「氷狼」
25話です。罪の精算。
爆炎が森を裂いていた。
熱で視界が歪む。
地面は溶け、木々は炭になり、空気すら燃えている。
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その中心で、イグニスは立っていた。
炎狼を従えて。
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「終わりか?」
淡々とした声。
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ルクスが炎を纏ったまま立ち上がる。
腕は焼けている。
それでも前を見る。
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「まだだ」
短い返答。
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イグニスの口元がわずかに動く。
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「その炎だけは評価してやる」
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炎狼が唸る。
次の瞬間。
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爆炎。
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ルクスが横へ飛ぶ。
直後、地面が消し飛んだ。
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「っ……!」
セリアが息を呑む。
規模が違う。
まともに受ければ終わる。
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「セリア!」
カインが叫ぶ。
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セリアが矢を放つ。
三本。
同時。
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イグニスの死角へ。
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だが。
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炎狼が動いた。
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巨大な顎が炎を噛み砕く。
矢が燃え尽きる。
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「邪魔だ」
イグニスが腕を振る。
炎が走る。
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カインが前へ出た。
剣で受け流す。
だが熱が重い。
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「ぐっ……!」
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押される。
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イグニスが見下ろす。
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「なぜ使わん」
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カインの動きが止まる。
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「貴様の氷は、そんなものではなかったはずだ」
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セリアが振り向く。
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「……氷?」
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イグニスは続ける。
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「全てを凍らせる狼」
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「それがフェンリルだった」
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その言葉。
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カインの脳裏に、過去が蘇る。
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吹雪。
悲鳴。
凍る地面。
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白い狼。
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自分の周囲で、人も魔物も関係なく凍りついていく。
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その中心で。
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“フェンリル”が言う。
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「何者も服従させる圧倒的な力」
「それが俺にはある」
「故に、貴様達は負けるのだ」
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冷たい声。
感情のない声。
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セリアの声で、現実へ戻る。
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「……それ、本当にあんた?」
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カインは答えられない。
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イグニスが言う。
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「誇るべき力だった」
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「弱者は震え」
「強者は従う」
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「それが正しい」
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炎狼が低く唸る。
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「強さとは支配だ」
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「だから俺達は選ばれた」
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ルクスが前へ出る。
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炎を纏ったまま。
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「なら、お前は弱いな」
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空気が止まる。
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イグニスの目が向く。
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「……何?」
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ルクスは変わらない。
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「お前、自分で決めてない」
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一瞬。
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炎が揺れた。
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セリアが目を見開く。
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イグニスの炎狼が、わずかに形を崩す。
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「強さに従ってるだけだ」
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ルクスは続ける。
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「お前自身じゃない」
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次の瞬間。
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轟音。
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炎が爆発した。
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「黙れ!!」
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初めてだった。
イグニスの声に感情が乗る。
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炎狼が巨大化する。
熱量が跳ね上がる。
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地面が耐えきれず崩れる。
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セリアが叫ぶ。
「まずい——!」
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ルクスが炎を展開する。
だが押される。
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その時。
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カインが前へ出た。
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「……っ」
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拳を握る。
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冷気が漏れる。
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地面が凍る。
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イグニスの目が細くなる。
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「それだ」
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「思い出せ、フェンリル」
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氷が広がる。
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だが。
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止まらない。
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「っ……!」
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冷気が暴走する。
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地面。
木。
空気。
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全部が無差別に凍り始める。
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セリアの足元まで白く染まる。
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「カイン!」
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ルクスが振り向く。
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カインの呼吸が荒い。
目が揺れている。
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“フェンリル”だった頃の感覚。
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従わせる。
押し潰す。
凍らせる。
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全部戻ってくる。
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「違……っ」
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止められない。
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炎狼と氷狼。
二つの獣が空気を歪める。
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イグニスが笑う。
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「それでいい」
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「獣を抑え込め」
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「力で従わせろ」
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氷がさらに暴れる。
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セリアが動けなくなる。
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「っ……寒……」
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ルクスが前へ出る。
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赤い炎が氷を押し返す。
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「カイン」
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短く呼ぶ。
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カインの目が揺れる。
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「俺は……」
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呼吸が乱れる。
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「また、ああなる……!」
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初めてだった。
カインが、恐怖を口にした。
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イグニスが言う。
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「それがお前だ」
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「受け入れろ」
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氷狼の影が、カインの背後に揺れる。
巨大で、冷たく、暴力的な狼。
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ルクスはそれを見る。
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そして言った。
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「で、どうする」
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カインが顔を上げる。
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ルクスは続けない。
命令もしない。
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ただ待っている。
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選ばせるように。
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イグニスの炎が膨れ上がる。
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氷が暴れる。
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二つの獣がぶつかる寸前。
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カインの呼吸だけが、乱れていた
25話でした。カイン頑張れ




