「距離の測り方」
16わです
朝の空気は、まだ少し冷えていた。
火の残りがくすぶる中、セリアは伸びをする。
「……ねむ」
「起きたなら手を動かせ」
カインが無表情で言う。
「はいはい。あんたはもう終わったの?」
「とっくに」
見ると、荷は綺麗にまとめられていた。
無駄がない。けど——どこか不自然なほど整いすぎている。
「几帳面だね」
「そういう風にやってきただけだ」
会話はそれで切れる。
少しの沈黙。
その空気を割るように、ルクスが立ち上がった。
「出るぞ」
短い一言。
セリアは苦笑する。
「せめて“準備できたか”とかさ」
「見れば分かる」
「はいはい」
カインは何も言わず、先に歩き出す。
その後ろを、ルクスが追う。
——セリアが、最後。
「……なんか、この並び落ち着かないな」
小さく呟いて、足を速めた。
⸻
しばらく歩くと、道が二つに分かれていた。
片方は森の中へ、もう片方は開けた街道へ続いている。
ルクスは迷わず、街道側へ足を向けた。
「そっちか」
カインが止まる。
「問題あるか」
「いや、あるかどうかを聞いてる」
ルクスは少しだけ視線を向ける。
「ない」
「根拠は?」
「必要ない」
一瞬、空気が張る。
セリアが間に入った。
「まあまあ、どっちでも行くしかないんだしさ」
「お前はそれでいいのか」
カインが睨む。
「いいよ。だって——」
セリアは軽く肩をすくめる。
「こっちの方が早そうじゃん?」
ルクスがわずかに目を細めた。
「……分かるのか」
「なんとなくね」
「曖昧だな」
「そっちもでしょ」
軽く言い返す。
カインはため息をついた。
「……分かったよ。勝手にしろ」
そう言って歩き出す。
結局、三人とも同じ方向へ進んだ。
⸻
道中、低い唸り声が聞こえた。
草むらから飛び出してきたのは、野犬型の魔物が三体。
「来たな」
カインが前に出る。
動きに迷いがない。
一瞬で距離を詰め、最初の一体を叩き伏せる。
そのまま二体目へ——
「待て」
ルクスの声。
カインの動きが一瞬だけ止まる。
「……なんだ」
「囲まれてる」
背後からもう一体、気配。
セリアがすでに弓を構えていた。
「こっちは任せて」
矢が放たれる。
正確に、急所。
魔物が崩れ落ちる。
残った一体が怯んだ。
カインはそれを見て、踏み込む——
直前で、止めた。
「……逃がすのか」
「必要ない」
ルクスが答える。
「数を減らした。十分だ」
カインは舌打ちしたが、追わなかった。
逃げた魔物は森へ消える。
静けさが戻る。
⸻
「中途半端だな」
カインが言う。
「全部やればいい」
「無駄だ」
ルクスは短く返す。
「目的は進むことだ。狩ることじゃない」
カインは少しだけ黙る。
「……割り切ってるな」
「そういうものだ」
セリアが間に入る。
「でもさ、さっきの止まり方」
二人を見る。
「ちょっと息合ってたよね」
カインが眉をひそめる。
「は?」
「いや、なんとなく」
ルクスは何も言わない。
ただ、少しだけ歩き出すのが早かった。
「ほら、置いてくぞ」
「おい、待て」
カインが追う。
セリアがその後ろで笑う。
「なんだかんだで、ちゃんと組めてるじゃん」
「気のせいだ」
「そうかなー」
軽口が、少しだけ自然になる。
⸻
夕方。
三人は川辺で足を止めた。
「今日はここでいい」
ルクスが言う。
カインが周囲を見る。
「……まあ、悪くない」
セリアは水に手を浸した。
「冷たっ」
その様子を見て、カインがわずかに口元を緩める。
すぐに元に戻るが、確かに変化はあった。
火を起こし、簡単な食事を取る。
会話は少ない。
それでも——
完全な無言ではなかった。
⸻
「なあ」
カインがぽつりと言う。
「なんだ」
ルクスが返す。
「お前、いつもそうやって決めてるのか」
少しの間。
「そうだ」
「間違えたらどうする」
「その時考える」
即答だった。
カインは小さく笑う。
「適当だな」
「違う」
ルクスは火を見たまま言う。
「選んでるだけだ」
それ以上は言わない。
カインも、深くは聞かない。
⸻
夜。
三人はそれぞれの場所に横になる。
距離はまだ、少しある。
けれど——
離れてはいない。
セリアが小さく呟いた。
「……まあ、悪くないかもね」
誰に向けたわけでもない言葉。
それに答える者はいない。
ただ、火の音だけが静かに続いていた。
⸻
少しだけ近づいた距離。
けれどまだ、完全には重ならない。
三人の歩幅は、これから揃っていく。
16話でした〜定期掲載出来なくてすいません




