「魔王」
28話です。タイトルから不穏
「全て焼き尽くす!!」
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イグニスの咆哮と共に、空が赤く染まった。
巨大な炎。
森も空気も地面も、まとめて呑み込む熱量。
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セリアが顔を青ざめさせる。
「来る!!」
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だが。
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今度は誰も迷わなかった。
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「右だ!」
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セリアの声。
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銀狼が飛び出す。
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カインが前へ出る。
「行け、ルクス!」
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銀狼が炎を裂く。
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その隙間へ。
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ルクスが踏み込んだ。
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赤い炎が液体みたいに広がる。
スライムのように。
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巨大な炎へ絡みつく。
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包み込む。
流す。
馴染ませる。
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イグニスの炎が崩れていく。
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「っ……!」
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初めてだった。
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“完成された炎”が、完全に押し返される。
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ルクスが歯を食いしばる。
熱い。
限界に近い。
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それでも止めない。
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銀狼が炎狼へ噛みつく。
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氷が走る。
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炎狼の身体が崩れる。
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セリアの矢が走った。
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イグニスの炎核を撃ち抜く。
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轟音。
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炎が、割れた。
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空を覆っていた熱が、一気に消えていく。
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イグニスが膝をついた。
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炎狼が消える。
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静寂。
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荒い呼吸だけが残った。
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イグニスはゆっくり顔を上げる。
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「……なぜだ」
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カインが答える。
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「押さえつけねえからだろ」
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ルクスが続ける。
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「一人じゃないしな」
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イグニスは黙る。
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理解できない。
そんな顔だった。
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その時。
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風が止まった。
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銀狼が低く唸る。
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カインの顔が変わる。
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「……おい」
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セリアが息を呑む。
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そこに、“いた”。
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白い少女。
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小柄な身体。
白銀の髪。
静かな赤い瞳。
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気づいた時には、そこに立っていた。
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何もしていない。
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なのに。
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空気そのものが静かになる。
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イグニスが即座に膝をつく。
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「魔王様」
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セリアの背筋が凍る。
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これが。
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魔王。
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魔王はイグニスを見る。
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「負けたんだ」
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責める声ではない。
ただ確認しただけ。
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イグニスが頭を下げる。
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「申し訳ありません」
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魔王が首を傾ける。
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「どうして?」
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イグニスが止まる。
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魔王は静かに続けた。
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「負けることはある」
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「でも、最後まで壊れなかった」
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「なら十分」
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イグニスの目がわずかに揺れる。
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その言葉を、
誰より欲していたみたいに。
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セリアは理解する。
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魔王は“勝敗”を見ていない。
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“どう在ったか”を見ている。
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魔王の視線が動く。
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ルクスを見る。
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じっと。
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長く。
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ルクスも見返す。
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沈黙。
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そして魔王が近づいた。
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セリアが反射的に構える。
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だが魔王は気にしない。
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ルクスの前まで来る。
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「どうやったの?」
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突然だった。
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ルクスが瞬きをする。
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「……何が」
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「炎」
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魔王は続ける。
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「どうして馴染んだの?」
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「どうして壊れなかったの?」
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「怖くなかった?」
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間髪入れず、質問が飛ぶ。
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セリアが困惑する。
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敵意がない。
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なのに、怖い。
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まるで知らない生き物を観察しているみたいだった。
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ルクスは少し考える。
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「……分からない」
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魔王の目が少しだけ開く。
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「分からないのにやったの?」
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「失敗するかもって思わなかった?」
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「怖くないの?」
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ルクスは少しだけ困った顔をした。
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「怖い時もある」
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「でも、やれる気がしたから」
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魔王が止まる。
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「曖昧なんだ」
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小さな呟き。
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赤い瞳が細くなる。
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「面白いね」
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銀狼が低く唸る。
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だが魔王は見ていない。
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ずっとルクスだけを見ている。
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「それ、壊れそうで綺麗」
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セリアの背筋が寒くなる。
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理解できない。
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この存在は、自分達と何かが根本的に違う。
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魔王が振り返る。
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「戻るよ、イグニス」
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「……はい」
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イグニスが立ち上がる。
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去る直前。
カインを見る。
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「フェンリル」
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カインが眉をひそめる。
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「弱くなったな」
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昔なら否定していた。
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だが今は。
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カインは少しだけ笑う。
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「そうかもな」
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イグニスの口元が、ほんのわずかに緩む。
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「……だが、今のお前は嫌いじゃない」
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炎が揺れる。
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魔王とイグニスの姿が、静かに消えていく。
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熱だけが残る。
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誰も、すぐには動けなかった。
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セリアがようやく息を吐く。
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「……何、あれ」
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カインが短く答える。
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「魔王だ」
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その一言だけで、
空気がまた重くなった。
28話でした。結構前に出た話と魔王様の雰囲気変わってるような?まぁ良いでしょう




