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「離れて……」
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セリアが苦しそうに呟く。
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だがリリスは優しく微笑むだけだった。
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「どうして?」
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「こんなに綺麗なのに」
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その言葉に、セリアは顔を歪める。
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「何が……綺麗よ」
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リリスは答えない。
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ただ、変わり始めたセリアを見つめていた。
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その時。
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レオンハルトが静かに口を開く。
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「……それが境界汚染だ」
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セリアの目が揺れる。
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「境界……?」
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聞いたことはある。
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だが。
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それが何なのか、
セリアは知らなかった。
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「……境界って何なのよ」
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レオンハルトは少し黙る。
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そして核を見上げた。
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「人と魔物」
「その理から外れたものだ」
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曖昧な答え。
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だが、その曖昧さが逆に怖かった。
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理解できない。
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なのに。
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自分の身体は、
確かにそれへ近づいている。
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セリアは拳を握る。
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「だから……私を殺そうとしたの?」
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レオンハルトは目を閉じる。
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否定しない。
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その沈黙が答えだった。
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セリアの胸が締め付けられる。
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王国騎士として生きてきた。
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守るために戦ってきた。
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なのに。
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王国は自分を“危険”として見ていた。
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レオンハルトの低い声が響く。
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「人は弱い」
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「未知を恐れる」
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「だから境界を広げ過ぎてはならない」
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「秩序が壊れる」
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その言葉に、
セリアは唇を噛んだ。
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どこかで理解できてしまう自分がいた。
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恐ろしいものを見た時。
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人は線を引きたくなる。
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敵と味方。
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正常と異常。
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安心できる境界を。
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だが。
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ルクスの顔が浮かんだ。
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不器用で。
迷って。
それでも前へ進もうとしていた。
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セリアは小さく首を振る。
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「……違う」
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レオンハルトが視線を向ける。
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セリアは震えながら立ち上がった。
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「苦しくても」
「怖くても」
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「それでも選ぼうとしてた」
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「ルクスも」
「カインも」
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「……私はまだ分からない」
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胸を押さえる。
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熱い。
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怖い。
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「境界が何なのかも」
「自分がどうなるのかも」
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「でも……!」
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その瞬間。
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核が強く脈打った。
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どくん――!!
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白い光が地下空間へ広がる。
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セリアの身体が震える。
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「っ……!!」
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視界が歪む。
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空間が揺れる。
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騎士達が後退った。
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「な、何だ……!?」
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「空間が……!」
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セリアの髪がふわりと浮く。
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淡い光。
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身体の周囲へ、
境界色の粒子が舞い始める。
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レオンハルトの目が見開かれた。
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「まさか……」
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リリスだけが静かだった。
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むしろ。
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嬉しそうですらある。
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「怖い?」
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彼女が優しく囁く。
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「なら、変わってしまえばいい」
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「知らなくてもいいの」
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「受け入れれば、全部分かるから」
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甘い声。
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だからこそ怖かった。
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セリアの中で、
何かが揺れる。
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楽になりたい。
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逃げたい。
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そんな感情が、一瞬だけ脳裏をよぎる。
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だが。
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ルクスの声が浮かんだ。
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『自分で選ぶんだ』
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セリアの目が開く。
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そして。
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震える声で叫んだ。
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「勝手に決めないで!!」
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轟音。
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空間が大きく歪む。
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境界色の光が一気に吹き荒れた。
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騎士達が吹き飛ばされる。
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核が激しく脈動する。
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レオンハルトすら一歩後退った。
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セリアの瞳が淡く光る。
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王国でもない。
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魔物でもない。
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その狭間みたいな、不安定な色。
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リリスはその姿を見て、
静かに目を細めた。
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そして。
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心の底から愛おしそうに呟く。
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「……綺麗」
45話でした。どうなるセリア




