「測れないもの」
GWなのでいっぱいかけますね。20話です。
朝の街は、何事もなかったように動いていた。
人の流れ。店の準備。声と匂い。
昨日と同じ、どこにでもある日常。
三人は簡単な朝食を取っていた。
「今日はどうする?」
セリアがパンをちぎりながら聞く。
「情報を集める」
ルクスが答える。
「無難だな」
カインが言う。
「必要だ」
短い返答。
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しばらく静かに食べ進めてから、セリアが口を開いた。
「……ねえ」
「昨日の話だろ」
カインが先に言う。
「まだ何も言ってないけど」
「顔に出てる」
セリアは苦笑する。
「まあ、そうなんだけど」
少し間を置く。
「やっぱりさ、あれ——」
カインが息を吐く。
「確認するか」
ルクスは何も言わない。
ただ、食事を終えて立ち上がる。
それが合図だった。
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三人は昨日の通りへ向かう。
角を曲がる。
見覚えのある並び。
似た建物。
似た匂い。
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「あった」
セリアが小さく言う。
串焼きの屋台。
昨日と同じ場所に、同じように立っている。
煙が上がり、肉が焼ける音がする。
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三人は近づく。
店主が顔を上げた。
「いらっしゃい」
その一言。
ごく普通の声。
——なのに。
セリアの足が止まった。
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「……昨日と、同じ」
ぽつりと呟く。
「何がだ」
カインが聞く。
「言い方」
セリアは屋台を見つめたまま言う。
「“いらっしゃい”のタイミングも、声の感じも」
カインが眉をひそめる。
「気のせいだろ」
「違うって」
セリアは首を振る。
「串の並びも同じ」
指さす。
「この焼け具合も」
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カインも視線を向ける。
確かに、整っている。
でも——
「普通だな」
そう言うしかない。
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「……注文するか」
カインが言う。
「それで分かるかもしれん」
セリアはうなずく。
少しだけ緊張したように。
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「三本ください」
昨日と同じ注文。
店主は頷く。
「はいよ」
焼き上がった串を差し出す。
その動きも——
滑らかで、無駄がない。
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セリアは一本受け取る。
少しだけ見つめてから、口にする。
「……」
味は普通だった。
変わらない。
何もおかしくない。
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「どうだ」
カインが聞く。
「……普通」
セリアは答える。
「でも——」
言葉が続かない。
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「昨日と同じか?」
「……分かんない」
正直な答えだった。
「同じ“気がする”だけ」
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カインは腕を組む。
「じゃあ、証明できないな」
「……うん」
セリアは小さく頷く。
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ルクスが口を開く。
「十分だ」
二人が見る。
「確認は終わった」
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「でもさ——」
セリアが言いかける。
「再現性がない」
ルクスは続ける。
「あるいは、判断できない」
短く区切る。
「どちらにしても——今はノイズだ」
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カインが小さく息を吐く。
「……切る、ってことか」
「そうだ」
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セリアは屋台を見る。
煙が上がる。
串が焼ける。
店主が客を呼ぶ。
全部、普通。
昨日と変わらない。
——変わらなさすぎる。
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「……気持ち悪いな」
カインがぼそっと言う。
「分かる」
セリアも同意する。
「でも」
カインは続ける。
「分からんものは、分からん」
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ルクスはすでに歩き出していた。
「行くぞ」
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セリアは一度だけ振り返る。
屋台。
煙。
光景。
記憶。
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「……まあ、いいか」
完全には納得していない声。
でも、追わない。
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カインが横に並ぶ。
「いいのか」
「よくはないけど」
セリアは答える。
「今はね」
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三人は通りを抜ける。
人の流れに戻る。
声が重なり、匂いが混ざる。
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「で、何探すんだ」
カインが聞く。
「魔物の動き」
ルクスが答える。
「そっちの方が優先だ」
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セリアはもう振り返らなかった。
ただ、少しだけ考えていた。
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“同じだった”のか。
“同じに見えただけ”なのか。
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答えは出ない。
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だから——
三人は前に進む。
測れないものを、後ろに残したまま。
20話でした。違和感を感じていたはずなのに3人は何がおかしいか分からないようです。




