表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

「残された温度」

12話です。これにてフェンリル…カイン編は次回で終わりとなります。

――熱。


 焼けるような光景。


 崩れる建物。

 響く悲鳴。


 その中で。


「……走れよ、ルクス!」


 笑っていた。


 あいつは。


 ――カイン。


 振り返る。


 いつもと同じ顔で。


 なのに、背後では何かが壊れている。


「お前、また無茶してんだろ」


「うるせえな、兄貴ぶるなっての」


「実際そうだろ」


 軽口。


 くだらないやり取り。


 それでも確かにあった時間。


 その記憶が――


 途切れる。


 ノイズ。


 赤い光景。


 何かが決定的にズレる。


「……っ!」


 ルクスは息を呑んだ。


 現実に引き戻される。


 白。


 凍りついた森。


 そして目の前。


 崩れかけたフェンリル。


 スライムが絡みつき、内側へ侵食している。


 熱を帯びたそれが、氷を溶かし、蒸発させ、構造を崩していく。


(接続は維持している)


 ノクスの声。


(だが、この状態は長く続かない)


「……十分だ」


 ルクスは息を吐く。


 まだ頭の奥に残っている。


 さっきの断片。


「……思い出した」


 ぽつりと呟く。


「お前のことだけはな」


 フェンリルが、揺れる。


 反応。


 確かに。


「……カ……イ……ン……」


 かすれた声。


 自分の名を、確かめるように。


 ルクスは踏み出す。


 氷を砕きながら。


「お前さ」


 静かに言う。


「昔からそうだったよな」


 もう一歩。


「勝手に突っ込んで、勝手に全部背負って」


 フェンリルが吠える。


 だが弱い。


 崩れている。


「……いい加減やめろ」


 低く。


 はっきりと。


「一人でやるな」


 その瞬間。


 動きが、止まる。


 完全な静止。


 セリアが息を呑む。


 空気が張り詰める。


 ルクスは手を伸ばした。


 スライムが腕を覆う。


 熱を帯びた流動体が、フェンリルへと繋がる。


 内側へ。


 さらに深く。


「……戻ってこい」


 強く。


 叩きつけるように。


「カイン!!」


 沈黙。


 そして。


 崩壊が始まる。


 氷が、内側から砕ける。


 外へ広がる力ではなく。


 内へ沈み、壊れていく。


「――ァ……!!」


 フェンリルが叫ぶ。


 苦しむように。


 抗うように。


 だが止まらない。


(制御が完全に外れた)


 ノクスの声。


(力が維持できない――崩れる)


「……それでいい」


 ルクスは踏み込む。


 最後の一歩。


「もう終わりだ」


 スライムが核へと到達する。


 だが、壊さない。


 包む。


 抑える。


 閉じ込める。


「……止まれ」


 静かな命令。


 その瞬間。


 世界が、止まった。


 そして。


 砕ける。


 氷が崩壊する。


 白が剥がれる。


 冷気が消えていく。


 そこに残ったのは。


 一人の男だった。


 倒れている。


 息がある。


「……カイン……?」


 セリアの声が震える。


 ゆっくりと近づく。


 膝をつく。


 手を伸ばす。


 触れる。


 ――温かい。


「……生きてる……」


 確かに。


 その瞬間。


 ルクスの体が、崩れた。


「……っ」


 膝から力が抜ける。


 視界が暗くなる。


(限界だな)


 ノクスの声が遠い。


「……ああ……」


 ルクスは最後にカインを見る。


 それで十分だった。


「……今度は……」


 言いかけて。


 意識が落ちる。


「ルクス!」


 セリアが振り向く。


 二人とも倒れている。


 動かない。


 呼吸だけが、かすかにある。


 静寂。


 さっきまでの戦いが嘘みたいに。


 森は壊れている。


 氷の痕跡も、戦闘の跡も、すべて残っている。


 ――追手が来る。


 時間はない。


「……どうすんのよ……」


 小さく呟く。


 視線が揺れる。


 ルクスへ。


 カインへ。


 そして――戻る。


 歯を食いしばる。


「……ほんと、バカ」


 吐き捨てる。


 だが、その手は迷わなかった。


 ルクスの腕を掴む。


 そしてカインも。


「……死なせない」


 誰に言ったのか分からない。


 それでも。


 決めた。


「……こんなところで終わらせるもんか」


 立ち上がる。


 二人を引きずるようにしてでも。


 歩き出す。


 森の奥へ。


 誰にも見つからない場所へ。


 背後には、戦いの痕跡。


 だが。


「……ここには、もういない」


 ぽつりと呟く。


 まるで決めているように。


 その言葉だけを残して。


 セリアは、二人を連れて森を去った。


 冷えきった世界に。


 わずかな温もりだけを残して。

13話でした。カインはどうなるかご期待ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ