新世界
「先輩、今日はよろしくお願いします」
「ひさしぶり、吉野。出世したね」
今日、後藤は吉野の所属する武蔵野テレビの番組に出演する。
いまの吉野はプロデューサー。
今日はその初仕事だ。
普通なら、後藤はこの手の仕事を受けない。
今回は、吉野の初仕事だというから、応援の意味で受けることにしたのだ。
「妻のみゆきです、こっちは娘のこちょうです。よろしくお願いします」
みゆきはマネージャー役を志願して後藤について来ている。
「こちょうでございます。よしなに」
こちょうは子どもらしいイントネーションで古風な挨拶をした。
「あ、どうも、後藤さんの後輩の吉野です。よろしくお願いします。こっちは今日のインタビュー担当の西野です」
「西野香奈です。よろしくお願いします」
後藤はふたりの雰囲気からなんとなく関係を察した。
「付き合ってるの?」
吉野はいい歳なのにもじもじしはじめた。
「えーと、はい」
「婚約しましたー」
西野さんは元気よく笑顔で答えた。
この日の番組の企画はかなり適当なものだ。
それでも、段取りを聞いた後藤は、吉野のプロとしての手腕に感心した。
番組のスタイルは先輩と後輩の雑談。
そういう形式で、台本もなく適当に話をする、ということになっている。
後藤に気づかせないよう、吉野が自然な流れを作っていくつもりなのだろう。
事前にすり合わせたのは、いくつかの話題を押さえておくということだけ。
後藤と吉野で昔話をしつつ、西野が魔法についての話題を引き出していく。
そういう筋書きだ。
生放送でやることには些か疑問があるが。
「吉野さんは後藤さんと同じ会社にいたことがあるんですよね」
西野が吉野に話を振った。
「そう。先輩と一緒に研究がしたかったのよ。でも、最初に配属された部署がね――」
こんなふうに番組の収録は進んだ。
そして、魔法に関する話題へと移る。
「最初に試したのはこんな感じ。家の中で火を出して、奥さんに叱られたけど」
後藤は指先に小さな火を出して見せた。
「お、すげー。先輩、それどうやればいいの?」
後藤は吉野に魔法の基礎を教えた。
「お、できた。俺も魔法使いになれた」
吉野の視線は西野に向いている。
吉野は番組だということを忘れ、「私」が「俺」になっていた。
「え、え、ゲンちゃん、すごい」
西野も番組だということを忘れているようだ。
いまは二人だけの世界に入ってしまっている。
彼らがそんな具合だから、立場が逆転して後藤が場の流れを整えなければならなくなった。
「こんなふうに、基礎を理解して正しくイメージすれば、あなたにも魔法は使えます。ただ、室内で火を使うと危ないので、最初は光で試してください。こんな感じで」
後藤はテレビカメラに向かって魔法の講義をはじめた。
「あ、すいません。仕事を忘れていました」
吉野が我に返った。
西野も失敗に気づき、なんとなく気まずい雰囲気になった。
そんなとき、こちょうがトコトコと歩いてきた。
「ちょっと、こちょうちゃん」
みゆきがちらりとテレビに映った。
こちょうはそのまま後藤のところに行き、膝によじ登る。
膝に乗り、にっこり笑顔で後藤を見上げた。
後藤はこちょうの頭を撫でた。
いまはこちょうが場を支配している。
彼女がいるだけで、気まずい雰囲気が解消されている。
彼女のおかげで、吉野と西野は立て直すきっかけがつかめた。
二人にとって、こちょうは救世主となった。
こうして、番組は、後藤の膝にこちょうを乗せたまま進められることになった。
番組放送後、後藤こちょうはネット上でアイドルとなり、ちらりと映っただけの後藤みゆきもまた有名人の仲間入りを果たした。
世の中に希望を持てなかった若者たちは、自分が魔法使いになる可能性を見出し、将来に希望が持てるようになった。
後藤家の関係を見て、自分たちもあんな家庭を作りたいと思うようになった。
こちょうが救ったのは吉野と西野だけではなく、番組を見ていた若者たちをも救ったのだ。
こちょうの出演をきっかけに、社会の雰囲気は大きく変わっていく。
まるで魔法のように。
この世界は争いの種が間引かれ、整えられた世界。
その中でも、後藤家は幸せな家族の代名詞のように語られ、その幸せは世間へと広がっていく。
ここは魔法のある世界。
同時に、住む人たち次第で、魔法のように楽しく幸せな世界にもなり得る。
これからの人びとは、そんな世界を夢見て未来へと進んでいくことになる。
ここは、願うことで夢を現実にできる世界なのである。
今回が表のエンディングで、次回は裏のエンディング(ネタばらし)となります。




