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最弱テイマーは総てを溶かす  作者: コクトー
第四章 境界の外
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35/52

「拒絶されなかった者」

35話です。

ミリスの里は静かだった。



風の音も、小さい。



まるで世界そのものが、この場所だけ呼吸を潜めているみたいだった。



セリアは辺りを見回す。



木々の間。


水辺。


家々。



そこには人と似た姿の者達がいた。



だが。



完全な“人”ではない。



身体の一部が透けている。


輪郭が揺れている。



言葉が崩れている者もいる。



それでも。



彼らは穏やかだった。



誰も敵意を向けてこない。



白い少女が静かに歩き出す。



ルクスは自然とその後を追った。



セリアが小さく聞く。



「……あなたが、ノクス?」



少女は振り返らない。



「そう呼ばれていた」



“いた”。



その言い方が少しだけ引っかかった。



カインが目を細める。



「お前、人間じゃねえな」



ノクスは否定しない。



ただ静かに言う。



「あなた達も、もう曖昧」



セリアの肩が僅かに揺れる。



ルクスだけは変わらない。



「ここ、落ち着く」



ノクスが初めて少しだけ振り返った。



「そう」



その一言だけだった。



やがて。



里の奥へ辿り着く。



そこには大きな湖があった。



水面は透き通っている。



だが。



その奥で、何かが揺れていた。



巨大な半透明の塊。



鼓動みたいに脈打っている。



セリアが息を呑む。



「これ……」



「欠片」



ノクスが言う。



「本当の核ではない」



カインが眉をひそめた。



「核?」



ノクスは湖を見つめたまま続ける。



「私はもう、ここにしか残っていない」



「本来の核は、別にある」



それ以上は語らない。



ルクスが湖へ近づく。



すると。



水面が揺れた。



景色が滲む。



セリアの視界が白く染まった。



気づけば。



知らない部屋にいた。



薄暗い石造りの部屋。



小さな子供達。



泣いている者。


動かない者。



その中に。



幼いルクスがいた。



「またスライム触ってるぞ、あいつ」



研究員の呆れた声。



幼いルクスの周囲には、小さなスライム達が集まっていた。



普通なら逃げる。



だがスライム達は離れない。



幼いルクスが笑う。



「大丈夫だよ」



研究員が眉をひそめる。



「何故懐く……?」



別の研究員が低く呟いた。



「適合率が異常だ」



「核との拒絶反応がない」



その言葉に、セリアの胸がざわつく。



聞いたことがある。



昔。



どこかで。



“核”。



“適合”。



そして。



“ノクス”。



景色が変わる。



今度は実験室。



苦しむ子供達。



身体が崩れていく。



スライムみたいに。



叫び声。



拒絶反応。



壊れていく身体。



セリアが顔を歪める。



「……やめて」



だが。



幼いルクスだけは違った。



静かにスライムへ触れている。



怖がらない。



嫌悪しない。



まるで最初から一緒だったみたいに。



ノクスの声が響く。



「あなたは、拒絶しなかった」



景色の奥。



小さなスライムが、幼いルクスへ寄り添っていた。



それは少しだけ。



今のノクスに似ていた。



ルクスが小さく呟く。



「……俺か」



ノクスが静かに頷く。



「混ざることを、恐れなかった」



セリアの拳が震える。



王国は守る場所だった。



そう思っていた。



なのに。



子供達へ、こんなことを。



カインは黙ったまま景色を見ている。



その目だけが、少し暗かった。



ノクスの視線がルクスへ向く。



「だから、壊れなかった」



ルクスが聞く。



「俺は、あいつらと違うのか」



少しの沈黙。



ノクスは静かに答えた。



「違う」



セリアが息を呑む。



ノクスは続ける。



「あなたは、まだ“あなた”だから」



湖の水面が揺れる。



壊れた実験体達の姿。



言葉を失った者。


人を保てなかった者。



そして。



今、ここで静かに生きている。



ルクスは長く黙っていた。



やがて、小さく言う。



「……そっか」



驚くほど穏やかな声だった。



セリアはそんなルクスを見て、逆に苦しくなる。



どうしてそんな風に受け止められるのか。



怒らないのか。



恨まないのか。



その時だった。



ノクスが静かにセリアを見た。



銀色の瞳。



境界の曖昧な瞳。



「あなたは、確かめに行く?」



セリアの心臓が跳ねる。



まるで見透かされたみたいだった。



王国へ。



真実を。



確かめる。



その言葉が、静かに胸へ落ちていった。

35話でした。もうちっとだけ続くんじゃ

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