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最弱テイマーは総てを溶かす  作者: コクトー
第四章 境界の外
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37/52

「繋がる別れ」

37話です。傷を共有した3人がまた歩き出します

ミリスの里の夜は静かだった。



湖は淡く揺れ、空には星が広がっている。



昼間に見た過去が、まだ胸の奥へ残っていた。



セリアは湖の近くに座り込んでいた。



手には王国騎士の紋章。



レイス達との戦闘で傷ついたそれを、じっと見つめている。



「眠れねえのか」



カインの声。



セリアは振り返らない。



「そっちこそ」



カインは少し離れた岩へ腰を下ろした。



しばらく沈黙。



風だけが静かに吹く。



やがてセリアが小さく呟いた。



「……私、ちゃんと出来るのかな」



「何をだ」



セリアは紋章を握る。



「王国と向き合うこと」



少し間を置いて、続けた。



「もしまたレイス達みたいなのがいたら」


「私は本当に剣を向けられるのかなって」



その声には、迷いが残っていた。



カインはセリアの手を見る。



紋章を握る指先が、少しだけ震えていた。



「……震えてんぞ」



「震えてない」



「いや震えてるだろ」



「寒いのよ」



カインが周囲を見る。



「ここそこまで寒くねえぞ」



「うるさいわね!」



セリアが睨む。



けれどその強さは、いつもより少しだけ弱かった。



カインは小さく笑う。



「安心した」



「は?」



カインは空を見上げたまま言う。



「震えなくなってたら」


「お前じゃねえ」



セリアは少し黙る。



風が髪を揺らした。



カインは続ける。



「前のお前なら、多分止まってた」



レイス達へ剣を向けられず、

全部抱え込んで壊れていた。



でも今は違う。



セリアは苦しみながらも、自分で選ぼうとしている。



カインが肩を竦めた。



「倒すんじゃなくて、止めようとしてる」



「……うん」



「なら、多分間違えねえ」



セリアは少しだけ目を伏せた。



「変わったわね、あんた」



「誰のせいだと思ってんだ」



その返しに、セリアが少しだけ笑った。



昔みたいに。



その頃。



里の外れ。



ルクスは湖を見ていた。



静かな水面。



その隣へカインが立つ。



「これからどうする」



ルクスは少し考える。



「分からない」



いつもの返答。



だが。



「でも、知りたいとは思ってる」



カインは黙って聞いていた。



「なんで覚えてないのか」


「なんで生きてたのか」



ルクスは湖面を見つめる。



「なんか、まだ隠れてる気がする」



カインが低く言う。



「多分、お前の記憶は消されてる」



ルクスが振り向く。



「消されてる?」



「普通じゃねえんだよ」



カインは眉を寄せた。



「お前だけ生き残った」


「記録も残ってねえ」


「覚えてるのは断片だけ」



「そんな都合よくなるか」



沈黙。



カインは続ける。



「俺はずっと」


「全部、自分の暴走のせいだと思ってた」



氷狼。


崩壊した施設。


逃げる子供達。



でも今は違う。



「誰かが隠した」



ルクスは少し考え込む。



やがて。



「じゃあ探すか」



「簡単に言うな」



「難しいのか?」



「難しいから言ってんだ」



カインが呆れたように笑う。



その時。



後ろからセリアが歩いてきた。



迷いはまだ残っている。



けれど、その目には覚悟もあった。



「明日の朝、王国へ戻る」



静かな声。



でも、その一言にははっきりとした決意があった。



ルクスは頷く。



「分かった」



止めない。



セリアは少し困ったように笑った。



「もっとこう……止めたりしないの?」



「止めても行くだろ」



「まあ、そうだけど」



カインが鼻で笑う。



「頑固だからな」



「誰がよ」



「お前ら全員」



少しだけ空気が軽くなる。



だが。



次に訪れた沈黙は、少し違った。



セリアが小さく聞く。



「……そっちはどうするの?」



カインがルクスを見る。



ルクスは少しだけ考えてから答えた。



「イグニスに会う」



「……は?」



あまりに自然に言うから、一瞬理解が遅れる。



カインが頭を押さえた。



「俺も最初そうなった」



セリアは信じられないものを見る顔をした。



「いや待って」


「なんでそうなるのよ」



ルクスは真面目な顔だった。



「魔王のこと知りたい」



「だからイグニスに聞く」



「絶対戦いになるでしょ!?」



「多分なる」



「分かってるならやめなさいよ!」



カインが少し笑う。



「でもまあ」


「前とは違う」



セリアが眉をひそめる。



カインは静かに言った。



「今度は、倒すためじゃねえ」



ルクスも続ける。



「分かり合うために行く」



風が吹く。



その言葉に、セリアは少しだけ目を見開いた。



以前の二人なら、絶対に言わなかった言葉。



戦うことしか知らなかった二人が。



今は、“知ろう”としている。



セリアは二人を見る。



そして少しだけ寂しそうに笑った。



「……本当に別々になるのね」



カインが肩を竦める。



「まあな」



「お前は王国側」


「俺達は魔王側を追う」



「ちょうどいいだろ」



セリアは小さく息を吐く。



「簡単に言うわね」



「簡単じゃねえよ」



カインの声が少しだけ低くなる。



「でも今は、それしかねえ」



王国。


魔王。


境界。



全部が繋がっている。



だからこそ、別々の場所から見なければならない。



セリアはゆっくり頷いた。



「……分かった」



少しの沈黙。



「死なないでよ」



「そっちも」



「お前が一番危ねえだろ」



「誰のせいよ」



小さな笑い声。



けれど。



それは少しだけ、別れの匂いがした。



やがてセリアが踵を返す。



「じゃあ少し寝る」


「明日、早いし」



その背中を、二人は黙って見送った。



カインが小さく呟く。



「変わったな」



「誰が」



カインは少し目を細めた。



「全員だ」



湖面が静かに揺れる。



その奥で。



白い少女が、静かに三人を見つめていた。

37話でした。これからの目的を決めていく回でしたね

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