「ほどけないもの」
13話です。これにてカイン編の終幕となります。
木の軋む音で、目が覚めた。
薄暗い天井。
見慣れない木組み。
「……ここは……」
体を起こそうとして、止まる。
重い。
全身が鉛みたいに動かない。
(無理をするな)
頭の奥で、ノクスの声。
(魔力も肉体も限界に近い)
「……分かってるよ」
息を吐く。
視線を横に向ける。
そこに――
「……よお」
先に起きていた。
カインが、壁にもたれかかっている。
少しやつれているが、確かに人の姿だ。
「……早えな」
「そっちが遅いんだよ」
軽口。
だが、どこかぎこちない。
少しだけ、間が空く。
「……どこまで思い出した?」
カインが聞く。
真っ直ぐに。
ルクスは、少しだけ目を逸らした。
「……全部じゃねえ」
正直に言う。
嘘をつく理由はない。
「でも」
一拍。
「お前のことは分かる」
カインが、少しだけ目を細める。
それから。
「……そっか」
短く、それだけ。
そして、笑う。
「じゃあまあ、いいか」
「いいのかよ」
「いいだろ」
肩をすくめる。
「そのうち思い出すだろうしな」
軽い調子。
だが無理に明るくしているわけじゃない。
本当にそう思っているような声だった。
「……また作ればいいだけだろ」
その一言で。
空気が、少しだけ柔らぐ。
ルクスは小さく息を吐いた。
「……相変わらずだな」
「褒めてんのか?」
「どうだろうな」
小さく笑う。
その時。
「……起きたのね」
扉が開く。
セリアだった。
少し驚いた顔で、二人を見る。
だがすぐに、表情を整える。
「……思ったより早かったじゃない」
「まあな」
ルクスが答える。
セリアの視線が、カインに向く。
そして。
少しだけ揺れる。
「……本当に、カインなのね」
確認するように。
カインは軽く手を上げた。
「一応な」
軽く言う。
だがその目は、ちゃんとセリアを見ていた。
沈黙。
ほんの少しだけ、長い。
「……よかった」
小さく。
本当に小さく、セリアが呟く。
だがその後、すぐに顔を逸らした。
「……で」
仕切り直すように。
「状況だけど」
少し間を置く。
「追手は来たわ」
ルクスの目が細くなる。
「……だろうな」
「でも」
セリアが続ける。
「誤魔化した」
短く。
はっきりと。
「ここに戦闘の痕跡はあった。でも――途中で途切れてた」
淡々と説明する。
「だから、“もうこの場にはいない”ってことにした」
沈黙。
ルクスがセリアを見る。
「……いいのかよ」
「良くはないわよ」
即答。
だが。
「でも」
一瞬だけ、言葉が詰まる。
そして。
「……放っておけないでしょ」
視線を逸らしたまま、言う。
それが本音だった。
ルクスは何も言わない。
ただ、小さく息を吐く。
「……で?」
カインが口を開く。
「これからどうすんだ」
セリアが、少しだけ間を置いた。
それから。
真っ直ぐにルクスを見る。
「……あんたの討伐は」
そこで一度区切る。
「一時的に保留にする」
静かに。
だがはっきりと。
「その代わり」
今度はカインを見る。
「カインの状態を確認する」
「監視ってことか?」
「そうとも言うわね」
否定はしない。
だが。
「……最後まで見届ける」
その一言に、すべてが乗っていた。
沈黙。
ルクスとカインが、少しだけ顔を見合わせる。
そして。
「……いいんじゃねえか」
カインが笑う。
「ちょうどいいだろ」
「何がだよ」
「退屈しなさそうだしな」
軽く言う。
ルクスは呆れたようにため息をついた。
「……勝手にしろ」
それが了承だった。
セリアは、少しだけ目を伏せる。
安心したのか。
それとも、まだ迷っているのか。
自分でも分からないまま。
「……決まりね」
小さく呟く。
こうして。
三人の奇妙な同行が、始まった。
まだ完全には繋がっていない関係のまま。
それでも確かに。
ほどけない何かで、結ばれながら。
13話でした。ぎこちない3人の関係がこれから見守りましょう。




