「炎の対話」
39話です。
轟炎が岩場を飲み込んだ。
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熱風。
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砕けた岩が宙を舞う。
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カインが舌打ちしながら跳ぶ。
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「やっぱこうなるかよ!」
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ルクスも炎の中を滑るように抜けた。
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赤熱した地面。
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焦げた空気。
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その中心で、イグニスは静かに立っている。
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燃える瞳が二人を見据えていた。
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「魔王様を知りたいと言ったな」
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低い声。
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「ならば示せ」
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炎が揺らぐ。
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「力を」
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熱が膨れ上がる。
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「その熱を」
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空気が軋む。
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「炎を」
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次の瞬間。
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巨大な火柱が空へ噴き上がった。
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ルクスは咄嗟に腕を上げる。
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熱。
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けれど。
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以前とは違った。
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「……っ」
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炎が流れ込んでくる。
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暴れるような熱。
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怒り。
執念。
誇り。
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まるで感情そのものだった。
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イグニスが踏み込む。
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「何故戦わん」
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炎の剣が振り下ろされる。
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ルクスは受け止める。
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熱が弾けた。
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だが。
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ルクスは押し返さなかった。
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イグニスの目が細くなる。
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「……何故返さない」
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ルクスは炎を受け止めたまま答える。
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「話しに来たから」
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一瞬。
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イグニスの炎が揺れた。
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だが次の瞬間。
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爆炎。
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ルクスごと炎が飲み込まれる。
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カインが氷を叩き込む。
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白い氷と赤い炎がぶつかり、蒸気が爆ぜた。
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「おいルクス!」
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炎の奥。
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そこに立っていたルクスは、静かに息を吐いていた。
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身体の周囲で、炎が揺れている。
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だが。
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燃えていない。
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まるで熱だけを包み込むみたいに、静かに流れていた。
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イグニスが眉をひそめる。
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「……鎮めたのか」
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ルクス自身も少し驚いた顔をしていた。
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「分からない」
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「でも」
「怒ってる炎だったから」
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その言葉に、カインが目を見開く。
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イグニスは黙ったままルクスを見る。
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炎が揺れる。
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以前のルクスなら。
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力を奪った。
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飲み込み、利用した。
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だが今は違う。
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受け止めている。
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イグニスが低く言う。
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「甘いな」
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次の瞬間。
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炎が地面を走った。
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轟音。
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赤い獣みたいな炎がルクスへ喰らいつく。
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カインが氷壁を展開する。
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だが一瞬で溶けた。
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「っ、馬鹿火力が!」
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イグニスは止まらない。
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「理解を望むなら」
「何故そこまで弱い」
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「貴様の炎には覚悟が足りん」
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炎が迫る。
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ルクスは避けない。
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静かに、その炎へ手を伸ばした。
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瞬間。
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赤い炎が揺らぐ。
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燃え盛る熱が、少しだけ静かになる。
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イグニスの瞳が僅かに見開かれた。
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「……何をした」
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「分からない」
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ルクスは正直に答える。
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「でも」
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炎を見つめる。
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「お前の炎」
「ずっと苦しそうだった」
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空気が止まった。
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カインですら黙る。
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イグニスの炎が、不安定に揺れた。
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「……貴様」
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その声には、僅かな苛立ちが混じっていた。
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だが。
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それだけではなかった。
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迷い。
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理解できないものへの戸惑い。
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イグニスは炎を纏い直す。
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「炎とは意思だ」
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「迷う炎は脆い」
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「燃やし尽くしてこそ完成する」
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ルクスは首を傾げた。
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「でも」
「燃やしたら無くなるだろ」
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「……何?」
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「混ざった方が、残る」
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その瞬間。
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ルクスの炎が揺れた。
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赤でもない。
青でもない。
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境界みたいな、曖昧な光。
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イグニスの目が細くなる。
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「……変わったな」
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炎がぶつかる。
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熱風が世界を揺らす。
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だが以前とは違った。
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殺意だけじゃない。
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そこには確かに、“問い”があった。
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イグニスは炎を放ちながら呟く。
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「以前の貴様らは」
「ただ生き延びようとしていただけだ」
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「今は違う」
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ルクスは炎の中で立っている。
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イグニスはその姿を見つめた。
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「思想の熱がある」
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轟炎。
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だがその声は、以前より静かだった。
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まるで。
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確かめるように。
わかりあうための戦い。時には傷つき傷つけてわかり合えることもあると思います。




