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混沌の科学  作者: 藤原時照


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魔法の時代

「こちょうちゃん、真紀です。よろしくね」

「まーさま、よろしゅう」

「僕は三好浩一です。よろしくね」

「こーさま、よろしゅう」

 こちょうをふたりに紹介したあとは、イデアの確認に移る。

 ログを見ると、イデアでは予想通り四人が戦わされていた。

 後藤は刀、みゆきは蔓植物、三好は拳銃、真紀は狐火を使っていた。

 だが、四人は明らかに手加減をしている。

 しばらく見ていたら理由がわかった。

 たまに、混沌に喰われた状態から元に戻る人がいるのだ。

 その状況を見て、後藤はひとつの可能性に思い至った。

 高次存在は、ユーラシア大陸にアレが増殖する前に、軍備を縮小させた。

 当時、後藤はそれを疑問に思っていた。

 だが、高次存在が正しかった理由が、いま、目の前にある。

 元に戻す方法があるから、高次存在は虐殺を阻止したかったのだ。

 

 と――

 後藤が刀を鞘にもどした。

 そして、集団に突入していく。

「ちょ、後藤氏、血迷った?」

 見ている方の三好が声を上げた。

 イデアの中の後藤は、片っ端から素手で相手を倒していく。

「気を当てれば、一定確率で状態が回復するのかな。見た感じ10~20%ってとこか」

 見ている方の後藤は冷静に観察している。

 イデアの中の三好も何かを思いついたようだ。

 拳銃から弾を抜き、空の状態で撃ちはじめた。

 その状態でも何かが銃口から飛び出している。

「なるほど。この銃って気を打ち出せるんだ」

 見ている方の三好は、銃を取り出して弾を抜き、何かを試し始めた。

 イデアの中のみゆきと真紀は、力加減で無理なく対応できている。

 今回の相手は数十人。

 制圧は無事完了した。

 と思っていたら――

 回復した人たちが内輪もめをはじめた。

 どうやらアレに変えられたことについて、自分を変えた相手を攻撃し始めたらしい。

「どうしようもないわね」

 真紀が皆の気持ちを代弁した。

「とりあえず、魔法なり気なりを使って対処できることはわかったね」

「で、どうするん、後藤氏。魔法教室でも開催する?」

「いや、それは難しいかな」 

「どして?」

「まだ『魔子』は増加しはじめたばかり。大勢が使うようになれば、あっという間に枯渇する可能性がある。それに、急激な変化は何が起きるかわからない。様子を見ながら段階的に進める方がいい」

「じゃあ、どのくらいになればいいん?」

「それが一番知りたいところだね。でも、現状は判断する手がかりすらない。これからデータをとって調べていくしかない」

「ととさま、かかさまの草の種を撒けばいいのです」

 こちょうが口をはさんだ。

 こちょうによると、後藤家で繁殖している蔓植物は清浄な魔子を生成しているそうだ。

 あの蔓植物が増えれば、自然と守りになるという。

 なるほど、確かにそれは有効な解決策かもしれない。

 たぶんヒロイックファンタジーなら、主人公はその案にとびつき、正義のためにいろいろ手を尽くすのだろう。

 それはヒーローとして非の打ちどころなくかっこいい。

 だが、後藤には、その選択肢を安易に受け入れることはできない。

 それは妙案ではあるかもしれないが、みゆきに負荷がかかり過ぎる。

 進捗がみゆきのコンディション次第になってしまう。

 後藤は研究者であるが、事業企画にも手を出している。

 その事業企画の観点からすれば、一人に負荷がかかるのも、無計画にあちこち手を出すのも良策とは言いがたい。

 これからもほぼすべての問題を後藤たち四人が解決していくのか?

 そんな状態で誰かが倒れたらどうなる?

 周りすべてがこの四人に依存する状態など、事業企画の視点で言えば完全な愚策だ。

 自分たちがヒーローになってはならない。

 そこまで考えて、後藤は自分の役割を理解した。

 たぶん、その事業企画的考え方こそ高次存在が求めているものなのだ。

 彼がやるべきことは、魔法を世界的事業として考えること。

 一握りの人物に依存する状況を作ってはいけないのだ。

 後藤だって、ヒーローが活躍する伝統的なプロットは大好物だ。

 しかし、これは現実。

 ヒーロー不在でも影響が出ない体制を考えねばならない。

 そのためには――

 この世界に魔法インフラを構築する。

 そのための企画を考える。

 それが後藤のやるべきことだ。

 侵食はすでにはじまっている。

 現代の日本人としては抵抗があるけれど、まずは軍備からはじめる必要がある。

 最初は、技術体系の構築と魔法兵力の育成だ。

 同時に、イデアの中で三好がやったように、武器を魔道具化することも研究すべきだ。

 そしてその運用も。

 行政は、資源としての魔子を管理する体制を構築しなけれなならない。

 一定水準の魔子が運用できるようになるまで、『官』で管理することを検討すべきかもしれない。

 あとはルール作りや専門家の育成も必要だ。

 こちょうの提案した、みゆきの種の運用法も並行して考えなければならない。

 後藤たちはアイデアを投げるだけにして、それを国や自治体が細分化してインフラを充実させていく流れを作る。

 安易にあれもこれもと場当たり的に手を出してはいけない。

 持続可能なようにインフラを構築するのだ。

 後藤はこうした展望を語った。

「これこそサスティナブルな企画。後藤氏さすがっす」

「コウちゃんが書く小説の主人公だったら一人で全部かかえこみそう」

「ちょ、真紀ちゃん、それは秘密っしょ」

「でも、良平さん、それって時間がかかりすぎない?」

「そうでもないよ。別の角度から見れば納得できると思う」

「別の角度?」

「この中では、一番最初に魔法が使えるようになったのは私。その私でも、魔法を使えるようになって、たった十日しか経っていないんだよ」

「そっか。新しくはじめる人と比べても、キャリアが十日しかちがわないってことね」

「そう。半年もすれば、大勢の人たちが追い付いてきて差はなくなる。我々より優れた人も出てくると思う。徐々に情報を開示して魔法を使える人を増やしながらインフラを強化していけば、いろいろな問題は自然に解消されていくと思う」

「ちょ、後藤氏、自分らのアドバンテージがなくなるん?」

「それでいいんじゃない?」

 思えば、後藤はずっと観察されていた気がする。

 高次存在によって。

 事業企画を担当する後藤に役目が振られたのは、持続可能な魔法社会の構築が期待されていたからではないのか。

 だとしたら、これが正解だ。

 後藤はそう確信した。


 後日、神楽は、世界に向けて三冊の電子書籍を発行した。

 この日後藤が語ったことを基にして。

   魔法学大系

   魔法資源論

   魔道具入門

 これら三冊の書籍は、後藤たち四人の共著ということになっている。

 彼ら四人は魔法時代のさきがけとして歴史に名を刻んだのだ。

 

 後藤良平は、すべての魔法の祖として。

 後藤みゆきは、植物をはじめ生命を司る生命魔法の祖として。

 三好浩一は、物質の具現化を含む魔道具学の祖として。

 三好真紀は、神霊をその身に降ろす神霊術の祖として。

 

 三冊の書籍が広まるにつれ、後藤の目論見通り、魔法は世界に浸透していった。

 世界には、魔法を有効利用するインフラが構築されていく。

 こうして、この世界に魔法の時代が到来したのだ。

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