「役割の形」
17話です。宜しくお願いします。
朝。
川のせせらぎが、やけに静かに聞こえた。
ルクスはすでに起きていて、火の始末を終えている。
カインは剣の手入れ。無駄のない動き。
セリアだけが、まだぼんやりしていた。
「……おはよ」
「遅い」
カインが即答する。
「まだ日出てすぐじゃん」
「準備は終わってる」
「だから今やるっての」
セリアは立ち上がりながら、軽く伸びをする。
その様子を、ルクスは一度だけ見て、視線を外した。
「出る」
短い合図。
三人は自然に動き出す。
昨日よりも、少しだけスムーズに。
⸻
しばらく進むと、小さな荷車が道端で止まっていた。
車輪が外れ、荷が崩れている。
傍らには商人らしき男が、困り果てた顔で座り込んでいた。
「……壊れたか」
カインが呟く。
「みたいだね」
セリアが近づく。
「大丈夫ですか?」
男は顔を上げた。
「ああ、旅人か……見ての通りだ。車輪がやられてな」
ルクスは荷車を一瞥する。
軸が歪み、片側が完全に浮いている。
「直せるか」
カインにだけ聞く。
「無理だな。交換が要る」
即答。
セリアがしゃがみ込む。
「応急処置ならできるかも」
「やめとけ。余計壊す」
「やる前から決めつけないでよ」
セリアは近くの木片を拾い、軸に当ててみる。
「……ほら、これで支えれば——」
バキッ、と音がした。
「あ」
木片が折れ、車輪がさらに傾く。
沈黙。
カインが顔を逸らす。
「言っただろ」
「今のは素材が悪かっただけ!」
「同じことだ」
セリアがむっとする。
「じゃああんたやってみなよ」
「戦闘以外は専門外だ」
「開き直るな」
軽く言い合いになる。
その間に、ルクスは荷物を一つ持ち上げた。
「運ぶ」
二人が同時に振り向く。
「は?」
「街まで距離は大したことない。人手が足りないだけだ」
商人が目を見開く。
「運んでくれるのか?」
「対価は要らない。ついでだ」
カインが眉をひそめる。
「効率悪いだろ」
「道は同じだ」
「……」
反論が詰まる。
セリアがにやりと笑う。
「はい決まり。カイン、重いの担当ね」
「なんで俺が」
「一番力あるでしょ」
「……ちっ」
舌打ちしながらも、荷を持ち上げる。
驚くほど軽々と。
商人が慌てて頭を下げた。
「助かる……本当に」
ルクスは何も言わず、歩き出す。
その後ろを、三人と一人で進む。
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道中。
荷を運びながらの移動は、自然と会話を生んだ。
「意外とちゃんとしてるじゃん」
セリアがカインを見る。
「何がだ」
「こういうの、やらないタイプかと思ってた」
「別に……やれと言われたからやってるだけだ」
「でも断らなかったでしょ」
「……」
カインは答えない。
少しだけ視線を逸らす。
ルクスが前から言う。
「重いなら替わる」
「要らん」
即答だった。
「問題ない」
その声は、昨日より少しだけ柔らかい。
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やがて、小さな街が見えてきた。
商人は何度も礼を言い、荷を受け取る。
「本当に助かった。これ、少ないが——」
金を差し出す。
ルクスは首を振った。
「不要だ」
「だが——」
「時間の方が価値がある」
それだけ言って、背を向ける。
カインが小さく笑った。
「かっこつけてんな」
「事実だ」
「はいはい」
セリアが横に並ぶ。
「でもさ、ちょっと良かったかもね」
「何がだ」
「こういうの。戦うだけじゃない感じ」
カインは少し考える。
「……効率は悪い」
「それでも?」
「……悪くはない」
小さな声だった。
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街の入口で、三人は足を止める。
人の流れ。声。匂い。
日常の空気。
「今日はここで情報集める」
ルクスが言う。
「宿も取るか」
カインが続く。
セリアは少しだけ周囲を見回した。
「……うん、そうだね」
何か言いかけて、やめる。
すぐに表情を戻す。
「じゃあまずは飯!」
「切り替え早いな」
「生きるのに必要でしょ」
カインが呆れたように笑う。
「それは否定しない」
ルクスはすでに歩き出していた。
「行くぞ」
「はいはい」
「待てよ」
三人が並ぶ。
今度は——
誰が前でも、後ろでもなかった。
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まだ完全じゃない。
でも確実に、
“役割”は形になり始めていた。
17話でした。段々と三人の距離が近づいてきましたね




