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最弱テイマーは総てを溶かす  作者: コクトー
三章 灰と火
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26/52

「銀狼」

26話です。カインは過去を乗り越えられるのか

吹雪が森を呑み込んでいた。


地面が凍る。


空気が裂ける。


木々が白く染まり、砕けていく。



カインの周囲だけ、温度が違った。



「っ……!」


セリアが腕で顔を庇う。


冷たい。


皮膚が痛い。



だが、その中心にいるカインの方が苦しそうだった。



呼吸が乱れている。


目が揺れている。



氷が、止まらない。



イグニスはその光景を見ながら、静かに言う。



「それがお前だ」



炎狼が背後で唸る。



「獣を押さえ込め」



「力で従わせろ」



氷がさらに荒れる。



セリアの足元まで凍り始める。



「カイン!」



返事はない。



カインの脳裏には、昔の景色が流れていた。



凍る地面。


砕ける人間。


怯える視線。



“フェンリル”。



その名前で呼ばれていた頃。



力で押さえつけることしか知らなかった。



「っ……!」



氷狼の影が背後に浮かぶ。


巨大な白銀の獣。


牙を剥き、暴れ狂う。



セリアが息を呑む。



「……これが」



イグニスが頷く。



「そうだ」



「それがフェンリルだ」



炎狼が前へ出る。


対するように氷狼が唸る。



「押さえ込め」


イグニスが言う。



「支配しろ」



「それが強さだ」



カインの拳が震える。



押さえ込もうとするほど、


氷が暴れる。



制御しようとするほど、


獣が牙を剥く。



「違……っ」



苦しそうな声。



その時。



「怖いんでしょ」



セリアの声だった。



カインの目が揺れる。



セリアは前へ出る。


凍りつく地面を踏みながら。



「その力が」



「じゃなくて」



一歩近づく。



「あんた自身が」



カインの呼吸が止まる。



イグニスが眉をひそめる。



「何を——」



「だってそうでしょ」


セリアは遮る。



「制御できないから怖いんじゃない」



「それを使った自分が嫌なんだ」



氷狼が揺れる。



カインの脳裏に、昔の自分が映る。



感情のない顔。


冷たい目。



「何者も服従させる圧倒的な力」


「それが俺にはある」


「故に、貴様達は負けるのだ」



その言葉。



今の自分が、一番嫌っている言葉だった。



「俺は……」



声が震える。



「また、ああなる……!」



イグニスが言う。



「それでいい」



「獣とはそういうものだ」



「力とは支配だ」



その時。



ルクスが口を開いた。



「なら、やめればいい」



空気が止まる。



イグニスの目が細くなる。



「……何?」



ルクスは変わらない。



「使わないって選択もある」



カインが顔を上げる。



そんな言葉。


今まで誰にも言われたことがなかった。



強いなら使え。


使えないなら価値がない。



それだけだった。



氷狼が唸る。



カインはそれを見る。



暴れ狂う獣。


恐れていた力。



でも——



「……違うな」



小さく呟く。



拳をゆっくり開く。



押さえつけるのをやめる。



制御しようとするのをやめる。



ただ、受け入れる。



氷が静かになった。



吹雪が止まる。



イグニスの目が揺れる。



「……なぜだ」



暴れていた氷狼が、形を変えていく。



巨大な銀の狼。



白ではない。


鋭く輝く、静かな銀。



その狼は、暴れない。



ただ。



カインの背後に立っていた。



静かに。



セリアが目を見開く。



「……綺麗」



銀狼は吠えない。


牙も剥かない。



ただ、そこにいる。



イグニスが低く言う。



「なぜ制御できる」



カインは銀狼を見る。



「制御してねえよ」



静かな声だった。



「押さえつけるのをやめただけだ」



銀狼が一歩前へ出る。



炎狼が唸る。



二匹の獣が向かい合う。



だが、空気が違う。



炎狼は従属。


銀狼は共存。



イグニスが初めて表情を歪めた。



「……ありえん」



ルクスが前へ出る。


赤い炎を纏いながら。



「いや」



銀狼を見る。



「それでいい」



カインが小さく笑う。



「お前、理解早いな」



「見れば分かる」



いつもの調子。



セリアが呆れたように笑う。



「そこでそれ言う?」



でも、その空気で少しだけ張り詰めたものが緩む。



イグニスだけが、理解できない顔をしていた。



炎狼が唸る。



銀狼が静かに前へ出る。



そして。



カインが言う。



「行くぞ」



今度は、“フェンリル”ではなく。



カインとして。

26話でした。共にあると従わせる。炎と氷の戦いはまだまだ続きます

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