UAPウォッチング
「最近UFO見たって話が多いね」
「後藤氏、いまどきの言い方はUFOじゃなくてUAPっしょ?」
「未確認空中現象だっけ?」
「そうそう」
「でも、なんで物体が現象になったの?そういう事例が増えたとか?」
「例のブ〇〇チっぽい現象とかね」
「SNSが世の中に浸透して、その手の情報が氾濫したせいなのか」
後藤と三好の会話はしばらくつづき、話題はミステリースポットへと移る。
そして、一時期話題になった、「時間が止まる公園」の話にな。
「あれって、場所は白〇って話だけど、3つくらい説があるっしょ」
調べてみると、白〇公園、〇冶久保公園、あた〇公園の三カ所が検索に引っ掛かった。
「三つともそんなに離れていないね。今度、四人で行ってみる?」
「後藤氏、車出してくれるん?」
「いいけど、三カ所とも駅からそんなに遠くないから、歩きの方がいいんじゃない?」
三好はマップの縮尺を変えた。
「あ、ほんとだ。車をとめる場所がなさそうだし、電車のほうがいっか」
こうして四人はミステリースポット巡りをすることになったのだが――
「ここどこ?」
真紀が心細げに声を上げた。
「南に行けば白〇公園のはずだけど」
そういう三好の声も自信がなさそうだ。
四人は気づくと山道に迷い込んでいた。
〇糸の滝を見て、気づくとここにいたのだ。
白〇公園から白〇神社にかけては、確かに木々に囲まれた自然豊かな場所。しかし、道は整備されていて、こんな場所はないはずだ。
いまから30分前、後藤たちはスマホでマップを調べている。そのときは何の問題もなかった。しかし、いまマップを見ると、後藤たちがいるはずの場所は住宅地の真ん中。その周囲に林はあっても山があるはずはない。
「高いところに登ってみたら?上から見れば、ここがどこかわかるかもしれないわよ」
みゆきが指さしたのは山の頂上。
確かに目の前の小道は、その山の中へと続いている。
だが、それは現実には存在していないはずの場所。
後先考えずに立ち入って、戻って来られる保証はない。
「山で遭難したら登るのが鉄則って言うけど大丈夫なん?」
何がどうなるかわからないから、出入り口と思しき場所から離れない方が良い。
それが三好の考えだ。
確かに、この地の様子は普通ではない。
ありきたりな異世界という表現より、不気味さを加味した異界と表現した方が良い雰囲気なのだ。
三好の心配は当然と言えよう。
「頂上まで行かなくても、ある程度の高さまで行って下が見下ろせないかな?」
状況の膠着を避けようと、後藤は間をとる提案をした。
こうして四人は山道を進んだのだが――
「あそこに何かある」
みゆきの指さす方向には、人がかろうじて立ったまま入れるくらいの横穴があった。昔の人が人力で掘ったと思しき穴だ。奥にはさらに小さな穴があり、その中に何かが祀られているようだ。しかし、暗くてよくわからない。
その手前には、祭壇がわりに使われている木の机がある。その上には花が置かれ、火のついたろうそくが一本立てられていた。溶けた蝋の感じを見る限り、火をつけてからそれほど時間が経っていない。
つまり、近くに人がいる。
「人に会えればいいね」
みゆきは楽観的な口調でそう言った。
「とりあえず、参拝しておく?」
真紀の提案で、四人は机の上に小銭を置き、二礼二拍手を行った。
「よし、じゃあ、ちょっとだけ登るっしょ」
三好の言葉で四人は横穴から出るべく振り返った。
すると、景色が変わっていた。
そこから出口までの横穴はコンクリートで補強されている。
さきほどまでの手彫りの壁ではない。
おまけに、横穴はすぐ終わり、外が見えていた。
期待が沸き上がる。
横穴から出て整備された小道を歩いていくと、「南無不動明王」という幟が見えた。
真紀はスマホを取り出した。
「ここ、〇根不動尊だって」
もとの世界に戻れたのだ。
「あ、狐だ」
みゆきは来た道の方を見ている。
後藤たちもみゆきの視線の先を見たが、そこには確かに狐がいた。
「狸は東京の街中にもいるらしいけど、狐さんはいないよね?」
真紀は自信なさげにそう言った。
後藤には、その狐が、あの四人だけの世界で見た狐のように思えた。
「いつか見た狐よ。きっと。あの時の世界とつながっているのかな」
みゆきも後藤と同じように感じているようだ。
そのとき、後藤の頭にどこからか知識が流れ込んできた。
いま経験したような穴は、世界のあちこちに用意されている。
いざとなれば、そこに避難することもできる。
後藤はその情報を、三人に伝えようと思ったが、うまく話せるとは思えなかった。
どこから知識が流れ込んで来たのか、情報の出所が曖昧な話でもあるし。
だから、後藤は黙っていることを選んだ。
四人は神社の敷地へと入って行った。
が――
事はそれで終わらなかった。
「あ、UFOだ」
見つけたのは今回もみゆき。
彼女は感知能力に秀でているのだろうか。
「おお、三角型だ」
三好は感極まった様子だ。
「ねぇねぇコウちゃん、ベントラーベントラーってやらないの?」
「いやいや、ここ街中よ。不審者だと思われるっしょ」
三好夫妻はにぎやかだ。
彼らの声を聴きながらUFOを見ていたら、三角形の各辺がたわんで球形に変化した。
そして、その球形から、さらに小さな球体がいくつも分離して――
そのうちの一つが後藤たちの方に向かってきた。
「やべ、逃げる?」
三好の声に、皆は速足で駅のある方に向かう。
直ちに危険があるようには感じられないし、走って逃げきれるとは思えないから、四人は速足のまま距離を維持する。
しかし、追いかけられるのはどうにも不気味だ。
球体は距離を一定に保って四人を追って来る。
四人はちらちらと後ろを振り返りながら速足で歩きつづけた。
住宅街の道路が見えてきた。
目の前を車が静かに走っていく。
振り返ると、UFOは消えていた。
「何なんよ、あれ」
UFOに感動していた時とはちがって、三好の声には恐怖の余韻が感じられた。
「きっと狐に化かされたのよ」
三好とちがってみゆきの声には何の緊張もない。
ひょっとしたら、彼女はUFOに追いかけられるのを楽しんでいたのかもしれない。
さすがみゆき。
後藤はそう思った。
「ああ、UFOの写真撮るの忘れたー」
真紀の声にも、三好のような緊張はない。
どうやら女性の方が肝が据わっているようだ。
「UFOじゃなくてUAPね」
恐怖から回復したのか、三好がうるさくなった。
「コウちゃんさぁ、細かいこと言うとハゲるよ。ハゲたらリコンね」
「ちょ、真紀ちゃーん」
傍で見ている限り、リコンは明らかに冗談だ。
しかし、三好はそれを本気にしたらしい。
その慌てぶりは痛々しい。
ひょっとしたら、三好には、抜け毛の自覚症状があるのだろうか。
そう思い、後藤は三好の頭頂部をちらりと覗き見てしまった。
すると、そこには――




