「追跡者」
33話です。実は昨日から1日2話更新にしています。
霧の奥。
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カインの声だけが低く響く。
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「……来るぞ」
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空気が変わる。
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セリアも反射的に剣へ手を伸ばした。
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次の瞬間。
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木々の間から人影が飛び出す。
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「いたぞ!!」
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王国騎士。
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三人。
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その装備を見た瞬間、セリアの顔色が変わる。
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「……第四遊撃隊」
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見覚えのある紋章。
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先頭の青年がセリアを見て目を見開いた。
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「セリア隊長……!」
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若い声。
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驚きと、安堵。
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セリアも思わず呟く。
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「……レイス」
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後輩だった。
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訓練場で何度も剣を合わせた。
任務にも連れて行った。
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まだ新人だった頃、
誰よりも真っ直ぐで、不器用だった男。
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レイスは一歩前へ出る。
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「本当に生きてたんですね……!」
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その顔には、少しだけ嬉しさすらあった。
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だが。
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その視線がルクス達へ向いた瞬間、表情が変わる。
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剣が抜かれる。
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「対象を確認!」
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「魔物反応あり!」
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「討伐命令を執行します!!」
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セリアが前へ出る。
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「待ちなさい!」
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レイスが止まる。
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「……隊長」
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セリアは必死に言葉を探した。
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「誤解よ」
「この人達は——」
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「王国は貴方も拘束対象と判断しています」
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空気が止まった。
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セリアの目が揺れる。
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「……え?」
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レイスの顔は苦しそうだった。
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「命令です」
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「対象セリア・アルヴェイン」
「魔物側との接触、および反逆行為を確認」
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セリアが息を呑む。
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「そんな……」
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「戻ってください、隊長!」
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レイスは本気だった。
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責めているわけじゃない。
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助けようとしている。
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だからこそ、痛い。
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「今ならまだ間に合います!」
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「レイス、話を——」
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その瞬間。
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後方の騎士がルクスへ斬りかかった。
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「危険対象を優先する!」
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ルクスが避ける。
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セリアが叫ぶ。
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「やめて!!」
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だが止まらない。
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騎士達は本気だった。
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カインの目が細くなる。
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「チッ……」
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氷が広がる。
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騎士達が飛び退く。
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「魔物だ!!」
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「やはり洗脳されて——」
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セリアの呼吸が乱れる。
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違う。
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違うのに。
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誰も聞かない。
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ルクスが静かに言った。
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「セリア」
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セリアが振り向く。
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ルクスの目は真っ直ぐだった。
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「倒さなかったら、お前が殺される」
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静かな声。
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責めてもいない。
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ただ、現実だけを告げていた。
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セリアの手が震える。
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目の前にいるのは、昔一緒に戦った後輩達。
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守るべき相手。
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なのに。
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剣が迫る。
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「隊長!!」
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セリアは歯を食いしばった。
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そして。
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剣を抜く。
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金属音。
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レイスの剣を弾き飛ばす。
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「っ……!」
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さらに踏み込む。
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急所は外す。
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鎧の隙間。
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動きを止めるだけ。
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一人。
二人。
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全て、殺さない。
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だが。
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最後に残ったレイスが、膝をつきながらセリアを見上げた。
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「……どうしてですか」
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その声が、一番刺さった。
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セリアは答えられない。
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自分でも分からないから。
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レイスが苦しそうに呟く。
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「隊長は……」
「もう、王国側じゃないんですか」
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セリアの目が揺れる。
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その瞬間。
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胸の奥で、何かが崩れた。
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沈黙。
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風だけが吹く。
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カインが静かに言う。
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「慕われてたんだな」
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セリアは俯いたまま返す。
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「……うるさい」
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震えた声だった。
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ルクスが近づく。
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「行こう」
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セリアは動けなかった。
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カインが霧の奥を見る。
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「もう戻れねえぞ」
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責める声じゃない。
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現実を告げる声。
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セリアは小さく目を閉じる。
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握った剣が、かすかに震えていた。
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霧の奥では。
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小さなスライム達が、静かにこちらを見ていた。
33話でした。セリアがルクス達と長く旅をしていた事、行方を偽った事によりセリアも王国からは裏切りと思ったのでしょう




