「違和感の正体」
30話です
雨は止んでいた。
空気だけが少し冷たい。
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焼けた森を抜けながら、三人は静かに歩いていた。
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いつもなら、誰かが適当に喋る。
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でも今日は違った。
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理由は分かっている。
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魔王。
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あの白い少女の姿が、まだ頭から離れない。
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セリアが小さく息を吐く。
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「……魔王って、何なの」
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ぽつりと落ちた言葉。
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カインが前を向いたまま答える。
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「分かんねえ」
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即答だった。
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セリアが眉をひそめる。
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「え?」
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「俺達幹部ですら、よく分かってねえんだよ」
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風が吹く。
焼けた木々が揺れる。
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カインは少し考えてから続けた。
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「イグニスは強い」
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「でも、あれは違う」
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少し間。
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「“そういう存在”なんだ」
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セリアは黙る。
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説明になっていない。
なのに、少しだけ分かってしまう。
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あれは強いとか弱いじゃなかった。
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“いる”。
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ただそれだけで、空気が変わる。
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セリアがぽつりと言う。
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「……怒ってる感じじゃなかった」
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カインが苦く笑う。
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「だから怖えんだよ」
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敵意がない。
殺気もない。
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なのに、本能だけが警鐘を鳴らしていた。
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ルクスが歩きながら言う。
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「でも、悪いやつには見えなかった」
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沈黙。
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セリアが止まる。
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「は?」
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カインが振り返る。
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「お前マジで言ってる?」
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「言ってる」
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即答。
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セリアが頭を抱える。
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「いや、あれ魔王よ!?」
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「知ってる」
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「知っててその感想なの!?」
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ルクスは少し考える。
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「気になってるだけに見えた」
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カインが呆れた顔をする。
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「そこなんだよな、お前怖えの」
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セリアも頷く。
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「分かる」
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ルクスは納得していない顔をしていた。
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しばらく歩く。
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その後、カインがぽつりと口を開く。
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「昔の俺らは、魔王に従うのが当然だった」
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セリアが見る。
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カインは前を向いたまま続ける。
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「逆らうとか、考えたこともねえ」
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「イグニスなんか特にな」
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あの畏敬の目。
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セリアは思い出す。
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“完成している”。
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イグニスは確かにそう言った。
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セリアが小さく呟く。
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「でも、王国は魔王を倒そうとしてる」
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その瞬間。
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カインが少しだけ黙った。
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空気が変わる。
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「……本当にそうか?」
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セリアの足が止まる。
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「え?」
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カインはそれ以上すぐには喋らなかった。
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焼けた地面を踏みながら、低く言う。
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「王国の連中、何か隠してる」
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「昔から違和感はあった」
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セリアが眉をひそめる。
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「違和感?」
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「実験体」
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短い返答。
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「俺だけじゃない」
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「他にもいた」
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風が吹く。
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「失敗したやつもな」
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セリアの顔色が変わる。
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王国は、人を守る場所だ。
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そう教わってきた。
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でも。
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フェンリル。
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カイン。
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目の前に、その“違和感”がいる。
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ルクスがぽつりと言う。
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「だから逃げたのか」
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カインが少し笑う。
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「半分正解」
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「もう半分は、お前だ」
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ルクスが首を傾げる。
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「俺?」
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「ああ」
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カインは空を見る。
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「お前、王国の連中と違ったからな」
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「力を見ても、“使える”とか“危険”とか言わなかった」
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少し間。
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「変なやつだよ、お前」
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ルクスは少し考える。
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「そうか?」
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セリアとカインが同時に言う。
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「そう」
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少しだけ空気が緩む。
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でも。
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セリアの胸の中には、小さな棘が残っていた。
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王国は、本当に正しいのか。
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魔王は、本当に倒すべき存在なのか。
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そして。
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ルクスは、何なのか。
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その夜。
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焚き火の前。
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ルクスだけが起きていた。
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指先に、小さな炎を出す。
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ゆらゆら揺れる。
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そこへ。
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小さなスライムが現れた。
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透明。
静か。
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ルクスが小さく呟く。
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「……ノクス」
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スライムが少しだけ揺れる。
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返事はない。
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でも。
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どこか、魔王と似た空気を感じた。
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ルクスは少しだけ目を細める。
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炎とスライムが、静かに揺れていた。
30話でした〜




