「残響」
第10話です。ついに節目である10話を書くことができました。まだまだ続きますが頑張っていきたいです
冷気が、満ちていた。
葉の先が白く凍り、地面には霜が広がっている。
息を吐くたび、肺の奥まで冷えるようだった。
「来たか」
奴だ。
(……やめておけ)
不意に、声が響く。
耳ではない。
頭の奥に、直接落ちてくる感覚。
ノクスだ。
(以前、負けている相手だろう)
「……ああ」
ルクスは短く答える。
視線は前から外さない。
(なら尚更だ。勝算のない戦いに意味はない)
「勝算ならある」
即答。
わずかな沈黙。
(……根拠は)
「……違和感だ」
一拍。
(……曖昧だな)
「でも確かだ」
足元の霜を踏み砕く。
「前に戦った時、あいつは“ズレてた”」
(ズレていた?)
「殺せる場面で、殺しに来なかった」
あの時の光景を思い出す。
「動きが噛み合ってない。意図と行動が」
(……制御不良の可能性か)
「そんなとこだろうな」
ルクスは息を吐く。
「今回も同じなら、隙はある」
(不確定要素に依存しすぎだ)
「それでもいい」
即答だった。
「確かめたいことがある」
(……何をだ)
少しだけ、間。
「さあな」
濁す。
だが視線は鋭い。
(……愚かな選択だ)
ノクスの声は冷たい。
(だが――)
一瞬の間。
(お前がそう判断するなら、止めはしない)
その直後。
空気が変わった。
「……来るぞ」
温度が、落ちる。
一気に。
息が白く凍り、視界の端から色が消えていく。
現れた。
フェンリル。
白銀の毛並みが冷気を纏い、足元から氷が広がる。
黄金の瞳が、ルクスを射抜く。
「……やっぱりな」
剣を構える。
次の瞬間、フェンリルが消えた。
氷を滑るように加速。
「チッ!」
受ける。
衝突。
爪と剣がぶつかる。
凍気が走る。
腕が、一瞬で凍りつく。
「……っ、重い……!」
無理やり弾く。
距離を取る。
(やはり強いな)
「……でもな」
ルクスは小さく笑う。
(……どうした)
「やっぱりだ」
フェンリルを見る。
「ズレてる」
攻撃は鋭い。
だが。
殺しきれていない。
(……確かに)
ノクスもわずかに認める。
その時。
「そこか!」
別の声が、割り込んだ。
氷を砕きながら、一人の影が飛び込む。
斬撃。
フェンリルが後退する。
「……見つけた」
セリア。
息を荒げ、剣を構える。
「ルクス……!」
言いかけて、止まる。
フェンリルと目が合う。
空気が凍る。
別の意味で。
「……なに、これ……」
知らないはずの相手。
なのに、胸がざわつく。
フェンリルの動きが止まる。
完全な静止。
黄金の瞳が、セリアを捉えたまま揺れる。
「……ぁ……」
音が漏れる。
――ノイズ。
焼ける匂い。
崩れる街。
赤い光景。
なのに、冷たい。
「――ッ!!」
咆哮。
氷が爆ぜる。
暴走。
セリアへ突進。
「下がれ!!」
ルクスが叫ぶ。
だが――
止まる。
喉元、寸前で。
「……なんで……」
セリアの声が震える。
「……なんで、そんな目……」
その一言。
フェンリルの中で、何かが砕けた。
(……来るぞ、ルクス)
ノクスの声。
直後。
凍気が爆発する。
「……やめろ」
ルクスが踏み込む。
「……覚えてんだろ」
氷を砕きながら。
「少しでいい」
さらに一歩。
「……思い出せ」
静止。
世界が凍りつく。
「……ル……」
かすれた声。
「……ルクス……?」
確かに、そう言った。
(……個体識別の反応か)
「違うな」
ルクスが吐き捨てる。
「これは――」
その瞬間。
凍気が再び爆発した。
拒絶。
記憶を凍らせ、砕くように。
「――ァアアアアアッ!!」
氷嵐。
視界が白に染まる。
それでも。
ルクスは退かない。
「来いよ、カイン!!」
名を叫ぶ。
一瞬。
フェンリルの動きが揺らぐ。
(……その名は)
「……終わらせねえ」
剣を構える。
「こんな形で、お前を!!」
氷と刃が、激突する。
三つの影が交錯する。
凍りついた森の中で。
戦いは、まだ終わらない。
第10話でした。次回は本格的な戦闘になります。お楽しみに




