「馴染むもの」
21話です。
森に入ってから、空気が少し軽くなった。
街のざわめきが遠くなり、
風と葉の音だけが残る。
「やっと静かになったな」
カインが肩を回す。
「落ち着くね」
セリアが頷く。
ルクスは前を歩いている。
⸻
足元で、小さく何かが跳ねた。
「……スライム」
セリアが目を落とす。
透明な小型個体。
よくいる魔物。
⸻
「一体か?」
カインが言う。
「いや」
ルクスが短く返す。
⸻
草の間から、もう一体。
さらに、もう一体。
数が増えていく。
⸻
「……多いな」
カインが構える。
⸻
スライムたちは三人へ近づく。
だが——
攻撃しない。
⸻
セリアの視線が動く。
スライムたちは、ルクスに寄っていた。
⸻
「……やっぱり」
小さく呟く。
⸻
フェンリル戦でも見た。
その前からも。
⸻
ルクスはスライムの力を使う。
抑えつけるように。
絡め取るように。
⸻
「スライムの力、使えるのは知ってる」
セリアが言う。
⸻
「でも——」
視線を周囲に巡らせる。
⸻
「こんな集まり方はしてなかった」
⸻
五体、七体、十体。
囲むように増えていく。
⸻
カインが低く言う。
「懐いてるって数じゃねえな」
⸻
スライムたちは揃って動く。
同じタイミングで止まり、同じタイミングで揺れる。
⸻
ルクスは一歩前に出る。
⸻
「処理する」
短く言う。
⸻
一体に手を伸ばす。
⸻
触れた瞬間。
スライムが崩れた。
⸻
液体のように形を失い、
そのまま——
ルクスの手に消える。
⸻
一瞬、空気が止まる。
⸻
「……は?」
カインの声。
⸻
セリアは動けなかった。
視線がルクスの手に固定される。
⸻
ルクスは続ける。
次の一体へ。
触れ、崩れ、取り込む。
⸻
「ちょっと待って」
セリアが踏み出す。
⸻
三体目、四体目。
静かに消えていく。
⸻
「それ、やってなかったよね」
声がはっきりする。
⸻
ルクスは止まらない。
⸻
「フェンリル戦でも見てる」
セリアは続ける。
⸻
「スライムの力で抑えてた」
「絡めてた」
⸻
さらに一歩詰める。
⸻
「でも、“取り込む”のは違う」
⸻
最後の一体が消える。
⸻
静寂。
⸻
セリアはルクスの前に立つ。
⸻
「何それ」
⸻
ルクスは短く答える。
「取り込んだだけだ」
⸻
「だから、それ」
セリアが即座に返す。
⸻
「スライムの力なのは分かる」
⸻
「でもその使い方、見たことない」
⸻
カインが腕を組む。
「テイマーの範囲じゃねえな」
⸻
「命令でもねえ」
⸻
「融合に近い」
⸻
セリアは頷く。
視線を外さない。
⸻
「スライム由来なのは分かる」
⸻
「じゃあ、それは何?」
⸻
ルクスは少しだけ目を細める。
⸻
「……同じだからだ」
⸻
その一言。
⸻
「同じ?」
セリアが繰り返す。
⸻
「何が?」
⸻
ルクスは答えない。
⸻
視線を外し、歩き出す。
⸻
「行くぞ」
⸻
「待って」
セリアが呼ぶ。
⸻
ルクスは止まらない。
⸻
「それ、いつからできるの?」
⸻
一瞬だけ、足が止まる。
⸻
「最近だ」
⸻
短い答え。
⸻
「変わってる」
⸻
それだけ付け足す。
⸻
カインが舌打ちする。
「雑すぎるだろ説明」
⸻
セリアは動かない。
ルクスの背中を見る。
⸻
“スライムの力を使う”
それは知っていた。
⸻
でも今見たのは——
その延長じゃない。
⸻
「……同じって、何」
⸻
小さく呟く。
⸻
答えはない。
⸻
二人は歩き出す。
距離を詰めるように。
⸻
森の道は続く。
変わらない風景。
⸻
でも——
さっきまでと同じではない。
⸻
三人の間に、
新しい違和感だけが残っていた。
21話でした。更なる違和感も現れました。




