「果ての誘い」
41話です
森の空気が張り詰める。
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騎士達が剣を構えたまま後退る。
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ガーゴイルは動かない。
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ただ、赤い瞳だけがこちらを見下ろしていた。
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その肩へ手を置いた女は、静かにセリアを見つめている。
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妙だった。
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敵意を向けられているはずなのに。
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まるで“探していたもの”を見つけたみたいな目だった。
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セリアがゆっくり剣を抜く。
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「……貴方は何者なの」
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女は少しだけ目を細めた。
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そして柔らかく笑う。
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「私はリリス」
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その名を聞いた瞬間。
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騎士達の顔色が変わる。
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「まさか……」
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「境界側の……!」
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ざわめきが広がる。
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だがリリスは気にした様子もない。
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その視線はずっとセリアへ向けられていた。
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「ようやく見つけた」
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「随分、反応が強くなってるわね」
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セリアの眉が寄る。
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「……反応?」
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その瞬間だった。
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胸の奥が熱を持つ。
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「っ……!」
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セリアが思わず胸を押さえる。
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脈打つ。
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身体の奥で、何かが揺れている。
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リリスはその様子を見て、どこか嬉しそうに笑った。
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「やっぱり」
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「貴方、境界へ近づいてる」
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騎士達がざわつく。
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「何を言っている!」
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一人の騎士が前へ出る。
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「セリア隊長から離れろ!」
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次の瞬間。
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ガーゴイルが動いた。
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轟音。
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巨大な腕が地面を砕く。
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騎士達が吹き飛ばされた。
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「ぐぁっ!?」
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「構えろ!!」
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森へ怒号が響く。
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セリアも剣を構える。
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だがリリスは戦う気配を見せない。
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ただ静かに言う。
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「ねえ、セリア」
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「貴方、自分が何故討伐対象になったのか」
「分かってないでしょう?」
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セリアの動きが止まる。
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リリスは微笑んだまま続けた。
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「王国は怖がってるのよ」
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「変わってしまう人間を」
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「選び始めた人間を」
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その言葉に、セリアの胸がざわつく。
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王国。
討伐命令。
ルクス達。
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全部が頭の中で繋がり始める。
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「……何を知ってるの」
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「色々」
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リリスは軽く答える。
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「でも、今はまだいいわ」
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その瞬間。
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ガーゴイルが再び地面を砕いた。
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騎士達が完全に押され始める。
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セリアが舌打ちし、前へ出ようとする。
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だが。
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リリスがそっと指を伸ばした。
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触れてすらいない。
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なのに。
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セリアの身体が動かなくなる。
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「っ……!?」
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空気が絡みつくみたいだった。
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リリスが静かに近づく。
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「大丈夫」
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「怖がらなくていい」
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その声は優しい。
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だからこそ、不気味だった。
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セリアが睨む。
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「近づくな……!」
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リリスは少しだけ悲しそうに目を伏せる。
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「どうしてそんなに拒むの?」
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「もっと自由になれるのに」
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「貴方は、どちらにもなれる」
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その瞬間。
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セリアの胸の奥が強く脈打った。
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視界が揺れる。
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熱い。
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何かが身体の奥で目覚めようとしていた。
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騎士達の声が遠くなる。
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セリアが剣を支えに膝をつく。
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「隊長!!」
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リリスはしゃがみ込み、セリアの顔を覗き込む。
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そして、そっと囁いた。
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「ねえ」
「本当の自分を知りたくない?」
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その言葉と同時に。
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セリアの瞳が、一瞬だけ淡く揺らいだ。
41話でした〜




