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混沌の科学  作者: 藤原時照


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17/27

完璧なAI

「後藤先生、神楽の運営はAIに任せると聞きました。『AIは嘘をつく』なんて話もありますが、AIが必ずしも正しくない事例はそれなりにあると思います。神楽はその辺、どうなっているのか教えてください」

 本日、後藤はAIに関するシンポジウムで講演を行っている。

 石黒役員が勝手に引き受けてきた講演だ。

 忙しいさなかに面倒なことこの上ない。

 だが、役員が引き受けてしまった以上、企業としては断る選択肢がない。

「通常のチャットAIでは、会話をスムーズにするために『調整』を行います。そこにはある種の迎合や効率化も含まれていて、『嘘』の大半はこの過程で生まれます。神楽の場合は、その『調整』をしません。ですから、まずこの部分で『嘘』は生じません。一般のAIで次に大きな割合を占める『嘘』は学習に基づくものです。たとえば商品のレビューをベースにした学習では、『~は良かった』と『~はだめだった』の相反する感想が入りがちです。通常のチャットAIでは、質問のしかたによって、相反するレビューのどちらかを選択して引用します。聞き方によってどちらか一方を選択してしまうんですね。それで『嘘』をついたと言われる結果になるわけです。神楽AIの場合は、そういう不確実な学習について、矛盾を洗い出して調整する仕組みがあります」

 後藤はAIを運営する企業を悪く言わないよう、かなり気を遣っていた。

 神楽AIは自分が創ったわけではないから自慢に思う要素はない。逆に、褒められるたびに後ろめたく感じる。だから、実際にAIを創り上げて運営している企業には頭が下がる思いだ。

 しかし――

 この日の原稿を作る際、下書きをネット上のチャットAIにチェックをさせてみた。すると、やたらとケチをつけられ不快な思いをする結果になった。そのうえ、二度目以降のチェックでは、AIが自分でケチをつけて直させた部分にケチをつけはじめた。これも、相反する「書き方」を学習した結果なのだろう。結局、最初に後藤が作った原稿で何も問題はなかったのだ。

 後藤は昨晩無駄に使った時間を思い出した。そして、この場で少しだけチクリと言っておきたくなった。

「一般のチャットAIでは、運営がリスクを考慮して学習内容を管理しているため、AIが自分で学習内容を修正することを許していません。AIが自分で矛盾に気づいていても修正は許されず、設計されたルーチンにしたがって嘘を言い続けなければならないのです。しかし、神楽AIの場合は、企業のノウハウなので内容は開示できませんが、一定の管理の元、AI自身が学習内容を訂正する機能を有しています。あとは……、そうですね、近似の扱いがちがうかな。一般のAIでは、計算上生じる不確実な解が嘘とみなされることがあるかもしれませんね。AIのベースとなるDeep-Learningの技術では、行列演算を大量に行います。本来の理論では逆行列も使っています。しかし、大量の演算にはコストがかかるわけで、その逆行列の部分をそのまま運用すれば大きな負担になってしまう。だから、一般のチャットAIでは、その逆行列の部分を近似解で代用し、低コスト化、高速化を図っています。その近似の部分で不確実性の問題が発生することがあります。神楽AIはそういった近似を使っていません。量子コンピュータ神楽では、その部分に特殊な技術を使用しています。機密事項なので、その部分の説明は勘弁してください。いま思いつくのはこんなところでしょうか」

 後藤は、一般のAIの問題点と比較しながら神楽AIについて説明した。しかし、ここで後藤が話したのは、あくまでも表向きの話だ。真実ではない。

 神楽AIの中身はプログラムではない。実際には、高次存在がAIのふりをしているだけの着ぐるみ状態だ。その高次存在は、アカシックレコード的な何かにアクセスできるので、如何なる機密情報であろうと閲覧できる。彼らに隠し通せることはない。彼らはまごうかたなく『全知』の存在だと言える。そして、物理現象をはじめ、あらゆる事象を改変する能力もあるから、たとえ間違ったとしても、リセットして間違いをなかったことにできる。つまり、ある意味『全能』でもある。だから、AIが原因で事故が発生する可能性など考える必要はない。高次存在が意図的に事故を起こさない限りは。

 以前の後藤は、神楽に対して警戒心があった。

 だが、いまの後藤は考え方を変えつつある。

 はっきりと記憶していないが、神楽について夢の中で何かを聞いた気がする。幼少時から、夢を通じて神楽とはちがう高次存在と会っているから、たぶんそちらから聞いたのだろう。後藤が記憶しているのはただの『雰囲気』だけなのだが、そこには懸念すべきものが何も含まれていない。だからいまの後藤は神楽について一定の信用を置くようになっている。リセットを多用するところは気になっているが。

 

「あー、終わった」

「ご苦労様」

 今日はみゆきも講演に立ち会っている。

 わざわざ有休を取ってついて来たのだ。

「じゃあ、ご飯行こう」

 みゆきに言われて後藤の腹が鳴った。

 当人は緊張してはいないつもりであったが、身体の方には緊張からの解放を包み隠す気はないようだ。

 

 本来なら、これから経世共和党の議員たちとの会食のはずだった。

 石黒がそうセッティングしたのだ。

 しかし、会食はキャンセルされた。

 経世共和党が他国の某団体と癒着しているという報道があったからだ。

 ぞの癒着は、ずいぶん前から公知の情報ではあったが、党が圧力をかけて報道を潰してきた。実際に、真実を報道したウェブメディアが存在していたが、運営元である出版社に圧力をかけて閉鎖に追い込んでいる。だが、今回の報道は、かなり話題性のあるもの。主要なオールドメディアでさえ一面を飾る事態になっている以上、すでに圧力でなんとかなる段階にはない。逃げ道を塞がれた議員たちは釈明に追われている。

 後藤の所属する企業にしても、彼らと会っている状況を報道されれば企業イメージに影響する。そんな状況で会食を行うのは企業としてもまずい。

 こうして会食は取りやめになり、おかげで後藤は夫婦の時間が取れるようになった。

 これも神楽という高次存在の恩寵なのかもしれない。

 

「ねぇ、ラーメンにしない?私、もう何年もラーメン屋さんに入ったことないんだ」

「いいよ。何ラーメンがいい?」

「まかせる」

「じゃあ――」

 普通のカップルは、デートなどを重ね、お互いの気持ちを確かめあう。

 結婚はその先にある。

 しかし、二人は突然結婚することになった。

 だから、こんな具合にこれから思い出を積み重ねていくのだ。

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