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最弱テイマーは総てを溶かす  作者: コクトー
三章 灰と火
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29/52

「雨の匂い」

29話です。

雨が降っていた。


焼け野原へ、静かに。



熱を冷ますみたいに。



黒く焦げた地面を、雨粒が叩く。


煙の匂いが薄れていく。



「……ほんとに全部焼けてる」


セリアが呟く。



イグニスの炎。


その爪痕は、戦いが終わった後も残っていた。



ルクスは少し離れた場所を歩いていた。


雨の中。



右手を見る。



赤い炎が、指先で小さく揺れた。



消えない。



「……変な感じする」



熱いわけじゃない。


でも、自分のものじゃない感覚が混ざっている。



しばらく見つめてから、炎を消す。



その時。



「おーい」



カインの声。



「こっち来い。雨強くなる」



ルクスが顔を上げる。



崩れかけた小屋。


セリアとカインが先に入っていた。



ルクスも中へ入る。



雨音。


屋根を叩く音だけが響く。



しばらく、誰も喋らなかった。



その沈黙が、不思議と嫌じゃない。



セリアが小さく息を吐く。



「……はい」



布を投げる。



カインが受け取る。


「何だこれ」



「手当」



「別に平気だ」



セリアが睨む。



「黙って」



有無を言わせない声。



カインが苦笑する。


「はいはい」



セリアがカインの腕を見る。



凍傷。


それに焼け跡。



「ほんと無茶するわね」



「お前らもだろ」



“お前ら”。



セリアが少しだけ目を細める。



ルクスが横から言う。



「カインの方が無茶だった」



「誰のせいだよ」



「イグニス強かったから」



「そういう問題じゃねえ」



セリアが吹き出す。



「ふふっ……」



戦闘後なのに。


疲れているのに。



少しだけ、空気が軽い。



セリアは包帯を巻きながら、小さく言う。



「……でも、ちょっと安心した」



カインが見る。



「何が」



セリアは少し迷ってから答えた。



「あんたが、自分を止められなくなるんじゃないかって思ってたから」



雨音が響く。



フェンリル。



あの冷たい狼。



力だけで全てを押さえつけていた存在。



セリアの中には、まだ少し怖さが残っていた。



カインはしばらく黙っていた。



それから、小さく笑う。



「……俺も思ってた」



セリアが顔を上げる。



カインは天井を見る。



「また戻るんじゃねえかってな」



静かな声。



ルクスは何も言わない。


ただ聞いている。



カインは続けた。



「でもまあ」



少し間。



「お前らいたしな」



セリアの目が少しだけ開く。



カインが、“頼った”。



それを、自分で認めた。



ルクスが言う。



「一人じゃなかったからな」



カインが笑う。



「お前、たまに妙に真っ直ぐだよな」



「そうか?」



「そこ自覚ないのが怖えんだよ」



セリアが頷く。



「分かる」



「ひどいな」



でもルクスは少しも気にしていない。



その空気が、また少しだけおかしくて。



セリアは肩の力を抜いた。



今までなら、こんな風に笑えなかった。



フェンリルは敵だった。


王国の外は危険だった。



でも今は。



こうして同じ場所に座っている。



雨音を聞きながら。



セリアがぽつりと言う。



「……なんか調子狂うわ」



「今さらだろ」


カインが返す。



ルクスが二人を見る。



「仲良いな」



少しの沈黙。



セリアとカインが同時に言った。



「よくない!!」



その声が重なる。



ルクスが少しだけ笑った。



外ではまだ雨が降っている。



でも、小屋の中だけは少し暖かかった。

29話でした〜。3人がまた仲良くなってますね〜

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