12. 病院
町には学校でも見た目玉の毛むくじゃらが徘徊していた
だが学校の時と同様に襲ってくる気配はなくただこちらを見ているだけだった
「気味が悪いですね」
「まあ襲ってこないならいいんじゃないかな、、、」
いつもはにぎわっていた駅周辺
いつも行列だったカフェ
学生たちが放課後に集まるゲームセンター
今は不気味なほど静かだ
「じゃあ僕たちは住宅街の方に行くから頑張ってね」
そう言い残し時雨さんと城崎さんは去っていく
『この先の角を曲がったところに病院はあります』
渡されたイヤホンから刻之さんの声が聞こえる
「なんかスパイみたいでかっこいいね」
杏がはしゃいでいるのを見て緊張が少しほぐれる
「あんまり音を立てるな、いつ何が襲ってくるかわからない」
松野さんは周囲を一度も見落とさないように歩いていた
微かな情報も逃さないために
すごいな
私とは立っている場所が違う
そのまま彼の背中を負ってゆく
『ここが柊木病院です、皆さんお気を付けて』
病院の外見は前に来た時と変わらなかった
でも胸の奥が、少しだけざわついていた
理由は分からない
ただ、ここに来てはいけない気がした
それでも生存者を助けるために来た
皆の力になれるようにここに来たんだ
怖気ついてる場合じゃない
「二手に分かれて行動するぞ、俺は猫宮と水溜は二星と動け」
私たちは松野さんから物資をいくつか受け取りカバンに入れる
そして病院に入る前、松野さんは私にこう告げた
「二星未奈、俺はお前を信用していない」
/
病院の中は、思ったよりも明るかった
「……電気、ついてるんだね」
「非常用電源じゃないな 普通に通ってる」
雫君は、周囲を見回しながら言った
廊下はきれいで血の跡も割れたガラスも見当たらない
「静かだね、、、」
「ああ、でも機械は動いてる」
遠くで鳴るモニター音
人の気配だけが、ない
「本当に誰かいるのかな、、、」
「わからない、だから慎重に行くぞ」
、、、頼もしいな
同じ年のはずなのに全然違って見えた
「、、、この部屋も誰もいないね」
「そうだな、、、気味が悪い」
暗くない、明るく静かな空間を二人で進んでいた
肝試しなんかよりよっぽど不気味だ
隣の部屋を警戒しながら開ける
だがそこにも人はおらず、布団の上にいくつかの薬が散らばっているだけだった
その薬は私も見たことがあった
「これ、、、有名な痛み止めのやつだね、すぐ効くとか何とかで」
他の部分も見てみようと後ろを振り返る
そこで雫君が青い顔をしていた
「、、、大丈夫?」
何かに怯えるような顔で立ちすくしていた
15秒ほどたってからようやく返事が返ってきた
「、、、あ、ああ 大丈夫、、、」
そうは言ったものの顔は青ざめたままだった
『水溜君、大丈夫ですか?今からでも戻った方が』
「大丈夫です、少し昔のことを思い出しただけなんで」
そういってその部屋を後にした
次の部屋までは少し遠かった
「雫君、聞いちゃ悪いかもなんだけど昔のことって?」
「、、、俺、親に虐待されてて」
え
想像外の返事が返ってきて思わず足が止まってしまった
「よく殴られたから、それ飲んで、それを思い出しちまっただけ」
「、、、ごめん」
「大丈夫」
返事の声は小さかった
/
「、、、見つからないね」
一階から三階まで探したが誰もいるように見えなかった
「一回あっちの方にも連絡するか」
雫君はスマホを取り出し電話をするが
「、、、つながらない」
「刻之さん、あっちの様子わかりますか?」
しかしそちらからも返事はなかった
嫌な感じがする
「圏外かもしれないね、一回外に出よ」
雫君にそう提案し階段を降りる
、、、あれから会話が弾まない
そりゃそうだ
何も考えずに聞いた私が悪いよな
少しでも何かできないかな
そう考えているとイヤホンから声が聞こえた
『あーあー聞こえますか?』
少し音質は悪かったがすぐに分かった
刻之さんの声だった
「あ、聞こえます!あっちのほうは大丈夫ですか?」
『はい、無事です、今彼らは四階より上の探索を行っています 二人は地下があるらしいのでそこへお願いします』
地下病棟か
「いくか」
すぐに進んでゆく雫君の背中を追いかける
送られた地図をもとに進んでゆく
従業員のみが通れる通路の先
そこに下に降りる階段はあった
「暗いな、大丈夫か」
「うん、私は大丈夫」
転んでしまわないように一歩ずつ降りてゆく
降りきって地下病棟への入り口を開ける
開いた先には多くの人がいた
すぐにこちらに気づき騒ぎ始める
「救助が来たぞ!」「やっと助かる!」
具合が悪そうな人も多くおり限界が近かったのだろう
本当に見つけれてよかった
「未奈さん落ち着いて今から隣町まで護衛するので」
雫君が皆にそう呼びかける
その時
聞きなじみのある声が私の耳に飛び込んできた
「未奈!」
二星 椛、私のお姉ちゃんだった
「お、お姉ちゃん!?何でここに?」
「学校の帰り道に具合が悪い人を見かけて病院まで連れて行ったんだよ、でもそうしたら病院に化け物がたくさん出てきちゃって」
お姉ちゃんが生きている
思わず飛び出して駆け寄る
頭の中にあった悩みごとの大部分は吹っ飛んでしまうような感覚に襲われる
「お姉ちゃん、、、生きててよかった、、、」
「もう、未奈ったら泣き虫だね」
そういうお姉ちゃんも泣きそうになっていた
私はすでに泣いてしまっていたが
「よく無事だったね、病院の人に案内されたの?」
「いや異常事案対応班、だっけ?その隊員さんが皆を避難させてくれて 食料とかも用意してくれたんだよ」
異案がすでにここに来た?
刻之さんからの情報にはない話だった
「確か、、、春花さんだっけ、そう言ってたよ」
春花
先ほどまでお姉ちゃんの無事でいっぱいだった頭にあの時のことが思い出される
悲鳴の響いた町
そして
ー私は春花 小綿、わたぐもって呼んでねー
ー白狼!その子連れて早く逃げて!
もしかして
春花って
私のせいで死んでしまったあの
「ね、ねえお姉ちゃん 春花って」
「未奈ちゃん」
声が後ろから聞こえた
恐る恐る振り返ると
そこには春花 小綿がいた
間違いなかった
綿雲のようなふわふわとした髪の笑顔が素敵な女性
それが生きてそこにいた
「春、花さん?」
動揺しすぎていたからだろう
地面に倒れる雫君にすらも気づくのに遅れた
「未奈ちゃん、ダメだよ?」
すぐさま間合いを詰められ重い一撃を食らう
突然のことに気が遠くなっていく
「まだここが安全ってわかったわけじゃないのに油断するのは」
最後に見えたのはお姉ちゃんの青ざめていく顔だった




