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最弱テイマーは総てを溶かす  作者: コクトー
第四章 境界の外
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31/52

「境界の外」

31話です。ノクスとは何かがこれから分かるかもしれません

森を抜ける風が心地よかった。


イグニス戦から数日。


焼けた大地も少しずつ減り、景色には緑が戻り始めている。



「……なんか平和ね」


セリアがぽつりと言った。



カインが鼻で笑う。



「イグニス基準で考えるな」



「いやだって感覚狂うでしょ……」



ルクスは二人の少し前を歩いていた。


特に会話へ混ざるでもなく、いつもの調子で。



その時。



茂みが揺れた。



小型の魔物が飛び出す。


犬のような魔物。


数は三体。



「うおっ」



セリアが反応するより早く、一匹がルクスへ飛びかかった。



ルクスは避けない。



そのまま腕で受ける。



牙が食い込む。



「ルクス!」



セリアが叫ぶ。



だが次の瞬間。



噛まれた腕が、一瞬だけ液状化した。



赤い半透明の膜。


スライムみたいに揺れる。



牙が沈み込む。



そして。



傷が、塞がった。



沈黙。



魔物が怯えたように飛び退く。



カインが斬る。


氷が走り、残り二体ごと凍りついた。



静かになる。



セリアだけが、固まっていた。



「……今の、何」



ルクスが自分の腕を見る。



「何が」



「腕!!」



ルクスはしばらく眺める。



「……ああ」



あまり気にしていない声。



セリアが近づく。



「それ、前から出来たの?」



ルクスは少し考えた。



「分からない」



「分からないって……」



セリアはルクスの腕を見る。



そこにはもう異常はない。


普通の肌。



でも確かに見た。



液体みたいに揺れていた。



セリアが低く言う。



「……スライムテイマーって、そういうのじゃないわよね」



ルクスが首を傾げる。



「そうなのか?」



「そうなのかじゃない!!」



思わず声が大きくなる。



「スライムを取り込むのも意味分からなかったけど……!」



「今の、もう本人が変わってるじゃない……!」



風が吹く。



ルクスは自分の手を見る。



確かに最近、妙な感覚が増えていた。



炎が馴染む。


傷が塞がる。


身体が自然に変化する。



でも、不快感はない。



むしろ自然だった。



カインが口を開く。



「でも実際問題ねえだろ」



セリアが振り返る。



「そういう話じゃないの!」



「王国なら絶対研究対象よこんなの!」



言った瞬間、セリア自身が少しだけ黙る。



その言葉が、嫌だった。



ルクスを見る。



目の前にいるのは、実験体なんかじゃない。



仲間だ。



カインが静かに言う。



「変わったから何だよ」



セリアが顔を上げる。



カインは前を向いたまま続けた。



「ルクスは最初からこういうやつだ」



“異常”として言っていない。



ただ、“ルクス”として受け入れている。



セリアは少しだけ言葉に詰まる。



ルクスがぽつりと言った。



「……でも」



二人が見る。



ルクスは少し考えるように空を見る。



「イグニスの炎を流した時」



「誰かいた気がする」



沈黙。



セリアが眉をひそめる。



「誰か?」



「分からない」



ルクスは続ける。



「でも、声が聞こえた」



カインの目が少し細くなる。



「どんな声だ」



「静かだった」



「白かった気がする」



セリアが小さく息を呑む。



白。



魔王の姿が、一瞬頭を過った。



ルクスはさらに続ける。



「ノクス、って呼んでた」



その瞬間。



セリアの足が止まった。



「……え?」



理由は分からない。



でも、その名前に妙な引っかかりを覚える。



胸の奥がざわつく。



なのに思い出せない。



カインがセリアを見る。



「どうした」



「……いや」



セリアは首を振る。



「なんでもない」



だが、その違和感だけが残った。



その夜。



焚き火の火が小さく揺れていた。



カインはもう寝ている。



ルクスも、木に寄りかかったまま眠っていた。



セリアだけが起きている。



ふと。



視線が止まった。



ルクスの腕。



その表面が、ほんの少しだけ揺れている。



スライムみたいに。



呼吸するみたいに。



セリアの背筋が小さく震える。



怖い。



でも。



目を離せなかった。



その時。



小さなスライムが現れる。



透明な、小さなスライム。



音もなくルクスへ近づく。



そして。



そっと、ルクスの腕へ触れた。



揺れていた身体が静かになる。



セリアが息を呑む。



「……ノクス?」



返事はない。



だが。



静かな声だけが聞こえた。



「まだ不安定」



セリアが立ち上がる。



「っ……!」



周囲を見る。



誰もいない。



焚き火だけが揺れている。



小さなスライムは、いつの間にか消えていた。



セリアは眠るルクスを見る。



「ルクスって……何なの」



返事はない。



夜風だけが、静かに吹いていた。

31話でした次からどうなるか…どうするか…

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