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最弱テイマーは総てを溶かす  作者: コクトー
揺らぐ世界は誰の為に
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43/52

「闇の観測者

43話です。

歪んだ空間の先は、静寂を貫いていた。



風もない。



音もない。



白にも黒にも見える曖昧な世界。



まるで境界そのものへ入り込んだみたいだった。



カインが眉をひそめる。



「……何度来ても慣れねぇ場所だな」



足元へ薄く氷が広がる。



だが、その冷気すら空間へ溶けていく。



ルクスは何も言わなかった。



ただ前を見る。



空間の奥。



そこに、一人の少女が座っていた。



小柄な身体。



淡い銀色の髪。



静かな瞳。



以前と変わらない姿。



まるで最初から、そこにいたみたいに。



少女はゆっくり顔を上げる。



そして小さく言った。



「来たのね」



カインが肩を竦める。



「……またお前か」



少女――魔王は特に気にした様子もない。



その視線は、真っ直ぐルクスへ向いていた。



しばらく沈黙が続く。



不思議と嫌な空気ではない。



だが。



この少女が普通ではないことだけは、本能で分かった。



ルクスは静かに口を開く。



「……あんたは何なんだ」



魔王は少しだけ首を傾げる。



「魔王」



簡単な答え。



だが、その言葉だけで空間が僅かに軋んだ。



カインが鼻で笑う。



「便利な名前だな」



魔王は反応しない。



ただ、ルクスを見ていた。



「変わった」



ぽつりと呟く。



「前のあなたは」


「ただ流されていただけだった」



「今は違う」



少女の瞳が静かに揺れる。



「選ぼうとしている」



その言葉に、ルクスは少しだけ目を細めた。



魔王は続ける。



「あなた達は変われた」



「でも」



空間が微かに揺らぐ。



「他の人間は?」



静かな問い。



だが重かった。



カインが眉をひそめる。



その時だった。



空間の奥。



何かの気配が揺れた。



ルクスは反射的にそちらを見る。



だが、何もいない。



ただ。



“誰か”がいる。



そんな感覚だけが残った。



カインが小さく舌打ちする。



「……まだいたのか」



魔王は静かに言う。



「あなたも知っているでしょう」



「変わることを望む者」



「変わらないことを望む者」



「色々いる」



曖昧な答え。



だが、その言葉だけで十分だった。



この少女だけではない。



境界の向こうには、

まだ何かがいる。



ルクスは静かに拳を握る。



魔王はどこか遠くを見る。



「人は恐怖する」



「だから、すぐに答えを欲しがる」



「役割を与えられれば安心する」



「変えられれば、考えなくて済む」



その声には、

嘲笑も怒りもなかった。



ただ観測している。



それだけだった。



「人は」


「本当に選び続けられるの?」



純粋な疑問。



だからこそ、不気味だった。



ルクスは静かに息を吐く。



そして。



「分からない」



カインが少し驚いた顔をする。



だがルクスは続けた。



「間違う奴もいると思う」



「逃げる奴もいる」



「変われない奴もいる」



小さく拳を握る。



「でも」



セリアの顔が浮かぶ。



泣きそうな顔で、それでも前を向いていた。



カインの背中が浮かぶ。



暴走しても、なお戦おうとしていた。



ミリスのスライム達。



全部。



自分で選び始めていた。



「それでも」


「選ぼうとする奴はいる」



ルクスは真っ直ぐ魔王を見る。



「だから俺は」


「それを信じたい」



沈黙。



長い静寂。



やがて。



魔王が、ほんの少しだけ目を細めた。



「……そう」



その瞬間。



空間が軋む。



白と黒の境界が揺らぎ始める。



カインが低く構える。



魔王は静かに立ち上がった。



小柄な身体。



なのに。



世界そのものが動いたみたいな圧力が広がる。



「なら」



少女は静かにルクスを見る。



「見せて」



その瞳が、初めて少しだけ熱を持った。



「人が」


「選び続けられる存在だと」



次の瞬間。



境界が、砕けた。

43話でした

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