選び取る炎
42話です。またルクスとカインの場面に戻ります
炎が空を裂く。
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轟音。
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赤熱した大地が砕け、熱風が吹き荒れる。
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イグニスは止まらなかった。
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巨大な炎が渦を巻き、まるで生き物みたいに牙を剥く。
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「ならば見せろ!!」
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轟炎。
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「その選択の熱を!!」
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炎の獣がルクスへ襲いかかる。
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だがルクスは逃げなかった。
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足を止める。
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真正面から、その炎を見る。
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「来るぞ!!」
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カインが氷を叩き込みながら叫ぶ。
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白銀の氷狼が咆哮する。
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炎と氷が激突。
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蒸気が爆ぜた。
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だが。
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炎は止まらない。
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イグニスの炎は以前より重かった。
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ただ燃やすだけじゃない。
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“意志”そのものだった。
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ルクスの頬を熱風が裂く。
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だが。
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目は逸らさない。
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イグニスが踏み込む。
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炎の剣。
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ルクスも前へ出た。
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赤い炎と、蒼い炎がぶつかる。
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轟音。
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地面が割れた。
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イグニスの目が細くなる。
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「まだ迷っているな」
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炎が押し込まれる。
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ルクスの足元が砕けた。
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「お前の炎は」
「優しすぎる」
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「それでは世界は変わらん!!」
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次の瞬間。
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爆炎。
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ルクスごと炎が飲み込まれる。
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カインが叫ぶ。
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「ルクス!!」
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炎の中。
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ルクスは歯を食いしばっていた。
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熱い。
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苦しい。
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それでも。
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消えたくはなかった。
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消させたくもなかった。
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その時だった。
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脳裏に浮かぶ。
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森。
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スライム達。
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セリア。
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カイン。
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ミリス。
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全部、自分で選んできた。
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誰かに決められたものじゃない。
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胸の奥が熱を持つ。
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炎が揺らいだ。
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ルクスが顔を上げる。
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「……違う」
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炎が広がる。
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だがそれは、
以前みたいに喰らう炎ではなかった。
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赤を拒絶しない。
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押し潰さない。
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混ざり合いながら、
なお燃え続ける炎。
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イグニスの目が見開かれる。
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「……その炎は」
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ルクスが前へ踏み込む。
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炎がぶつかる。
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だが。
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今度は弾けなかった。
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赤と蒼。
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二つの炎が混ざり合う。
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境界みたいな色へ変わっていく。
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イグニスが初めて押された。
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大地が軋む。
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「馬鹿な……!」
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ルクスが叫ぶ。
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「変わるのは!!」
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炎が揺れる。
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「誰かに決められることじゃない!!」
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轟炎。
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「自分で選ぶんだ!!」
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その瞬間。
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炎が一気に膨れ上がった。
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境界色の炎が、
イグニスの炎を飲み込む。
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だが。
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燃やし尽くさない。
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包み込む。
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静かに。
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熱を受け止めるみたいに。
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イグニスの動きが止まった。
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揺れる炎の中で、
ルクスを見つめる。
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長い沈黙。
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やがて。
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イグニスがゆっくり炎の剣を下ろした。
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荒れ狂っていた炎が、
静かに消えていく。
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カインが息を吐いた。
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「……終わったか」
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イグニスは答えない。
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ただ、ルクスを見ていた。
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そして。
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ほんの少しだけ笑った。
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「以前の貴様なら」
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「この炎を喰らっていた」
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風が吹く。
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赤い炎が静かに揺れる。
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「今は違う」
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「貴様は、自ら選び燃えている」
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ルクスは黙って聞いていた。
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イグニスはゆっくり振り返る。
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炎の向こう。
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空間が歪んでいる。
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「進め」
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「魔王様は、この先におられる」
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カインが眉をひそめる。
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「……いいのかよ」
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イグニスは空を見上げた。
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「貴様らが何を選ぶのか」
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「少し興味が湧いた」
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その言葉に。
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ルクスは少しだけ笑った。
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カインも肩を竦める。
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「炎野郎にしちゃ上出来だ」
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「貴様ほどではない、氷狼」
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短いやり取り。
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だがそこには、
もう以前みたいな殺意はなかった。
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ルクス達は炎の先へ歩き出す。
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歪む空間。
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その奥にいる存在を感じながら。
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背後では。
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赤い炎が、静かに燃え続けていた
42話でした。今日は1話だけ掲載して明日からまた2話掲載に戻ります。




