表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/51

48話 新たな未来への祝杯

「王位継承に関する法を、改める」


 その言葉を聞いた瞬間、アランとヴィオレットの二人に緊張感が走る。

 ジュールはあらかじめ知っていたのだろう。落ち着いた様子だ。


 国王は静かに続けた。


「従来の慣習により、王位継承において男子が優先されてきたことは、皆も知る通りだ。しかし儂は以前より、性別よりも適性が優先されるべきではないかと考えていた。そして、アルマンをはじめとする重臣たちとも議論を重ね、先日ようやく結論が出た」


 次にどんな言葉が発せられるのか。

 アランに焦りが滲む。


「明日の発表をもって、王位継承については性別の如何を問わず、王の子に等しく継承権を認める」

「父上?」


 アランもヴィオレットも、驚いて国王を見た。


「その上で、いくつか決めたことがある。まず、アラン。そなたには、隣国へ留学してもらう」

「……!!」

「名目は他国への見聞を深めるという形だ。だが、それだけではない。己の弱さと向き合い、王族として何を守るべきか、改めて学んでこい」


 アランは目を見開き、何か言いかけて、口をつぐむ。

 そして、静かに頭を下げた。


「また、資質とこれまでの働きを踏まえ、現時点での継承権第一位は、第一王女ヴィオレットとする。これにより、アランは第一位の座を退くことになる」

「!!!」


 驚いてヴィオレットを見ると、彼女もまた想定外の流れに戸惑っているようだ。

 ややあって一度目を閉じると、小さく深呼吸をして、背筋を伸ばした。

 そして、国王を見て、言った。


「謹んでお受けいたします」


 そう答えたヴィオレットの表情は、国を支えるものにふさわしい、落ち着きと静かな自信に満ちていた。


 パチパチパチ……


 思わず私が拍手すると、横にいたシルヴァンが後に続いた。ジュールは「期待してるよ」と笑い、アルマンも満足げに頷く。

 初めは戸惑っていたアランも、やがて静かに拍手を送った。


「じゃ、そろそろ食事をはじめよっか」


 いつもの調子に戻ったジュールが、にっこり笑ってメイド達に指示を出す。

 王位継承順位の変更という歴史的な瞬間を目の当たりにしたというのに、ジュールの一言で晩餐室はいつもの空気を取り戻した。

 国王が王位や政務の中心から彼を少し離して自由にさせているのは、この飄々とした優しさを守りたかったからなのかもしれない。ふと、そんな気がした。


 すぐに前菜と乾杯の飲み物が配られ、私たちは国王の合図でシャンパングラスを手に持った。


「今からは、お祝いの席だからね。暗い顔は禁止!」

「そうですわね、ヴィオレット様の新たなお立場を……」

「そうじゃないよ、セリエちゃん」


 ジュールが柔らかく私の言葉を遮る。


「確かに継承順位の変更は大きな出来事だが、祝うというより、これからの決意だ。それより、もっとあるでしょ?」

「ああ、ついにヴィーニュ家が快挙を成し遂げたのだからな」


 ギヨームも満足そうに頷いて私たちを見た。


「ヴィーニュ辺境伯、および、辺境伯夫人。特級への格付け変更、本当におめでとう。今夜は存分に飲み、そして食べてくれ。では、サンテ!」

「サンテ!」


 それからの食事の時間は夢のように過ぎていった。

 最高級の食材を使った料理は美味しいだけでなく、学ぶところも多いのだが、考えるより先に次の一口に手が伸びてしまう。

 そして何より、今日の食事に合わせてジュールが選んだワインの素晴らしいこと!

 もちろん、今日のメイン料理に合わせて開けられたのは、シャトー・ヴィーニュ・ミレジム・ド・シルヴァンだった。

 グラスに注がれた深い赤を見た瞬間、シルヴァンの横顔がわずかに揺れた。


 前世で死ぬ直前に「ベルノワール王国の食事が食べてみたい」と願ったことは、今日この時に完全に叶えられたと言っても過言ではないだろう。

 本当に美味しく、そして幸せな時間であった。


 ◇


 宿に戻ると、クロードやロゼットはすでに床についているようだった。遅くなるし、今日は特に疲れているだろうから、先に寝ているようにと伝えておいたのだ。

 私とシルヴァンは部屋に入るとすぐにソファに腰掛け、どちらからともなく、そっと寄り添った。


「やっと、終わりましたね」

「ああ。終わったな……」


 シルヴァンが、充足を滲ませた息をついた。

 私も深く息を吐いて、目を閉じる。

 この数ヶ月の出来事が脳裏をよぎる。彼に嫁いだのがずっと昔のような気もしたし、ついこの前のことのような気もした。


「領地に戻ったら、次は収穫祭と結婚式だな」


 シルヴァンが私の手をそっと握った。

 私を守る、頼もしい手のひらだ。


「ワインの取引も、きっとたくさん申し込みがありますわ」


 温かな手のひらを、私も握り返す。


「忙しく、なりそうだな」

「そうですわね」


 この先、どんなに大変でも、忙しくても、きっと乗り越えられる。

 今やかけがえのない存在である、あなたとならば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ