「導き」
32話になります。物語も中盤くらいですかね
朝靄の残る森を、三人は歩いていた。
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雨の後の空気は静かだった。
鳥の声だけが遠くで聞こえる。
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セリアはちらりとルクスを見る。
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昨日のことが、まだ頭から離れない。
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液状化した腕。
“ノクス”という名前。
そして、あの小さなスライム。
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ルクス本人は、いつも通りだった。
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「……平気なの?」
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「何が」
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「全部よ」
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雑すぎる問いだった。
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ルクスは少し考える。
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「まあ」
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「まあって……」
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カインが前を向いたまま笑う。
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「こいつに細かい確認求めるだけ無駄だぞ」
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「分かってるけど!」
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セリアが頭を抱える。
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その時だった。
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ぷるん。
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小さな音。
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三人の前へ、透明なスライムが現れる。
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昨日の個体。
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セリアが一歩下がる。
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「……いた」
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スライムはルクスを見上げる。
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そして。
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ぴょん、と跳ねた。
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そのまま森の奥へ進む。
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止まる。
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また跳ねる。
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まるで、“ついてこい”と言うみたいに。
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ルクスが言う。
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「呼んでるな」
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「いや、普通についていく!?」
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セリアが即座にツッコむ。
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カインは腕を組む。
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「……でもまあ、今さらか」
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「カインまで!?」
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だが。
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カインの目は少しだけ鋭かった。
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警戒している。
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セリアもそれに気づく。
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「危険かもしれないって思ってるのね」
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「そりゃな」
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カインはスライムを見る。
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「昨日の声」
「あれ、普通じゃねえ」
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ルクスが小さく呟く。
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「ノクスかもしれない」
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セリアの胸がざわつく。
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まただ。
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その名前を聞くと、妙に落ち着かない。
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思い出せそうで。
思い出せない。
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スライムはまた跳ねる。
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ルクスは自然に後を追った。
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「ちょっと待ちなさい!」
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セリアが慌てて続く。
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「罠だったらどうするのよ!」
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「その時考える」
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「考えてから動いて!!」
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カインが吹き出す。
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「無茶言うな」
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「どっちの味方なのよ!」
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少しだけ空気が軽くなる。
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だが。
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森の奥へ進むにつれ、空気が変わっていった。
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静かすぎる。
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魔物の気配がない。
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いや。
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違う。
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“見られている”。
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セリアが周囲を見る。
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木々の隙間。
草むら。
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何かがいる。
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ぷる、と小さく揺れる影。
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「……スライム?」
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数が増えていた。
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いつの間にか。
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小さなスライム達が、こちらを見ている。
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敵意はない。
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ただ、見ている。
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ルクスは少し目を細めた。
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「なんか落ち着くな」
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「私は落ち着かないんだけど!?」
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カインが低く言う。
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「妙だな……」
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「何が?」
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「スライムってのは、もっと弱ぇ魔物だ」
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「こんな風に群れねえ」
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その時。
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先頭のスライムが止まった。
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森の奥。
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霧に覆われた道。
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今まで見えていなかった道。
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セリアが目を見開く。
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「……こんなの、地図に」
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ない。
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スライムが振り返る。
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まるで笑ったみたいに、少し揺れた。
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そして。
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霧の奥へ消える。
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ルクスは迷わず進もうとする。
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だがその瞬間。
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カインがルクスの肩を掴んだ。
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「待て」
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声が低い。
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フェンリルだった頃の空気。
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セリアの背筋が伸びる。
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カインは霧の奥を睨んでいた。
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「……来るぞ」
32話でした〜




