15. 徒花
「松野さん、、雫君、、」
掠れた声が漏れ出た
立っているだけで精一杯なのに
ふたりの顔を見た瞬間気が少し抜けてしまった
「っ、、、!」
視界が揺れる
足元が地面についているのかすら分からない
吐気が口の中を覆う
なんだこれ
「動けるか、二星」
足元に剣が投げられる
澱に奪われていたのを松野さんが取り返してくれていたんだろう
だが今はしゃがむのもつらい
何か体に異常が起きていることはわかっている
でも
「はい」
そう答えるしかなかった
動けるかなんて分からない
でも立ち向かわなきゃいけない
「君、さっき死にかけじゃなかったっけ?動いて大丈夫なの?」
軽い心のこもっていない声だった
でもまるで本気で心配しているみたいな口調に背筋が冷える
「心配されるほどやわじゃないんで」
雫君から返ってきた声
震えていた
無理して答えてるんだ
辛いはずなのに
そう思ったら余計にこんなところで倒れてる場合じゃない
ほんの少しだけ足に力が戻る
「まあいいや」
澱が笑った
さっきまでの作り物の表情じゃなく本当に楽しんでいる顔で
「私にとっちゃモルモットが一人増えただけだ」
澱は腰に掛けていた刀に手をかける
春花さんが使っていたものだった
「すぐにそのお腹にメス入れてあげる」
「行くぞ」
澱の一言
そして松野さんの一言で空気が一気に張り詰めた
思考より先に体が動く
澱の懐まで潜りこみ足元に剣を振るう
しかし今の弱った体の私の攻撃は情けなく軽々と飛び避けられてしまう
でも澱のその足が地面に着くその時
その一瞬だけ澱の体勢が揺らいだ
「そこ」
雫君の鋭い一撃が澱を襲う
目では追えなかった
でも浅くはあるが澱の肩には切り傷ができていた
効いてる
「右から来るぞ」
松野さんの声
振り向く前に体が勝手に動いた
横薙ぎの刃を紙一重で避ける
その後の隙ができたところに松野さんが切りかかる
澱は避けようとしてまた体勢を崩す
そこを狙い澱に切りつける
少し重い感覚が残った
前を見ると腕に傷を付けれていた
いける
この調子で立て続けに攻撃をしていけば、、、
もう一度攻撃をしようと踏み込んで
その瞬間、視界の端で何かが光った
そして口から溢れた血に意識をすべて持っていかれた
「っ!?!?」
鉄臭い味に思わず気分が悪くなる
何が起きた
そこで遅れて痛みがやってきた
腹にメスが刺さっていた
避けようと飛んだ時か
空中でメスを投げ正確に私にあてたんだ
熱い
体が痛みを熱さと勘違いする
「っ、、、」
金属が地面に落ちた音が聞こえた
雫君の刀だった
その場に伏していたのは私だけじゃなかった
痛みを堪え顔を上げると地面に横たわっている雫君がいた
、、、やっぱり薬が効いてるんだ
彼の眼の焦点は定まっておらず口からは私と同じように血が垂れていた
「気づいてるんだね、この部屋に私が毒撒いたこと」
そう聞こえた
顔をそちらに向けることはできない
「だから自分は前に出ずこの二人に前衛を任せたの?」
「違うな」
松野さんの声だ
まだ彼は倒れていない
「それでお前が勝ったと思うように仕向けるのが俺の作戦だからな」
その言葉が終わる瞬間、何かがすさまじい速度で移動した
そして鋭い斬撃がこの治療室に走った
さっきまでそこにいた澱の気配がなくなっている
一体何が起こったっていうんだよ
「これ使え、無理ならここから離脱して避難民を助けろ」
気づけばそこにいた松野さんから包帯と何かの薬を受け取る
刺さっていたメスを抜き包帯で傷口を隠す
抜く際に焼けるような痛みが走った
「水溜、演技うまいな」
「まあ実際に死にかけなんで」
、、、演技だったのか
薬を飲むと痛みが和らぎ気分が少し良くなる
「まだ私は戦えます」
立ち上がって状況を確認する
澱は壁に打ち付けられていた
その右腕は何かの獣に千切られたかのような断面を見せていた
そこからは血が激しく溢れてやまなかった
「、、、いやぁ 楽しいね」
澱はそう言った
先ほどと同じ表情
まるでこの状況を楽しんでいるかのように
「でもお遊びはここまで 始めようか、オペを」
顕澱 徒花ノ蕾
澱の足元から花びらのような影が滲み出た
それは静かに広がっていく
床を覆い
壁をなぞり
やがてその身を包み込む
花びらが重なり、閉じていく
まるで何かを育てるように
そしてぱらり、と
花が散る
その中から現れたのは先ほどとは別の何かだった
白い白衣を身にまといその陰から幾多もの触手が姿を見せている
「今救ってあげるからね、モルモット達」




