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最弱テイマーは総てを溶かす  作者: コクトー
三章 灰と火
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28/52

「魔王」

28話です。タイトルから不穏

「全て焼き尽くす!!」



イグニスの咆哮と共に、空が赤く染まった。


巨大な炎。


森も空気も地面も、まとめて呑み込む熱量。



セリアが顔を青ざめさせる。


「来る!!」



だが。



今度は誰も迷わなかった。



「右だ!」



セリアの声。



銀狼が飛び出す。



カインが前へ出る。


「行け、ルクス!」



銀狼が炎を裂く。



その隙間へ。



ルクスが踏み込んだ。



赤い炎が液体みたいに広がる。


スライムのように。



巨大な炎へ絡みつく。



包み込む。


流す。


馴染ませる。



イグニスの炎が崩れていく。



「っ……!」



初めてだった。



“完成された炎”が、完全に押し返される。



ルクスが歯を食いしばる。


熱い。


限界に近い。



それでも止めない。



銀狼が炎狼へ噛みつく。



氷が走る。



炎狼の身体が崩れる。



セリアの矢が走った。



イグニスの炎核を撃ち抜く。



轟音。



炎が、割れた。



空を覆っていた熱が、一気に消えていく。



イグニスが膝をついた。



炎狼が消える。



静寂。



荒い呼吸だけが残った。



イグニスはゆっくり顔を上げる。



「……なぜだ」



カインが答える。



「押さえつけねえからだろ」



ルクスが続ける。



「一人じゃないしな」



イグニスは黙る。



理解できない。


そんな顔だった。



その時。



風が止まった。



銀狼が低く唸る。



カインの顔が変わる。



「……おい」



セリアが息を呑む。



そこに、“いた”。



白い少女。



小柄な身体。


白銀の髪。


静かな赤い瞳。



気づいた時には、そこに立っていた。



何もしていない。



なのに。



空気そのものが静かになる。



イグニスが即座に膝をつく。



「魔王様」



セリアの背筋が凍る。



これが。



魔王。



魔王はイグニスを見る。



「負けたんだ」



責める声ではない。


ただ確認しただけ。



イグニスが頭を下げる。



「申し訳ありません」



魔王が首を傾ける。



「どうして?」



イグニスが止まる。



魔王は静かに続けた。



「負けることはある」



「でも、最後まで壊れなかった」



「なら十分」



イグニスの目がわずかに揺れる。



その言葉を、


誰より欲していたみたいに。



セリアは理解する。



魔王は“勝敗”を見ていない。



“どう在ったか”を見ている。



魔王の視線が動く。



ルクスを見る。



じっと。



長く。



ルクスも見返す。



沈黙。



そして魔王が近づいた。



セリアが反射的に構える。



だが魔王は気にしない。



ルクスの前まで来る。



「どうやったの?」



突然だった。



ルクスが瞬きをする。



「……何が」



「炎」



魔王は続ける。



「どうして馴染んだの?」



「どうして壊れなかったの?」



「怖くなかった?」



間髪入れず、質問が飛ぶ。



セリアが困惑する。



敵意がない。



なのに、怖い。



まるで知らない生き物を観察しているみたいだった。



ルクスは少し考える。



「……分からない」



魔王の目が少しだけ開く。



「分からないのにやったの?」



「失敗するかもって思わなかった?」



「怖くないの?」



ルクスは少しだけ困った顔をした。



「怖い時もある」



「でも、やれる気がしたから」



魔王が止まる。



「曖昧なんだ」



小さな呟き。



赤い瞳が細くなる。



「面白いね」



銀狼が低く唸る。



だが魔王は見ていない。



ずっとルクスだけを見ている。



「それ、壊れそうで綺麗」



セリアの背筋が寒くなる。



理解できない。



この存在は、自分達と何かが根本的に違う。



魔王が振り返る。



「戻るよ、イグニス」



「……はい」



イグニスが立ち上がる。



去る直前。


カインを見る。



「フェンリル」



カインが眉をひそめる。



「弱くなったな」



昔なら否定していた。



だが今は。



カインは少しだけ笑う。



「そうかもな」



イグニスの口元が、ほんのわずかに緩む。



「……だが、今のお前は嫌いじゃない」



炎が揺れる。



魔王とイグニスの姿が、静かに消えていく。



熱だけが残る。



誰も、すぐには動けなかった。



セリアがようやく息を吐く。



「……何、あれ」



カインが短く答える。



「魔王だ」



その一言だけで、


空気がまた重くなった。

28話でした。結構前に出た話と魔王様の雰囲気変わってるような?まぁ良いでしょう

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