「ミリスの里」
34話です。最近暑くなってきましたね。
風が止んでいた。
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レイス達との戦闘からしばらく。
三人は霧の前で足を止めていた。
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誰もすぐには口を開かなかった。
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セリアは俯いたまま、自分の手を見ている。
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後輩へ向けて剣を振った感触が、まだ残っていた。
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その沈黙を破ったのはカインだった。
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「……普通じゃねえな」
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セリアが顔を上げる。
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「何が」
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カインは霧の奥を睨んでいた。
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「王国の連中がここまで来れたことだ」
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「追跡されたんじゃないの?」
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セリアの声には迷いが混じる。
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だがカインは首を振った。
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「あいつらも迷ってた」
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「……え?」
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「気づかなかったか?」
「周囲確認しながら動いてた」
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確かに。
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レイス達は一直線に来たわけじゃない。
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何かを探すように周囲を警戒していた。
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カインが低く続ける。
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「境界が薄くなってる」
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セリアが眉をひそめた。
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「境界……」
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ルクスが霧を見ながら呟く。
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「……近づいてる」
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「何が?」
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「分からない」
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いつもの返答。
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だが今回は、少しだけ違った。
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ルクス自身、本当に“何か”を感じているようだった。
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カインがちらりと見る。
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「お前、最近変だぞ」
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ルクス:
「前からだろ」
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「そういう意味じゃねえ」
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短く返す。
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空気が少し重くなる。
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その時。
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ぷるん。
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小さな音。
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透明なスライムが霧の前へ現れる。
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昨日の個体。
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スライムは一度ルクスを見ると、霧の中へ跳ねた。
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振り返る。
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まるで、“来い”と言うみたいに。
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ルクスは迷わず進もうとする。
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セリアが慌てて止めた。
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「待ちなさい!」
「普通もっと警戒するでしょ!」
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「してる」
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「してるように見えないのよ!」
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カインが小さく笑う。
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「諦めろ」
「こいつはこういうやつだ」
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「なんでそんな慣れてるのよ……」
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だが。
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カインも止めなかった。
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むしろ静かに周囲を警戒している。
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三人は霧の中へ足を踏み入れた。
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空気が変わる。
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冷たいわけじゃない。
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温かいわけでもない。
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妙に“柔らかい”。
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霧の中では音が遠かった。
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足音。
呼吸。
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全部ぼやける。
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セリアが思わず呟く。
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「……何ここ」
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答える者はいない。
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どれくらい歩いただろうか。
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突然。
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霧が晴れた。
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そこには。
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静かな里が広がっていた。
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木々の間に小さな家々。
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透き通った水。
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そして。
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無数のスライム達。
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セリアが息を呑む。
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「……っ」
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スライム達は敵意を向けない。
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ただ静かにこちらを見ている。
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まるで歓迎しているみたいに。
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ルクスは辺りを見回した。
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「落ち着くな」
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「私は落ち着かないんだけど……」
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カインは目を細める。
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「妙な場所だ」
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その時。
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視線を感じた。
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三人が同時に振り向く。
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そこに、一人の少年が立っていた。
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年齢はルクスと同じくらい。
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だが。
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その身体は少し透けている。
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腕の輪郭が揺れていた。
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スライムみたいに。
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少年はルクスを見る。
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口を開く。
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「る……く……す」
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言葉が崩れる。
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セリアの背筋が震えた。
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少年は嬉しそうに近づこうとする。
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だが足元が崩れた。
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液体みたいに。
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カインの目が細くなる。
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「……実験体か」
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その言葉に。
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セリアの顔色が変わる。
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さらに奥。
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大きな影が揺れた。
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それは巨大なスライムだった。
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だが。
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どこか“人”の気配がある。
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巨大スライムはルクスを見る。
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そして。
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少しだけ嬉しそうに揺れた。
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ルクスが小さく呟く。
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「……俺と同じだ」
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その瞬間。
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静かな声が響いた。
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「違う」
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三人が振り向く。
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白い少女が、そこに立っていた。
34話でした。こっから書くのが更に楽しくなってます




